第24話 ようこそ、ガチャ沼へ
とてつもなく大きなガチャガチャの前に一人の少女が立っている。
――少女はこれからガチャをまわそうとしていた。
「これからガチャをまわしていきますね!」
だが――すぐにガチャをまわすということはなく、件の少女は何やら一人言を呟き続けている。
――それだけを聞くと、ガチャをまわす前にガチャの神にでも祈っている、変な子に思うかもしれない。
だが、実際は――
「これからガチャをまわしていきますね!」
“頑張って!!”
“LRの魔剣が出ますように!”
“応援してる!!”
――このような構図になる。
少女は一人で喋っている訳ではない。彼女は撮影越しに見ている視聴者達へと向けて会話をしていたのだ。そして、それは彼女が配信者であることを指し示していた。
――――――――――――――
田中のガチャが流行るキッカケとなった人物のことをまだ覚えている人はいるだろうか?
モンスターの群れに囲まれ、絶対絶命の危機に陥った所を田中達に助けられた有名なダンジョン配信者であるハルカのことを。
――何気に彼女こそが田中達の店の知名度アップに大きく貢献した立役者である。
そんな彼女は、田中に怪しいパンフレットを助けられたお礼として渡され、ガチャ屋に行くかどうかで悩んでいた後からは、まったく登場していない。
よって、結局ガチャをまわしに来なかったのだろうと多くの人が考えたはずだ。
田中達も見かけていないので、来なかったなぐらいに考えていたが、だが実は普通に気づいていなかっただけで、第一弾ガチャにちゃっかり来ていたのだ。
ではなぜ、ハルカのガチャをまわしに来たにも関わらず、田中達は気付かなかったのか。
その理由は明白だった――――単純にハルカのガチャ結果が地味だったからである。
田中が望む爆死をしてくれた訳でもなく、逆にURやLRといった上位の賞を当てたのなら目立ってて気付いたかもしれないが、ガチャ結果はSR魔剣を一本当てただけだった。
魔剣の中でも一番排出率が高いレア度の魔剣であったために、当てた人数も多く、田中達に気付いてもらえることはなく、その他大勢として埋もれてしまったのである。
そして、ハルカは今回の第二弾のガチャにも来ていた。
怪しいパンフレットだと言い、魔剣の存在を疑っていたハルカが何故また来ているのか。
それは 第一弾ガチャと第二弾ガチャの間の期間に起きたとあるアクシデントまで遡る。
とあるアクシデント――――それは、ハルカがまたもやダンジョンにて危機に陥ったことである。
ダンジョンという危険な場所に挑む以上、危機など山ほど起きるのに違いはないが、こうも立て続けに起きるのは運が無さ過ぎだ。
「はぁ、はぁ――」
全力疾走して逃げるハルカ。それを追うモンスターは昆虫系のモンスター達の群れだった。
毎回、田中達のように助けてくれる者が都合よく現れるということはありえない。
だが、結果としてハルカは第二弾ガチャへと生きて訪れている。
“ハルカちゃんまたピンチになってる!?”
“誰か救援して!!”
“あ、魔剣を使ったらなんとかなるかも!!”
「……はぁ、はぁ…………魔剣?…………魔剣、だったら一応、……けほっ、けほっ……持ってる、けど役に立つの、これ…………?」
走って逃げながら、何か対処する方法が探すために息切れして咳き込みつつも、コメント欄をちらっと見た結果、魔剣を使えばいいというアドバイスを見つけたハルカ。
ハルカには、この前とは異なる点があった――――背中に魔剣を背負っているのだ。
もったいなくて一度も使っておらず、未だに魔剣の性能に疑心があるハルカだったが、他に方法も無いため、背中にある魔剣を右手で掴み、体の前へ、そして鞘から出し、モンスター目掛けて一振り。モンスターの群れは消滅させることに成功した。
消え去ったモンスターの場所を見つめ、口をぽかんと開け、呆然としてしてしまったハルカ。
しかし――次の瞬間には、
「すごい……!! 魔剣ってちゃんと凄い物だったんだ……!」
自分の命を救った魔剣を、宝物を見るかのようなキラキラした目で見つめ、感動していた。
――こうして魔剣の性能を知ったハルカは、次のガチャもまわそうと決意したのだった。
その後、魔剣を出すためにはどうすればいいかを考え続け、本番の慣らしぐらいの感覚で、ガチャのシステムが似ているソシャゲに手を出したのが運の尽き。
嵌まってしまって、今ではソシャゲのガチャをまわすために、日々寝る時間を削ってアイテムを集めている。
ガチャの魅力に気付いたハルカ、これから彼女はソシャゲへの課金と魔剣ガチャの課金を両立していくのだろう。
――これを知れば、田中もこちら側へようこそとニッコリ笑顔で喜ぶこと間違いなしだ。
ガチャ爆死に苦しむ、ガチャ廃人の仲間へと足をかけたハルカ。
こうして、新たなリピーター(爆死者予備軍)が生まれるのだった。
――――――――――――――――
そして現在――――
「お願い……! 魔剣出て!! 」
視聴者からのスパチャという援護を受けた、ハルカはガチャをまわしている。
一人の資金では当てるには足りないのかもしれない――だが、ハルカにはたくさんの人のサポートがあった。
スパチャを当てにしてまで、ガチャをまわすハルカ。
そこから先は地獄しかないのかもしれない。しかしそれでも、ガチャの魅力にとりつかれた者はガチャをまわさないという手はないのだ。
ハルカの今後の成長に期待である。
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