第42話 ヘドロはみんな嫌い



 ダンジョン中層。

 Cランクの冒険者であれば複数いなければ、辿り着くことが出来ない地点。この地を踏むことが出来るのは、数多くいる冒険者達の中でも数が絞られる。

 二見が生きて中層に来れたのは、Cランク冒険者の三人が引率してくれたおかげである。


 あくまで上層はお遊びのようなものに過ぎず、真にダンジョンの猛威が振るわれ始めるのは中層からであり、ここからが本番だと中層に潜る冒険者の中では言われている程だ。

  

 そんな――なかなか人が訪れることができない幻の地みたいな扱いを受けている中層だったが、この日は違っていた。

 池(沼)に沈んでいる魔剣をサルベージしに来た冒険者達がそこら中にいるからである。


 冒険者達はそれぞれ――手には釣り竿を持っているものもいれば、手で網を投げている者など、多種多様な方法で魔剣を手に入れようとしていた。


 

 尚、池と沼の判別方法が、汚染度で判断するのであれば、これは沼である。

 その水は透明感が欠片もなく、水中はまったく見えない程であり、その水質は終わっていた。

 ただでさえダンジョンの水ということで、得体が知れず、こんな濁っている水に潜ればどんな体調不良陥ってもおかしくはない。

 沼に潜った冒険者は大丈夫なのだろうか?



 


 

 ところで――モンスターといえば、かつて魔法好き好き戦士が大声で笑いながら派手に戦ったことで、イエティという普通よりも強力なモンスターを引き寄せてしまったことがある。このように、冒険者の出す音に反応して押し寄せてくる場合が多いのである。


 故に――――こんな大人数の冒険者が一つの階層に集まって物音が鳴り響けば、こうなることは決まっていたのかもしれない。



 

 この階層の中で中央にある最も大きい沼――――その、ただでさえ濁っていた水がさらに急激に濁っていく。もはや水ですらないヘドロのような泥が溢れかえるという明らかな異常自体が起きている。


 そして――そこからゆっくりとナニカが頭を出した。それはナマズのような形をしたモンスター。

 だが一つ明らかに異なっている点があった――その大きさである。

 頭だけでもこれ以上ないほど巨大だったが、そこから伸びている髭ですら、電柱並みの太さだった。


 このモンスターの名前は“ギガントマッドナマズ”。ランクとしてはAランクに分類されるモンスターである。


 Aランクモンスターは本来――中層の初めにはそうそう現れるランクのモンスターではない。

 元から沼の底で眠っていたのかどうかは分からないが、このダンジョンゴミ拾いオフ会が刺激となって、このマッドナマズはその影響で目覚めたイレギュラーなモンスターなのだろう。


 

 ギガントマッドナマズ――このモンスターを倒そうとする冒険者の数はまずおらず、基本的にスルーする。

 巨体だが、動きはそこまで素早くないので逃げやすいというのもあるだろう。


 そして一番の理由としては、このモンスターは――――臭いのだ。ひたすらに臭い。

 ヘドロを生み出すようなモンスターというだけあって、ヘドロを何倍にも凝縮ような臭いを常に放っている。


 このモンスターの厄介な点であるヘドロ以上の臭い。それが戦闘において足を引っ張ってくる。

 人間は、臭いと集中力に支障をきたしたりしてしまうものである。

 片手で鼻を押さえても、防げるような臭いではない上に、もし片手で鼻を押さえようものなら、片手しか自由に使えなくなってしまう。実に厄介な特性だった。


 だがその反面、物理的な攻撃は大したものではない。

 無駄にしぶとく、倒した後も臭いで体調を崩したりし、その後の戦いに悪影響を及ぼすという面が大きいのが、ギガントマッドナマズがAランクモンスターと認定されている理由だった。 



 総じて――――普通に関わりたくない系のモンスターである。


 事実、この場にいる冒険者達総力をあげれば倒せるだろうという確信はあるが、誰も攻撃しようとする者はいなかった。やる気を削がれている。


 だが――今回、この場にいる冒険者達は、そんな害悪モンスターを倒さなければならない理由があった。


 あってしまったのだ。



――――――――――――――――――



「クッッッセェェェェェェ!?」


「う゛っ……臭い。もう最悪だよこの臭い……、今日のところはもう帰ろうかな……」


「臭いを嗅いだだけで吐き気がする……」


 冒険者達は、ヘドロを凝縮したような臭いに鼻を押さえても尚、悶絶していた。



 そうした帰還を考える冒険者が増える中――――、


「…………なぁ、嘘だと言ってくれよ……」


 始まりは、一人の冒険者が気づいたのが始まりだった。


「どうした?」


「……あの臭いナマズの頭の近くに魔剣らしきものが刺さってるんだけど……これ俺の目の錯覚だよな!? 」


「…………言われてみれば、たしかになんかあるな」


「ってことは……? あれを倒さないといけないってこと??」


「いやだぁぁぁ!!! 少し離れててもこんなに臭いのに、もっと近づくなんてぇぇ!!!」


「ははっ……やりたくねぇ」


 

 

 臭いAランクモンスター、ギガントマッドナマズ。


 相対するのは、“円卓”の精鋭、魔法好き好き戦士、ハルカ、その他大勢の冒険者達。


 ハルカはなんとか間に合ったようだが、タイミングが良いといえばいいのか、悪いといえばいいのか微妙な時に到着している。


 こうして――――二見のLR魔剣を巡っての、ギガントマッドナマズとの戦いが勃発した。

 ヘドロを優に凌ぐ激臭を乗り越え、LR魔剣を手にする者は現れるのだろうか――? 

 


 










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