第7話 謎の大男現る





  冒険者用ショッピングセンター、普段は冒険者達がダンジョンで稼いだお金を片手に、新たな装備を手に入れたり、少し高級なご飯を頑張った自分へのご褒美で食べ、和やかに情報交換をする憩いの場だった。


 そう、だったのだ。営業時間の開始から数時間が経った現在そんなショッピングセンターは変わり果てた場所となっている。大声で叫びながら、ピョンピョン飛び跳ねる人や死んだカエルのようにひっくり返って呻く人。まるで動物園のようだった。事態は悪化していくばかりである。


 

 まずはそこらの床に倒れて、涙を流しているのか、詰まったような呻き声をあげているカエル―――否、冒険者達から見ていこう。

 

 その冒険者達には一つの共通点が存在していた。近くに、龍の巻き付いた剣のキーホルダーがたくさん転がっていることである。


 そう彼らは敗れたのだ。一か八かの夢に懸け、ガチャという欲望という名のモンスターに。



「キーホルダーが……いっぱい。キーホルダーが……いっぱい。」


「俺……。飯買うお金まで突っ込んじまったよ……。あのお金を吸い取るモンスターに……。」


「食べ物がないなら、キーホルダーを食べればいいじゃない。ガジガジガジ」


「たしかに……。こんな物いらないもんな。だが食べれるのか……?」


「冒険者なんだから、たぶんいけるでしょ……。自暴自棄になっちまう人の気持ちが分かるわ……」


「フガッ。あ……夢だったのか……。ガチャで、LRの魔剣を当てて、魔剣士とちやほやされてたのは……」


「いいな……。その夢……。俺も昨日の夜見たよ……。謎の自信があったんだ……。自分なら当てれるかもしれないっていう自信が……」


「言うな……。余計に虚しくなってくる……」


「過去に戻りたい。俺の前の奴がさ……。URの魔剣を当ててたんだ。後少し早く並んでいたら……」


「俺だってそうだよ……」


「私も……」


「俺も……」


「わしも……」



 夢破れれた者達は、あと少し違っていたら結果は変わっていたと負け惜しみを言い合っていた。



 対して、叫びながら辺りを走り回っている冒険者達はというと――


「俺の運SUGEEEEE!!SRの魔剣がいっぱい出たーー!」


「万年Dランクから上がれなかった俺もこの魔剣があれば……いける!いけるぞぉぉ!!」


「ヒャッホーーー!俺の時代が来たぜぇぇー!」


「うおおぉぉぉぉぉぉぉ!!!」


 歓喜のあまり感情を抑えることができず、じっとしていることが出来ていなかった。魔剣はこの店のガチャでしか出てこないマジモンの限定品であることを考えれば、仕方がないことかもしれない。


 


 さて、そうしたガチャを終えた者は一旦捨て置くとしよう。これから、とある人物がガチャガチャをまわそうとしているのだ。


 

 巨大ガチャガチャの前には一人の大男が立っている。その男は周りに奇異の目で見られていた。

 容姿は、髪は角刈りで筋肉ムキムキのTHE 冒険者という風体の男である。しかし、見た目で怖がられているというわけでない。ここには冒険者しか入れないのだ。マッチョな厳つい男などたくさんいる。

 では、何故注目が集まっているのか?それは男が着ている服にあった。


『魔法ラブ』と上下の服のいたるところに大きな字で書かれている。そう、この男の別名――掲示板における名は魔法好き好き戦士。

 掲示板の厄介者がとうとうガチャガチャをまわすのだ。


 魔法好き好き戦士は、精神統一をするために目を閉じた後、鍛えられた右手をガチャガチャのハンドルを掴みゆっくりとまわし、排出口から出てきたカプセルを開け――――少し立ち尽くした。


 中身は龍の巻き付いた剣のキーホルダー。観光地で買うならともかく、完全なハズレである。


「まだ……まだ一回目だ……」


 そう念じることで、心を落ち着けることに成功した魔法好き好き戦士は続きを回し続け……。

 

 そして――――無情にも魔剣が出ないまま70連が過ぎようとしていた。

 カッコいいキーホルダーと怪しいお薬ポーションを沢山当ててしまった魔法好き好き戦士の目はうるうるしており、涙目である。

 しかし美少女が涙目をしているのなら、誰かが心配にしてくれるかもしれないが、マッチョなおっさんの涙目など誰も見たくもない。というか需要なんてあるのだろうか?

 

 この場にそんな奇特な人はいないようで、近くに控えているアルバイトはもちろん、並んでいる列の人達も慰めの言葉を掛けることはなかった。

 

 それから80連目に差し掛かった頃。


「ウオオォォォォ!!」

 

 カプセルを開けた魔法好き好き戦士は、突然雄叫びを上げた。

 

 カプセルの中身は、キーホルダーでもポーションでもなく、一枚の紙が入っていた。

 そう、つまりSR以上は確定であり、魔剣が絶対に手に入ることが決定したのだ。


「LRの魔剣よ。俺の元にきてくれ!! 俺は待っているぞ!!」


 魔法好き好き戦士は、紙をゆっくりと開き――――喜びと悲しみが入り混じったような表情を浮かべた。


 紙に書かれているのは、UR。

 ガチャをする者なら、誰もが味わったことがあるもの――――すり抜けである。

 しかし、SRの魔剣よりも上であることには違いはない。


「まだだ……あと20連残っている!!まだチャンスはある!!」


 URの魔剣が当たったことで、つい欲張ってしまう魔法好き好き戦士。

 しかし現実がそう簡単にことが上手く運ぶなどあるはずもなく、キーホルダーとポーションを当てて終える。


 


 ガチャを終え、URの魔剣を引き換え所に行った魔法好き好き戦士。


「はい、たしかに。おめでとうございます!こちらURの魔剣になりま――」


「感謝する」


 アルバイトが渡そうとした魔剣を一瞬で奪い取った。


「はぁ……どういたしまして……」


 そして――――


「スンスンスンスンスン」


 魔剣に鼻を当て、匂いを嗅ぎ始めた。


「え!?何をやってるんですか……!?」


「いや、すまない。なんとなく嗅いでしまったんだ」


「ひっ!……う、うけ渡しは終わりましたのでお帰りくださいぃ」


「待ってくれ。まだ感情の整理が追いつかないんだ。なんなんだこの気持ちは……!?」


「知りませんよぉぉ……、もうやだこのバイト……」


「もっと匂いを嗅いだら分かるかもしれない…!!」


「お願いだから、帰ってくれぇぇ……!」


 魔剣好き好き戦士は、しばらくその場で魔剣を見つめたり、嗅いだりした後、誕生日プレゼントをもらった子供のように、魔剣を大切に抱き抱え、LRを当てる者を見届けるために、少し離れたところに立つのだった。

 


 

 ちなみに、担当したアルバイトの人は、もう二度とこのバイトをすることはなかった。

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