第9話 追放されし魔剣士(笑)


 


  少し未来において、ラストワンを当てた少年――二見ふたみ勇気ゆうき は歓喜した。必ず、かのガチャをまわさなければならぬと決意した。二見にはお金がない。二見は、只の新人冒険者である。たまたま登録時期が一緒だった3人と少しずつではあるが順調に経験を重ねてきた。

 けれども、とっとと上へと上り詰めて目立ちたいという思いを持ち合わせていた。


『この一か八かのビッグウェーブに乗らずして、何が冒険者だ。逃してはならぬ。この二見が魔剣を当て、最強の冒険者となってくれよう』



 

 だが、その旨をパーティーの3人に伝え、ガチャをまわしに行こうと言ったが渋られてしまう。

 魔剣が本物か定かではない今、動くべきではないと。


 正論を返され、詰まる二見。論破することは叶わなかった。ならば自分だけでも! と奮起するものの、現実問題としてお金という壁が立ちふさがっている。一回5000円。己の今まで貯めてきたお年玉なども、現在の装備を買うのに使ってしまっているため、ほとんどガチャはまわせない。

 そして、悩んだ末に二見はとある物に目を付けた。



 お金の問題はなんとかした二見はガチャガチャのあるショッピングセンターへと急いで向かっていた。

 急いでいる訳としては、ガチャの開始時刻が近いからというだけではない。

 手に入れたお金には時間制限付きだったからだ。

 仲間達の着信音がスマホへとひっきりなしに来るのを冷や汗を流しながら、無視する。




  

 二見が手に入れたお金。

 それはただのお金ではない――――パーティーの全員で出し合った非常用の共有資金だったのだ。

 


 パーティーの一員だったので、あっさり銀行から回収に成功。自分の持つお金と合わせてガチャガチャをまわすための軍資金にしたのである。

 誰も勝手に持ち出す奴などいないだろうとたかをくくっていたのが裏目に出てしまった。


「後で返す……!後で必ず倍にして返すから、許してくれよ、みんな!」


 二見は走る。ガチャを早くまわすために全力で走る。捕まってしまえば一巻の終わりで、お金が没収されてしまうからだ。




―――――――――――――――



 そして現在――――二見の行った所行が明かされ、会話を傍聴していた者達はあっけにとられて沈黙していた。


「…………」


「…………」


「…………」


 

 そして一人の冒険者が絞り出すように呟き、それに呼応して、他の冒険者達も話し始めた。


「……そこまでしてガチャがまわしたかったのかよ……」


「……それな」


「……いくら魔剣が強くてもそんなやつ入れたくねぇわ」


 周りを味方に付けた元仲間の3人の冒険者達は二見に口々に不満を告げる。


「これで分かっただろ!! もうこのパーティーから抜けてくれ!!」


「それと俺ら新人冒険者はただでさえ金の余裕なんてないんだ!!俺達の分のお金を返してくれ!!」


「あんたなんか最悪よ!!」


「ごめん悪かったよ……でも!ちゃんと結果は出したんだ!」


「うるさい!! ガチャでちょっといい物が出ましたって言ったところで許されると思うなよ!」

 

「そんな……殺生な。今まで一緒に頑張ってきたじゃないか! そんな俺を追放するって言うのかよ!?」


「逆ギレしてんじゃねぇ!! 」


「普通に考えて、キレていいのは俺達だけだろうが!」


「反省もまともに出来ないなんて、人として終わってるわよ!」


 逆ギレした二見は、正論という名のキラーパスに加え、人として終わってる発言を受けてしまった。


「っっ!? ならもういいさ!! 僕だって願い下げだよ! こんなパーティー!!」


「待て! 金をちゃんと返せ。書類は準備してきた。」


「 へっ、いいさ。倍にして返してやるよ!」


「別にとられた分が返ってくればいいんだ。お前にそんな期待なんかしていない」


「下手に金額増やしたら、逃げそうだしな」


「ほんとそうよね」


「くそっ! 舐めやがって!」


「舐めるも何もお前、俺達の中で一番弱いだろ……」


「ゴブリンと死闘を繰り広げる奴に何を期待するっていうんだ……?」


「向いてないし、アルバイトでお金を稼いだ方がいいわよ……」


「うるさい! 今までの俺とは違うんだよ!!」


 その発言の後、二見は小走りで運営に向かって行き――――


 このタイミングで渡していいのか迷っている田中によってLRの魔剣が手渡された。

 

「えーっと、おめでとう?」


「ありがとうございます!」



 そして再び3人の元へと戻ると、魔剣を見せびらかすようにしてポーズを決めながら、高らかに叫んだ。

 

「このLR魔剣が俺にはある!! 俺こそ最強の魔剣士、二見勇気だ!!」


「LR魔剣……確か一番いい賞だったか……?」


「こいつは調子に乗らせたらいけない人間なのに……最悪だな」


「ポーズ決めるとかダッサァ……」


「今更戻ってきて欲しいと言っても、もう遅い!」

 

「はぁ、金払ってくれるならどうでもいいや」


「魔剣が強くても本人がなぁ」


「関わるだけ損だし、放っておきましょ」


 

 こうして、パーティー追放劇は幕を閉じた。二見を追放するのは、追放理由が真っ当すぎるので、英断と言わざるを得ない。



 果たして、出だしから躓いた二見はテンプレ(笑)通りに成り上がることが出来るのだろうか――?

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