脱 陰フルエンサー大作戦
第1話 私がプロデュースしてあげるわ!!
インフルエンサー、それは多くのファンや影響力を持つ人々の総称だ。モデルや俳優、歌手などがこれに当てはまるだろう。
そこはとても夢のありキラキラした世界なのだろう。
だが俺の様なコミュ障陰キャには遠い世界だ。
俺はさしずめ陰フルエンサーと言った所か…ハハ…
俺はそう思っていた。
そう、あの日までは。
「香奈すごいじゃん!!また表紙掲載とか流石は人気モデルだね!!」
「えー、たまたまだよぉ。」
「謙遜しちゃってぇ。たまたまでも凄いよ!ね、悠太?」
「そうだな、流石は香奈だな!」
「フフッ、ありがと」
近くからは騒ぎ声が五月蝿く聞こえてくる。後一分もしない内に授業が始まると言うのに、このクラスでは声が静まる事はない。
いつもの事ながら、話題の中心にいるのは同じメンバーだ。一年生でありながらサッカー部のエース候補との呼び声高い恋道進、クラスで一番声と胸のでかいギャル和田美桜、彼らに纏わりつく多数の取り巻き達。そして最後にメンバーの中心であり人気高校生モデルの山岡香奈。彼女と俺は中学まではよく遊ぶ、所謂幼馴染というヤツだった。
何処で俺たちの道は別れたのだろう…
気づけば彼女はクラスの人気者、俺は高校入学によって元々少なかった友達と離れたために絶賛ぼっち生活を謳歌している。
俺は今日も一人寂しく何かしているフリをして時間を潰す。小説の同じページを所在なく何度も読んで時間を過ごしていると、先生が教室に到着して授業が始まった。
もっとも、授業が始まったからと言って何も変わる事はない。授業中にも関わらず所々で話し声が聞こえてくるが、先生は注意する様子を一切見せない。まぁ、中の下程度の偏差値を誇るこの高校では教師達があまり進学実績に熱心でないというのもあるのだろう。
教科書を読んで自習していた方がマシと思える程の退屈な授業を聞き流し、今日も一日は過ぎていく。ふと、窓から外を眺めくだらない妄想をする。
もし、テロリストがここを占拠したら俺は…。もし、教室ごと異世界転生したら…。もし、俺だけの超能力があったら…。
何か現状を変えるきっかけが有れば……俺だって変われるのに……。
勿論そんな事は起こらず、金曜の六時間目という時間帯と古文の授業というダブルパンチで俺の意識は次第に遠のいていった。
トントントン……
誰かに俺の背中が優しく叩かれた様な気がして、俺はゆっくりと目を覚ます。机に溢れた涎を見つけ、すぐさま袖で拭き取る。恐る恐る辺りを見回すとクラスには誰も残っていなかった。よかった、誰にも見られていなかった様だ。そして、どうやら叩かれたと思ったが俺の勘違いらしい。見ると、時計は午後四時半を指しており、随分な時間眠っていたことになる。
もう帰ろう、そう思い席を立つと同時に背後から声がかかる。
「ま こ と っ」
突然の事に、驚きのあまり体勢を崩し床に転ける。その衝撃で机の上に置きっぱなしだったペンケースが床に散らばる。床に伏しながら背後を見上げるとそこには腐れ縁とも言える幼馴染、山岡香奈が意地悪そうな笑みを浮かべ立っていた。
「アハハハ、フツーそんな驚く!?ま〜さ〜か〜、やましい事でも考えてたんじゃないの〜?」
ニヤつきながら話す彼女に呆れながら俺は返す。
「んな訳ねーだろ。それよりお前はこんな時間まで残って何してんだよ?」
「べっつにー、何もしてないよ。」
「あいつらと帰らなくていいのか?」
香奈はいつも取り巻きやギャル達と一緒に帰っている。こんな時間だしあいつらはもう校舎に残っていないだろう。
「いいよ。だって今日は誠と帰るから」
予想外の返事に俺は面食らう。
「は?俺はそんな事聞いてないぞ」
「うん、だって今伝えたんだもん。先に校門行ってるから早く荷物まとめて追いついてね〜」
