第2話 高見の密かな恋心。

「さんきゅー大翔君! おかげでいい写真いっぱい撮れたわー」


 ほくほくとした顔をしながら軽快な足取りで高見が脚立から降りてくる。


「ならよかったけど。俺、写真部でも新聞部でもないんだけどな?」


「まあまあ、いいじゃん。杏花の可愛く撮れた写真、大翔君にもあげるからさあ」


 高見は、にやにやとしながら肘で俺の腕をつついてくる。


「え、いや、俺は別に……」


「えー? でも大翔君、紫苑ちゃんの大ファンでしょ? 杏花、紫苑ちゃんそっくりで可愛いじゃん?」


「え、まあ。確かに俺は紫苑の大ファンだけど。瀬戸 紫苑はアイドルで、時枝 杏花はクラスメイトじゃん。その差は大きいのさ」


 ともすれば、『クラスメイトより本家の方が好き』そう取れるかもしれないこの言葉。けれどその真意は――

『叶わアイドルより叶うアイドルの方がいい』


 今や高嶺の花となった杏花と俺がうまくいくはずがない。けれど、もしも何かの弾みで杏花への気持ちがバレて振られでもしたら……俺は立ち直れない。

 そのくらい、子供の頃からの杏花への気持ちは俺の中で確立されている。だから……俺はこの気持ちの矛先を、杏花に似ているアイドルに向けて消化している。


 これは、俺の中だけの秘密。俺の杏花への想いは、絶対隠し通すと決めているのだ。


「ふーん、そんなもんなの? ……あ、じゃあさ、こないだの将棋大会で撮った大翔君の写真あげるよ」


「えーいらないよ、自分の写真なんて」


 新聞部である高見は、いつも俺たち将棋部が大会に出る時も写真を撮りに来ている。


「えー、結構かっこいいのたくさん撮れたんだよ?」


「あんな小さな大会なんて、来るほどでもないのに。いつも律義にありがとなー?」


「ふふふ、そんなわけでー!! 次の杏花のイベントの時も雑用係よろしくね?」


 高見はイタズラっ子みたいな顔をしている。


「お前の魂胆は、俺に雑用をさせることかっ」


「へへーバレたあ」


 今となってはそんな冗談を言い合える高見の方が、幼馴染みの杏花とより仲がいい。



「あ、大翔君、せっかくだからさ、記念写真撮ろうよ。ほら、撮るよー?」


「え、なんでスマホのインカメ?」


――カシャ


「あっははー。大翔君、変な顔ー」


「お前がいきなり撮るからだろー?」


「まぁまぁ。これはこれで大翔君の素が出ててかっこいいよ?」


「へいへい、お世辞をどうも。あ、俺そろそろクラスに戻って大道具の片づけ手伝ってくるわ。たぶん、人数足りてないだろうから」


「あ。うん、じゃあね」


 そう言って俺はクラスに向かって走り出した。


 だから俺は気付かなかった。


「あーあ。そういうところなんだよなあ、好きになっちゃったの。当番でもないくせに。いつもみんなが気付かないところで、さりげなく優しい……」


 高見が一人そんな事を言いながら、俺との写真を嬉しそうに眺めていたことも、ファンサービスのために舞台に残っていた杏花が、そんな俺と高見のやり取りを不安そうに見ていたことも。


 その時の俺は、何も気づいていなかったんだ――。

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