第36話 魔剣欲しい人、全員集合!



 その日――とある水系ダンジョンに過去最高人数の冒険者が訪れた。

 ダンジョンの入口近くで団子のようにかたまり、今か今かとスタートダッシュを決めようと場所取りに必死になっていた。筋肉ムキムキの冒険者達がおしくらまんじゅうをしているようなその有り様は傍目から見たら暑苦しく極まりない。

 しかも、その数はざっと見ても数千人である。

 

 その理由――それはそのダンジョンの中層にLR魔剣が落とされているためだ。

 田中達のガチャ屋の時よりも、沢山の人が来ているのは、おそらく無料で手に入る魅力と魔剣をゲットしたら、LR魔剣確定のためだろう。


 彼等にとってこのオフ会は、LR魔剣確定ガチャなのかもしれない。



――――――――――――――――――


 

 数千人の冒険者達が集まっているものの、全員が全員、ダンジョンに潜って魔剣を手に入れようとしている訳ではない。

 冷やかしに来た者、実力不足で魔剣は諦めているものの、祭り気分でいけるところまでついて行こうとしている者等、目的は異なっているのだった。


 集まった冒険者達の実力は玉石混交であり、どう考えても中層まで行けない、昨日冒険者を始めたような者から、世界に名を馳せる有名冒険者までもが一同に集っていた。



 もちろん――ガチャの常連さんである彼等、リピーター(鴨)も来ている。


「朱莉の家族――正直、鍛錬はまだ充分とはいえないが……池で一人でいる親友の家族である彼女をどうして助けずにいられようか!!」


 またしても、魔剣を女の子扱いしている不審者――魔法好き好き戦士。


「皆さん! 今日は集まってくれてありがとうございますっ!」


「「「「ハルカちゃんにLR魔剣を!」」」」


 スパチャから、魔剣捜索まで何でもこなしてくれる選りすぐりの視聴者(奴隷)の援護を受ける人気配信者――ハルカ。

 ……彼女はそろそろハルカスに名前を変更すべきではないだろうか?


 なお、ポーション愛好家だけは来ていない。ポーションが沈んでいるのであれば勿体ないとでも言って、来たかもしれないが今回は魔剣のため不参加である。

 今はお家で転売されてるポーションをちびちび呑んでいる。

 

 

 そして、集まっているのは日本人冒険者が基本だが、外国人冒険者も少しはいた。

  

「おいっ!? あそこにいるのって……!?」

 

「は!? マジかよ……あれはイギリスの上位冒険者達がたくさん所属する同盟“円卓”のメンバーじゃねぇか!?」


「なんでここに!?……ってそんなの決まってるか……LR魔剣だよなぁ……くそっ……ここに来て思わぬ強敵が現れたか……」


「円卓? そんな有名なのか?初めて知った」


「バカやろうっ! 騎士ジョブについた奴らが集まったイギリス最強格の同盟だぞっ!?」


 同盟――それはパーティーよりも一つ上のまとまりである。パーティーであれば、二桁もメンバーはいないが、同盟は二桁以上の冒険者達が所属しているまとまりだ。

 “円卓”は、イギリスでも屈指の同盟であり、Aランク冒険者やBランク冒険者が複数人所属している、日本においても名が知られた同盟でもあった。


 そんな精鋭を揃えた同盟から今回――1パーティー分、計四人が来ていた。その四人全員が騎士風の装いを身に纏っている。そう、彼等は騎士をリスペクトしているのだ。


「日本では、最近魔剣を排出するガチャ屋が出来たと聞いてまわしにきたのだが……まさか来た早々にこんなラッキーなイベントがあるとはね。さすがは、情報を仕入れ担当のアグラヴェイン二世だ」


 物語に出てくる王子様のような、金髪の無駄にイケメンな青年。“円卓”のリーダー格である、アーサー二世。


 尚、彼等は本気度を伝えるためか、アーサー王伝説の登場人物に二世を付け加えた名前に改名している。提案はアーサー二世が強行しており、他の者がどう思っているのかは不明である。


「炎の魔剣……それさえあれば、“円卓”の中で最も影が薄い人とか言われなくなるかもしれない……!

 ガラティーンは太陽に関係した剣らしいし、炎の魔剣と言っても過言ではないのでは……?」


 普通の人といったふうの男で、影が薄いのを気にしている、ガヴェイン二世。

 尚、ガラティーンは聖剣である。彼はあまりアーサー王の物語について詳しくないのかもしれない。


「……はははっ」


 スマホをじっと見つめて時折、けたけた笑っている男は、アグラヴェイン二世。

 掲示板を常に張っており、気になる情報があればアーサー二世に報告している情報仕入れ係()だ。

 尚、掲示板の情報ということもあり、正確性はお察しである。


「うぅ……緊張する……」


 緊張しているためか、おどおどしているのはアーサー二世の実の妹である、モードレッド二世。

 兄にの容姿に似て、整った顔をしている金髪の美少女である。

 尚、モードレッド二世と呼んでも、自分の名前だという自覚がないのか、反応しない時が多い。


 ――以上が、今回来た“円卓”のメンバーだった。ここにいるメンバーだけで既に半分が改名に不満を持っていそうだが大丈夫なのだろうか?



 


 そして最後に――


 今回のオフ会が開かれることとなった立役者ともいえる人物。二見勇気もまた、この場に来ている。


「フザケンナッ! 蠅みたいに集まってきやがってよ! 俺の魔剣なんだから、お前ら回収したら返しやがれ! そしたら、俺がそのパーティーの仲間になってやらんこともないぞ!」


 騒ぎ立てる二見。しかし、日頃からダンジョンという場所で命を懸けて戦っている冒険者達は倫理観が欠如している者が多い。

 その上、掲示板のスレ民ばかりだったため、できた人間はほとんどおらず、まともに取り合うものは少なかった。


「なんか言ってらー」


「俺の方が彼奴よりも使いこなせるんだし、魔剣も本望だろうよ」


「あー、楽しみだぜ! 早く始まらねーかなー!」



 ここからは、実力が全てである。魔剣を無くしてしまった自称“最強の魔剣士”二見。

 ゴブリン級の強さを持った彼がどこまで食い下がれるのか見物である。


「俺だって!……俺だって、魔剣が無くたって強いんだ! 俺の隠された真の実力を思い知らせてやるぅー!!」


 

 

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