第35話 葛藤
二見の魔剣喪失から、数日。
しかし、数日しか経っていないにも関わらず、ダンジョン掃除関連のスレは立てられ続け、凄まじい早さで消費されていった。
そして――話は掲示板だけに収まらない。掲示板を見た冒険者が仲間にも伝えたことで、普段は掲示板を見ない冒険者達にまで知られるまでになり、一気に広まっていくこととなった。
LR魔剣の情報(宝)を求めた冒険者達は次々と掲示板の住人となっていく、世はまさに“大掲示板時代”。
冒険者の多くが掲示板の住人となった日本。
――日本の冒険者はもう終わりかもしれない。
――といった具合で、二見のLR魔剣を手に入れようと画策する冒険者達はたくさんいるのであった。
冒険者は各自、水系ダンジョンの巨大池に沈んでいる魔剣を引き揚げるための準備を考えているようで――、
例を挙げると、強靭な釣り道具を用意して釣ろうとしている者。ゴーグルと水着を持って行こうとしている無謀すぎる者。投げ網で回収しようとしている者。
――等々、それぞれが最適だと考える道具を用意しようとして、当日までに間に合わせるべく、駆けずり回っていた。
ゴーグルと水着を用意しようとしている冒険者達は一見すると無謀にしか思えないが、もしかしたら、それを選択した冒険者達には何か考えがあっての行動なのかもしれない。
用意した物のうち何が正解なのか――それは実際に魔剣を回収するまでは誰にも分からない。結果が全てを語ることとなるだろう。
無料でLRの魔剣を手に入れることが出来るという千載一遇のチャンス――――これをモノにするのは誰になるのだろうか。
――――――――――――――――――
「いいなぁー。楽しそうだなぁー。爆死を見るのもいいけど、ダンジョンにみんなで集まって物を探すのって宝探しみたいで憧れる……!」
前述した通り、二見の魔剣喪失は掲示板にて騒がれ、ダンジョンを掃除するという名目のもと、実質魔剣探しオフ会の開催が決定されるのだった。
オフ会には、沢山の冒険者が参加すると予想され、毎日の掲示板は、まるでお祭り騒ぎのようになっていた。
そんな中、魔剣を作った張本人である田中はというと――――このオフ会に対して、悪くは思っておらず、むしろこのオフ会に興味を示していたようだったが……
「でも行ったら、やっぱ駄目だよなぁ……」
何故か、行っては駄目だという考えもあるようで、「参加したい、いやでもやっぱ駄目だ」、といった感じでずっと悩み続けるというジレンマに陥っていた。
そんな思案を繰り返す田中に、灰華は呆れたように見つめ、悩む理由を聞いた。
「駄目な理由でもあるの?」
そう――気になるのならば、行けばいいのである。オフ会といっても、ダンジョンに潜るだけであり、食べ物を食べに店屋に行く訳でもないので、お金も必要はなく。
そして参加者の規制も無かった。低ランクの冒険者の参加は推奨しない、といった安全面での規制はありそうだが……
冒険者は血の気が多い者が多いため、言っても聞かない者が多いと考えたためか、全ては自己責任ということで、参加が可能である。
冒険者である以上、自分の身は自分で守れということなのだろう。
そんな、冒険者なら全員が参加出来る条件のオフ会だというのに、何故悩む必要があるのか。
灰華の疑問に対して、田中は自分の考えを伝えた――
「こういうのに、俺ら運営側が参加するのってなんか駄目じゃない……? 灰華もいるし、手に入れれる確率は高いだろうけど、手に入れてもなぁ……」
「……ところで。その人達の目的のLR魔剣って自分でいくらでも作れるでしょ? なのに欲しいの?」
「……いや、普通に要らない。自分で折った折り紙の鶴みたいな感じかな。
――何時でも自分で作れるし……まったく魅力に感じない」
「……? 何で参加したいの?」
「なんか子供時代に好きだったお宝探しみたいで、面白そうじゃん。しかも大人数来そうだし、絶対楽しそう!」
「たしかに参加者多いね」
「まぁ人は、一獲千金という言葉に弱いからな。人間とは、お宝探しにロマンを感じてしまう生き物なんだ」
実際、お宝探しとはまさにロマンの塊であり、人は誰だって一度は憧れた筈である。現に秘宝や埋蔵金、海賊の宝などを探している人達は一定数いる。
「……そう」
「とは言っても、みんなが真剣に探してる中、特に欲しくもないのに参加して、夢を潰すのは可哀想すぎる……。しかも俺が作った物だし……。やっぱり参加はやめとくか」
「そう。じゃあ見物だけする?」
「……場の雰囲気に呑まれて、ノリノリで乗り込み予感しかしない」
「たしかにやりそうだね」
こうして――――さすがに自重した田中は泣く泣く、今回の楽しそうなイベントを諦めることを決心した。
しかし、誰が手に入れたりしたのかについては気になる田中だったが――
「掲示板で状況を報告するって人がいるみたいだし……現地の雰囲気は味わえないのは残念だけど、掲示板を見るだけにしとくか」
当日は掲示板に参加するということで、自分を納得させるのだった。
冒険者達にとってはこの上ない朗報だろう。少なくとも、運営が勝利して終わるという、あんまりな顛末は訪れないのだから。
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