第10話 後処理と祝賀会
多くの冒険者達がマイクを持った田中を見つめていた。そんな中、田中は今日の営業の終わりを告げる。
「魔法武器ガチャ第一弾が売り切れたため、今日はこれにて終了です。しばらくしたらまた開く予定なので、その時も是非来てくださいね。」
パチパチパチパチパチパチ
冒険者達の拍手が起こる。大きな拍手をしているのは魔剣を当てることが出来た者達がほとんどだったが。
「またやってくれよーー!! 楽しかったぜ!!」
「魔剣最高!!」
「絶対行くぜーー! 次こそ、LRの魔剣を当ててやる!」
「俺の念願だった魔法を使いたいという夢を叶えてくれてありがとう!! 」
対して、魔剣が当たらず、爆死した者達はパチパチと小さく拍手をしていた。
「俺は……もういいかな。爆死したし……」
「もうガチャは懲り懲りだよ……」
「悪夢だ……」
「金無いし、もやしと水しか食べれない……」
こうして、最後の最後で追放劇が行われるというアクシデントが起こったものの、ラストワン賞も無事引き渡しが完了し、次回のガチャの宣伝も終えたので、「魔法武器ガチャ屋ロマン」の本日の営業は終了である。
今日が初めての開店でありながら、全部売り切れたというのは店長である田中にとっても大満足の結果だった。だが、改善点もある。
客やアルバイト達が全員帰った後、店内の休憩室で田中と灰華は今回の問題点について話し合っていた。
「それにしても、賞品をあんなに用意したのにまだ足りないとはなー」
「まわせなかった人いたね」
「あぁ。100人ぐらいはいただろ? それだけ、ガチャをまわせもしなかった人が出たのは、少し問題がある気がする」
「 次は増やせばいい」
「まぁ、それはそうか。うーん、何を追加するかなー」
「あのキーホルダーを増やせばいい」
「え……? いや、それはちょっと鬼畜すぎない?
そりゃ俺だって人がガチャで爆死する確率が上がるんなら嬉しいけど、まわされなくなったら元も子もなくない?」
すでにガチャの爆死によって大量の犠牲者が出ている。何回まわしたかは人によるだろうが、一回五千円という時点でかなり鬼畜だろう。
ソシャゲだと課金すれば、一回と言わず、十連はできるだろう。
なので、これ以上魔剣の確率を下げるのはやり過ぎだと田中は考えていた。
――灰華はそうは思っていないようたったが。
「大丈夫。魔剣にはそれだけの価値がある」
「……おう、ありがとう。」
「何でお礼を言うの?」
「いや……急に魔剣を褒めてきたから、とりあえずお礼を言ったんだよ」
「事実を言っただけ」
「実際、魔剣は俺だけにしか作れないから、それぐらいの価値があってもおかしくないけど、率直に言われるとむず痒いもんだな。
灰華はどう思う?今より確率が下がっても、リピーターにガチャをまわしてもらえると思うか?」
「思う」
「ちなみに根拠は?」
「魔剣を一番使ってる私の所感」
「……所感ね。じゃあ信じてみるよ」
意図せずに、魔剣を絶賛した灰華。灰華の所感を信じる田中。
一見、二人の信頼関係が伺えるいい話のようにみえる。
だが、忘れてはいけない。さらっと次回以降のガチャのキーホルダーの排出率の割合が増えるという、まわす側からしたら堪ったものではない決定がなされてしまっていることに。
哀れ、冒険者達。キーホルダーの犠牲者が増加することが確定してしまう。
――そして、それからも話し合いは続いていくのだった。
―――――――――――――――
外が暗くなり、夜になった頃、話し合いは終わった。
「さてっ! 会議は終了!」
「お腹空いた」
「今日、たくさんお金手に入ったし、パーッと使おうぜ! 」
「賛成」
「時間も遅いし、このショッピングセンターで済ませるかー。ちなみに灰華は何が食べたい?」
「ここって何の店がある?」
「うーん……。このショッピングセンターにある高い店だとたしか……焼き肉屋や寿司屋とかがあった気がする。」
「じゃあ、お寿司」
「寿司か、いいねー! 回らない寿司とか全然行かないからマジで楽しみだな」
「イクラは最高」
「イクラ好きだなぁ。回る方の寿司屋でも、いつも頼んでるし」
「む……。そっちだってハンバーグ寿司ばかり」
「ハンバーグ寿司は最高だからな」
「……イクラが最高」
「いや、ハンバーグ寿司な」
お互いの好きな寿司が一番であることを伝えるために、寿司論争があわや勃発しかけるも――
「……ハンバーグも美味しい。魚介じゃないけど」
「……イクラも美味いよ」
すぐに鎮火した。二人とも論争する程の、寿司に対する情熱は持ち合わせていなかった。
特に田中のハンバーグ寿司とは果たして寿司のうちに数えていいものなのか?という疑問があり、比べる対象として不適切だったというのもあるだろう。
「ねぇ」
「何だ?」
「回らないお寿司屋でもあるの?ハンバーグ寿司」
「あるんじゃない?知らんけど……最高級のハンバーグが上に乗ってるやつが」
「最高級のハンバーグ……」
「料理人なんだし、ハンバーグも作れるさ」
「聞いたことない」
「まぁ、行けば分かるよ」
実際に入ってみなければ分からないことを話していても意味がないので、話を打ち切り、二人は回らない寿司屋へと向かうのだった。
大成功した後のご飯ということもあって、より美味しく感じられることだろう。
――なお、ハンバーグ寿司は普通になかった。
「やっぱり……」
「ハンバーグ寿司ないのかよー!」
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