第25話 すり抜け被害者達のドラマ
田中達の第二弾ガチャが開店してから、しばらくの時間が過ぎた。
その間にも、冒険者達はガチャをまわしていき、たくさんの爆死者と僅かな勝利者が生まれ、ガチャを巡る様々なドラマが生まれている。
――まぁ田中達の確率操作と強化パーツの追加によって、前回よりも爆死者の割合がさらに多く、場の雰囲気は相対的に見ると、酷いものと言えるため、さながら悲劇の物語というべきなのかもしれない。
そしてその中でもひときわ絶望している者達がいた――――それが引換券が当たってぬか喜びをさせられた冒険者達である。ガチャ後の彼らはただただ可哀想な有様だった。
――――――――――――――――
実例として、三人の仲間達に応援されながら、ガチャをまわしている冒険者を挙げよう。
「はぁ……またキーホルダー……いい加減にしてくれよ、魔剣が全然出る気配がない…」
ガチャをまわしている冒険者は、何度もキーホルダーを当ててしまい、ショックを受けている様だった。だが、彼には励ましてくれる仲間達がおり――
「頑張れ!! まだここからだ!!」
「あなたならいけるわ! 事前にパーティーのみんなで勝ち抜けジャンケンをして二回連続で勝ったじゃない! 今日のあなたは相当運がいいわ!」
「それだけじゃないぜ。 お前は今日の星座占いのランキングで一位をとってる。 これだけの条件が揃ったお前だからこそ、俺達のお金もお前に託したんだ。俺は、お前ならやってくれるって信じてる!」
「プレッシャーが重い……。でも、たしかに今日の俺はツイてる気がするし、いけるかも。よっしゃ、次まわすぞ……!」
「その粋だ!!」
「ファイトよ!」
「魔剣を頼んだぞ!」
気合いを入れてハンドルをまわす冒険者、そして出てきたのは――
「え……これもしかして、きた!?」
カプセルの中にあるのは、目が腐るほど見てきた、キーホルダーやボーションには見えなかった。そう、つまりは消去法で引換券である。
「やったな!! 俺達もついに魔剣デビューだ!! 」
「あなた、本当に最高よ!」
「さすがだぜ! 」
「へへっ、ありがとう……みんな!!
だけど、これは俺だけの勝利じゃない! みんながお金を出してくれたからこその勝利なんだ!
だからさ――みんなで一斉に開こう!」
「嬉しいこと言ってくれるな!!」
「これから、私達の栄光が始まるのね!」
「お前、マジで最高の仲間だぜ!
…………俺さ――なんだかその引換券からすごい賞が出る気してならないんだよ。
今日はまだLR出てないみたいだし、その引換券ってもしかしたらLRとかなんじゃないか!?」
「え……? たしかに今日出てないよな……? LRワンチャンあるのか……?」
「ありえる話だな!!
実は俺は今日の夢がLRの魔剣を出す夢を見たんだ! 今思うと、それは正夢だったのかもしれない……!!」
「直感と正夢……二人も言ってるし、信憑性あるわね……。 これほんとに来ちゃったんじゃないの……!?」
LR魔剣が当たるかもしれないという夢のような状況に、引換券が出て現実味が帯びてきたことで、四人はざわめき始める。
「みんなで紙を持って、いっせいのーで! で開こう!」
「よし、持ったぞ!!」
「私もよ!」
「いつでもいけるぜ!」
四人が紙を持ち――全員に呼び掛けをしあい、準備が整ったところで、
「「「「いっせいのーで!」」」」
そして、その引換券は――――――
「あ、あぁ……嘘……だろ……」
「バカな……!! 魔剣ですらないだと……!?」
「酷いわ……こんなのあんまりよ……!?」
「くそっ、一瞬LRがくるかもしれないとか、ぬか喜びしてた俺達がまるで馬鹿みたいじゃないか……!!」
――――そう、引換券は強化パーツだった。闇鍋ガチャあるあるのすり抜けだ。
「せめて……せめて魔剣であってくれよ……」
「ッッ……!! まだ諦めるな!! まだお金は尽きていない……これから魔剣を当てたら、この強化パーツで強化された最強の魔剣を手に入れることが出来るとポジティブに考えていくぞ!!」
「そうね……! まだ諦めるには早すぎたわ!」
「そう、一回すり抜けただけだ! まだいける、頼んだぞ!」
「ああ! 任せてくれ!」
そして――――
「これはっ……! みんな……俺やったよ、また引換券が出た!」
「よしっ!!」
「金銭的にも最後のチャンスね……!」
「次こそは頼む……!」
一回目の引換券が当たった時のように、全員で紙を開くことにした冒険者達。
この時点で、SRは確定となったものの闇鍋ガチャはここからが、一番の緊張の瞬間である。期待した分だけ、外した時のショックは大きいのだ。
――――だが、一度あることは二度あるという言葉があるように、すり抜けもまた連続で訪れるものである。
「……」
「……」
「……」
「……」
場は沈黙が支配していた。
脳が処理しきれないのだろう、SR確定からの二度のすり抜けという現実と、その絶望を。
先程までパーティーを励ましていたポジティブな冒険者も茫然自失していた。
そして、手に持っていたキーホルダーなどを詰め込んだビニール袋を落としてしまい、中のキーホルダーが床にばらまかれる。
「帰ろう……」
「そうだな……」
「儚い夢だったわ……」
「……それにしても、この強化パーツ二個はどうするんだ……?」
彼らは、まるで高校野球の選手達が甲子園の砂を持ち帰るかのように、床に散らばってしまったキーホルダーを拾うと、涙を流し肩を落としながら帰って行くのだった。
――敗者にもドラマがある。彼らがいつか魔剣を当てる日が来ることを祈ろう。
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