第6話 ガチャ屋オープン!




「ついにこの日がきたか」


 田中はぽつりと呟いた。彼の前には、巨大なカプセルトイ――ガチャガチャ。隣には灰華が立っていた。


 田中は興奮のあまり普段の丁寧な仮面が完全に剥がれているようで、完全に本性が出ている。


「ははっ。これから始まるんだな!みんなの爆死が見れるぞー!他ならぬ俺の作った魔剣を目当てにな!」


「……嬉しいんだね」


「そりゃそうだよ灰華。俺の二番目に好きなものが自分の手で成し遂げられたんだぜ?」


「人の爆死報告……でしょ」


「お……おう。覚えててくれたのか」


 どうでもいいことは基本覚えない灰華が、自分の好きなことをノータイムで答えてくれたことに感動した田中。仲間としての結束が強まってきたなと喜びを噛みしめていた。

 なお灰華はジト目を田中に対して向けているが。


「いつも爆死動画ばかり見てる」


「え?そんな見てたっけ?」


「昨日も見てた」

 

「昨日は仕方ないって……今ハマってるソシャゲが新キャラを出して、昨日まわしたんだけど、天井まで出なかったんだよ。くそっ、俺がいったい何をしたっていうんだ……いつも課金している上客なのに」


 そうこの男は昨日、ソシャゲで大爆死をしており、この心の痛みを引きづっていた。治すためには、他の人の爆死をたくさん見るしかない。

 田中はこの不条理をガチャをしにくる冒険者達にも味わってもらおうと一層の決意を決めるのだった。


「もうすぐ開店の時間。後にして」


「辛辣すぎない?正論だけどさぁ」


 


――――――――――――――

 


 冒険者用ショッピングセンターの2階に1つ明らかに場違いな店があった。

 ――店の名前は「魔法武器ガチャ屋 ロマン」

 名前がありきたりだが、田中にオシャレな名前をつけるセンスを期待してはいけない。


「ロマン」は田中が場所を借りて出店した店である。

 一応?ダンジョンで使う物がガチャから排出されるため、間違いではないといえばないのだが……ガチャ屋という時点でやはり浮いているという他ない。

 まして巨大なガチャガチャが店舗のほとんどを陣取っているというふざけた有り様だった。


 その店が現在――――ショッピングセンターにて営業している他のダンジョン用品専門店を差し置いて、大行列を為していた。他の店の人も店が閑古鳥が鳴いていて暇なのか見に来ている人がいるくらいである。


 ともかくとして、「魔法道具ガチャ屋 ロマン」は沢山の人が集まり、商売繁盛していた。

 だが……それがいいことであるとは限らない……。

 勝利の雄叫び、嘆き、悲鳴、奇声、その他もろもろの叫び声が店内に、いやそれどころかショッピングセンター内をこだましていた。

 

 場の雰囲気はだいたい二極化している。

 即ち、天国と地獄である。


「ギャァァァァァァァァァァァ!俺の……俺の五十万円がぁぁぁ……龍の巻きつきキーホルダーとポーションとかいう怪しい薬に消えちまったよおぉぉぉーーー!!」


「ウソ……嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘!!!

 返してよおおぉぉぉ!!!!こんなことなら…………こんなことなら、普通に装備買えば良かった!!」


「なんで一本も魔剣が出ねーんだよ!!??おかしいだろ!?おかしいだろうがぁぁーー!!」


「へっ!哀れなやつらだぜ!俺なんてURの魔剣が一回目で当たったぜ笑」


「神引き自慢してんじゃねぇぞ!てかよこせや俺に!!」


「見苦しいやつらだなー!ガチャなんだから出るときと出ないときがあるに決まってるだろ。そんなことも分からずに引いてんじゃねぇよ!

え?俺?SR2本当たりましたけど何か?」


「聞いてねぇのにしゃべってんじゃねぇよ!!ガチャ自慢とか、お前絶対友達いないだろ!!」


「なんだと!?てめぇ、俺が気にしてることいいやがってぇぇ!!この爆死野郎のくせにぃぃ!」


「爆死野郎……?ハァハァ取り消せよ今の言葉!!」


 ガチャの排出率に打ち勝った勝者と大爆死した敗北者とで、怒鳴り合ったりなどいざこざが多発しており、警備員が忙しそうに駆け回っていた。


 そんなカオスの中、田中達はというと――


「メシウマー」


 田中はというと、人の爆死を肴に白米を食べて、にやにやしながら見守っていた。アルバイトを大量に雇っていたので、殆ど眺めるだけが仕事だった。


「叫び声がうるさい」


 灰華も仕事がまた無いので、始めのうちはただ眺めていたが、飽きたのか睡眠を取ろうとして、叫び声により阻害されて不機嫌だった。


 彼らの仕事はLR、つまり最高レアの景品である魔剣を手渡すことである。ガチャガチャの中にあるのは引換券は一つだけ。つまりラストワン賞を含めて、二回だけしかない。一応、魔剣を盗まれたりしないように見張るという役割もあるが、二人とも適当だった。


 田中は緻密な計画などを立てず、ほとんどノリで行っているので、既存のくじやらソシャゲのガチャといったものをぐじゃぐじゃに組み合わせたガチャシステムとなり、問題がありまくっている上に、実は田中的も損をしまくっていたりする。

 当然といえば、当然である。LRの魔剣の性能ならば高位の冒険者にでも持って行けば、一本数億円で買い取って貰えたかもしれない。

 しかし、今回のガチャは計10万個のカプセル。一回5000円で全てをまわされて得られるのは五億円。LRの魔剣二本とどっこいどっこいである。その他の下位の賞やらを含めると、完全に損していた。

 普通に考えるならば、勿体ないとしか言いようがない。


「あははー、あはははははっー!」

 

 ――――だが田中は笑顔だった。気持ち悪くニマニマと笑い、この場を楽しんでいた。


 売るものにまったく利益がないというのは、致命的ではあるが、本人が気にしていないのならきっといいのだろう。売り人と買う人とでwinwinの関係である。



  

 第一弾魔剣ガチャ――それは希望か、はたまた絶望か。


「やったぁぁぁぁ!!ありがとう!俺の運!!」

 

「くそおおぉぉぉぉ!!!」

 

 このカオスはまだまだ続くのだった。


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