第43話 足並みの揃わない冒険者達




 勃発した、冒険者VSギガントマッドナマズの戦い。

 まるで総力戦のようであり、熱いバトルが行われるように期待するかもしれないが、それは有り得ないことだ。

 この場にいる冒険者の数と質的には、Aランクモンスターが一体いる程度、容易く狩れるほどの戦力差がある。

 しかも、それは魔剣無しの状況でだ。

 言わずもがな魔剣を使えばあっさり終わる。そして、魔剣を所持している者も少なからずこの場にはいた。

 

 なのにも関わらず、時間が経った今現在も、ギガントマッドナマズは多少の傷を負っているが元気に生存しており、冒険者達は苦戦を強いられていた。

 矛盾しているが、理由は二つある。


 一つ目は、あまりの激臭によって近付くことが出来なかったこと。ここにいる冒険者達は、遠距離攻撃が出来る魔剣を求めてやまない近接攻撃しか出来ない者が多く、激臭が彼等にとって効果がてきめんであり、それが原因で攻め切れないのだ。


 二つ目は、損得感情だ。魔剣を使えばさくっと倒すことが出来るのだが……。

 Aランクモンスターではあるとはいえ、ギガントマッドナマズは臭いこそアレなものの、早急に対処しなければならない程のモンスターかと言われれば疑問が残る。 

 ここに集まった冒険者達の中にも、魔剣を所持している者はいたが、彼等の中にUR以上の魔剣を所持している者は一人も居らず、回数が限られているSR魔剣を持っているのみであった。それ故に、この緊急時でもない状況で使うことを出し渋っているのである。


 この二つの理由から場は停滞していた。


 

 しかし、そのように冒険者達が迷っている間にも、ギガントマッドナマズは容赦なく攻撃を仕掛けてくる。

 モンスターに人の事情などは関係ないのだ。

 

 もっとも、動きがノロいことと、最前線は高ランク冒険者で固められていることで、彼等がヘイトを買っているため、犠牲者は今の所、大して出ていない。


 しかし、ギガントマッドナマズには一つだけ危険な技がある。

 それが――――吸い込んだ大量の泥を濁流のような規模で飛ばしてくる攻撃だ。


 予備動作として、沼の泥を吸い込むという判別出来る行為があるので、あらかじめ予想して避けるのは可能だが、このまま倒せずに時間だけが経っていると、いつかは当たってしまう者も増えていくことだろう。


 つまりは時間の問題でもあったのだが、彼等とて中層にまで来ることの出来る経験豊富な実力者。退き際を誤ることは無いので、このまま戦い続けても、戦線が崩壊する前には退却し、装備を揃えてから再挑戦をするだけだろう。


 

 それは“円卓”においても当てはまる。

 掲示板においても魔剣を獲得する最有力と言われている“円卓”が現状を打破出来ないのは――――


「しまったな……人選ミスだ」


 困り顔で呟くアーサー二世。それを聞いた他三人も口々に返答していく。


「空いてた四人が、全員近接攻撃しか出来ないってなった時には少し不安だったが、的中するとはなぁ……中層の序盤と聞いて、正直舐めてた」


「危機的状況……掲示板に書き込むか」


「うぅ……臭いっ!? あのっ……魔法使いジョブの仲間を連れて再挑戦するために帰りませんかっ?」


 そう――“円卓”の今回のメンバーは全員が近接攻撃しか出来ないという脳筋の集まりであり、現在打つ手がなかったのである。




 こうして――――今回は準備不足だったと、冒険者達は撤退を――――



 

 ――――しなかった。 


 ――冒険者達の脳に諦めという言葉がちらつく中、この男が動いたのである。

 誰よりも魔剣を欲している男――魔法好き好き戦士が。


「俺とて臭いのは苦手だ。だが、至近距離にいる朱寧はもっと臭いはずだ! 朱寧のことを思えば、これしきの臭い……!」


 相手が物ではなく、女の子であったのならときめく? かもしれない。だが朱寧まけんは物に過ぎず、臭いを感知するような機能なんてついていない。


 魔法好き好き戦士はギガントマッドナマズ目掛けて一直線に突撃する。

 臭いのだろう。顔を歪めている。だが、それでも歩みを止めることは決してしない。


 そして――


「ッ――【強打】!!」


「ギーーーーッ―――――――」


 魔法好き好き戦士のジョブ『戦士』のスキルである【強打】が泥を啜っているギガントマッドナマズの横腹に打ち込まれた。


 魔法好き好き戦士の渾身の攻撃を受けたギガントマッドナマズは、その勢いにより横へと横転することとなってしまう。


 【強打】というスキルの効果は、普通よりも強力な一撃になるというシンプルな効果だが戦闘では大活躍するスキルである。 

 最近鍛え直し、筋肉をつけたことでパワーアップした魔法好き好き戦士の一撃がさらに強力になり――それはギガントマッドナマズが悲鳴を上げるまでの一撃となった。


 魔法好き好き戦士の努力は実を結んだのである。彼は筋肉は決してニセ筋肉などではなかった。

 ――この一撃を受けたのが、並みのモンスターなら一溜まりもなかっただろう。

 だが、ギガントマッドナマズは腐ってもAランクモンスター。その耐久力は並みの物ではない。 

 まだ生きて残っている。


 

 しかし、意味がなかった訳ではない。憎むべきギガントマッドナマズが少し吹き飛ばされたのを目撃した冒険者達。


 彼等の心にも再び闘志が宿る! 

 


 魔法好き好き戦士の後に続くように他の冒険者達も――


「くそっ……せっかくここまで来たんだ……!! やってやろうじゃん……!!」


「こんな目に合わせやがったクソナマズに報復してやる……!」


「魔剣の為だ……仕方ないよなぁ……気が重いぜ」


「臭いのがなんぼのもんじゃい!!」


 と、臭いに参りながらもギガントマッドナマズを倒すべく、耐え忍ぶ覚悟を決めた。

 

 魔法好き好き戦士の活躍により、停滞していた戦いが動き――――冒険者VSギガントマッドナマズの第二ラウンドが始まる!!



―――――――――――――――――――

 


 やめて! ヘドロ以上の臭いを嗅ぐことになって怒り狂う高ランク冒険者達が覚悟を決めたら、瞬殺されちゃう!

 

 お願い死なないでギガントマッドナマズ!


 お前が次話の始めで描写もなく倒れたら、ただのヘドロをバラまくだけの汚物で終わっちゃう!?


 ――――以下略。


 


 次回「ギガントマッドナマズ死す」ディスタンバイ!

 


 

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