第26話 ポーション=スープ?



 ガチャをまわす者なら、聞いたことがあるであろう言葉――――それが物欲センサーである。


 物欲センサーとは、欲しいと願った物がいくらやっても出なくなるという、悪魔のようなセンサーであり、都市伝説のような物に過ぎないが、実感している犠牲者はたくさんいると思われる。


 そんな物欲センサーの犠牲者が今日もたくさん出ているが、一つの例外が起きた。

 本人にとっては目当ての物が出なくて残念に思っているのかもしれない。

 だが――普通の冒険者基準、いや世間一般で見るならば、一番の大当たりを当たっているという事態が。



――――――――――――――――




 第二弾ガチャ、このガチャにおいて何が目的でまわしているのかと100人に尋ねたのなら、100人が魔剣と応えることだろう。


 しかし、ここに一人の例外がいた。


 巨大なガチャガチャの前に佇む、一人の女性。

 170はある身長に、黒く長い髪、鋭い眼差しの美人だった。

 そんな彼女は、高そうなスーツという冒険者には若干相応しくない服装を着て、この場に立っている。

 一見するとただのOLのようであり、来る場所を間違えてるようにしか思えない人だが、その目的もまた他者とはズレていた。


「この日を楽しみにしていたわ……。あぁポーション――今までにないスープ……一体どんな味がするのかしら……?」


 そう――この女性は魔剣を欲して来たわけではない。ポーションを味わいに来たのである。 

 彼女は一応冒険者でもあるのだが、同時に美食評論家でもあったのだ。ここからは略して、評論家と呼ぶことにしよう。


「少し、騒がしいわね……。食事をするのだから、もう少し静かにしてほしいものだわ。オーナーに後で伝えるとしましょう」


 何故スーツを着ているのだろうか?という疑問があったのだが――もしかしたら、彼女はここを高級料理店か何かとでも思っているのかもしれない。


 【祝】田中は怪しいガチャ屋の店長から、高級料理店のオーナーへと昇進?する。




「さて――ガチャで食べ物を頼むなんて初めての経験ね……。ポーション一杯にいくらになるのかしら?まぁ時価みたいなものかしらね……問題はないか」


 評論家は腕を組んで少し考えた後、うんうんと頷いて、何やら納得した様子だった。


 そして――ついにガチャガチャのハンドルへと手を伸ばし、ゆっくりとまわしていき、中から出てきたカプセルを手にとって開けた。


「あら……キーホルダーかしら、ハズレね」


 次から次へとガチャをまわしていき、


「ふふっ、やっとポーションが出てきたわ。 ……でも思ってたよりとろみが無さそうね? そもそもポーションってスープだと思ってたけど、もしかしてドリンクなのかしら? まぁ飲んだ後に判断すればいいか。

さぁテイスティングの時間よ」


 小さめの試験管のような形の容器に入れられたポーションの蓋を開封し、ポーションを彼女は一口含み――――首を傾げた。


「なにこれ……今までに感じたことのない味ね。美味しいのか、まずいのかさえよく分からない……。――――――――――――――――――――――――――――――あら、もう飲み終わってしまったわ……もっと飲まないと判断は出来ないわね……。」


 評論家は続けて、ガチャをまわしていき――――その内の一回で、冒険者達がガチャで望んでいた物、引換券を当てていた。

 しかし、評論家としては食べれもしない魔剣にはそこまで興味は持っていないので、バッグに雑に入れた後、すぐにポーションを求めて、ガチャをまわし続ける。


 そうして出たポーションを次々に飲み干していき――――ガチャ上限までまわしきった評論家は、最後に当てれたポーションを最後の一滴まで飲み干し、しばらく沈黙した。


「…………ようやく分かったわ。

 ポーションは―――――――珍味のようなスープ、そう表現するしかない。悔しいけど、上手く味の表現が出来そうにないわね。

 でも、やみつきになるような素敵なスープだったわ。できれば、まだ飲みたいのだけれども……」


 そうポーションを結論付けた評論家は、田中達の下へと向かい、

 

「御馳走様、オーナー。ポーションは、今までにない素晴らしいスープだったわ……」


 うっとりとした表情でポーション(スープ)の味の感想を伝えた。


「……そうでしたか、良かったです」


「次に店を開く時にも、必ず行くわ。

あとアドバイスだけど、あのスープはご飯にも合いそうだし、ガチャでご飯と一緒に出るようにするのはどうかしら? いや……待って醤油も付けるべきかもしれない」


「はぁ……アドバイスありがとうございます。…………あのー、ところで引換券を当ててませんでしたか? 」


「あら……そういえばそうだったわね。すっかり忘れてたわ」


 バッグからカプセルを取り出して開いて、中身の引換券を見ると――


「これは…………LRの魔剣ね。」


「お……おぉー! おめでとうございます!」


 周りもLRの魔剣が出たことを知り、一気にざわめいていく。

 



 そして、あっさりとLR魔剣の引き渡しが完了する。


「困ったわね、私はそこまで冒険家としての活動はしていないし……。この魔剣ってポーション一年分と交換してくれたりって出来ます?」


「え……いや、それはちょっと……」


「それは残念ね……。

 一応持っておくことにしましょうか……あら、もうこんな時間。それでは失礼しますね」


 軽く頭を下げ、嵐のようにやってきた評論家は最高レアの魔剣をついでのように当てて去っていった。

 いや、もはや評論家ではなく、「ポーション愛好家」と呼ぶ方が正しいのかもしれない。

 


 なお、一連の会話を黙って聞いていた灰華がポーションを飲んで味を再確認したが、


「やっぱり変な味。美味しくない」


 一般人にとって、ポーションは美味しいというわけではないようだ。


「だよなー。てか、ポーションをスープ扱いってやばいよな……。はぁ、なんか今回は変な人がよく来るな……」


 魔法好き好き戦士に加え、今回からポーション愛好家という変人がリピーターとなってしまい、田中達が今後振り回されることが確定した。

 


 

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