そう言うと彼女は手をヒラヒラと振って教室から出ていった。
一人残された俺は静かな教室でフリーズしてしまう。少しして再起動した脳がゆっくりと動き出す。
思えば、高校生になった後に香奈と帰るのは初めてかもしれない。あいつが、わざわざ一緒に帰りたがるって事は……なんか嫌な予感がする。あいつが自分勝手な行動をする時、いつも損をするのは俺なのだ。疑問は心に残るが待たせる訳にもいかず、俺は荷物をまとめ彼女を追いかける事にした。
校門まで行くと彼女は電柱に寄りかかり待っていた。
「待たせたか?」
「うーん…ま、許容範囲かな。行こっか」
そうして俺と彼女は他愛のない昔話をしながら道を歩く。俺たちの家はお隣さんのため、帰る道はまるっきり一緒なのだ。いつもと同じ帰り道だが、香奈が隣を歩いていると何かが変な気がしてソワソワし落ち着かない。改めて今の二人で歩いている状況を考えると、何故か俺は香奈の顔を真っ直ぐ見ることができなくなった。
その場の空気感に恥ずかしい様な、気まずい様な不思議な感覚に襲われた俺は流れを変えるために単刀直入に疑問に思っていた事を聞いてみる。
「なあ、香奈からわざわざ誘ってくるって事は俺に何か伝えたい事でもあるんだろ?」
「…」
「伝えたい事、あるんだろ?」
「はぁ…、お見通しか…。あのさ、誠」
香奈が急に歩みを止めこちらを向いて俺の名前を口に出す。俺もそれに合わせて歩みを止める。
「何?」
「生まれ変わりたくない?」
「えーと、どうゆう意味?」
「そのまんま。今の自分を変えたくないかって事」
勿論俺は今の自分を変えたい、でもそれは無理な話だ。
「そりゃ変えたいけどさ…俺に何か出来る様には思えないんだけど」
俺がそう言うと彼女は頷きながらゆっくりと口を開く。
「だろうね」
「だろうね、ってお前」
こいつは俺を煽ってんのか?茶化された気分になり、香奈に文句を言おうとすると彼女はこちらに人差し指をピンと立てる。
「『誠だけ』なら無理だよ。でも、私が一緒なら…出来るんじゃないかな?」
「というと?」
俺の質問に待ってましたとばかりに顔を近づけ言い放つ。
「私が誠をプロデュースするのだ!!」
「は?」
一体こいつは何を言っているのだろうか?
「今の世の中で簡単に人生を変えるためにはインフルエンサーしかない!そして私はプロのモデル、ここまでで言いたいことは分かるかね?」
「全く」
首を振る俺に彼女はため息をつき、ヤレヤレといった顔をする。なんかムカつくな。
「私が誠をプロデュースして一人前のインフルエンサーにしてあげるって言ってんのよ!!やるの?やらないの?どっちか選んで!!」
え?香奈が、俺を?それにプロデュースってどうやって……。いや、何故彼女がそんな事を言い出したのかや、具体的な内容など疑問は色々残るが、これはチャンスなんじゃなかろうか?今こそが、俺自身が日頃願い続けている「きっかけ」なんじゃないか?
それを俺は捨てるのか?いや…俺の選ぶべきは只一つだ。俺は香奈に向き直ってハッキリと答える。
「分かった、やる。色々疑問は残るが香奈のプロデュースで俺は生まれ変わりたい!」
俺の言葉に彼女が満足そうに頷く。
「そうこなくっちゃ!!誠の抱いているであろう疑問には後々答えるよ。諸事情により私たちに時間はあまり残されて無いからね。」
「なんだかよく分からないが、香奈の言う事に従うよ」
「よし、それじゃあ早速明日から動き出すよ!明日は運良く土曜だし、私直々に家に向かえに行ってあげよう!」
「おう!」
俺はまだ知る由が無かった。この後に待っている地獄の日々の事を。逃げ出したくなる程の日々が続く事を……
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