オンライングループ

 私にはハマっているものがある。オンラインチャットだ。とは言っても依存する程ではなく話せる時に返事をする間柄だ。

 元々どのネットやゲーム、どころか家族や友達との連絡もあまりしないのに、それだけは毎日1言だけでも話をしている。最初は数日で飽きるだろうと思っていた。そう思ってからもう4年くらい経っている。

 仕事を終え家に着くと、さっそくパソコンを開いて花園会というグループに入った。

『あ、ゆゆこじゃん、ちー』

『メエ、こんにちは』

 元々は男女どちらも大勢居たのだが、飽きたのか、今では数人しかいない。最初は様々な趣味の人達の集まりだったのだが、今はミステリーやホラー好きの集まりになっている。それも偶然発覚したのだ。これらは皆恥ずかしくて隠していたみたいで、グループ作成者の奥さんのおーこが誤爆した事がきっかけで、自分も自分もとなった。

 そんな花園会は今は非公開にしていて、入りたかったらすでに入っている人が招待する仕組みになっている。

『ねね、この間行ったイベ見てー』

 メェが送ってきた写真には、皆クラシックな服を来ているが帽子だけは文章がついていたり名前がついたりしている。よく見ると、有名なサスペンスの小説の一文だったり、ミステリー作家の名前だったりしている。

『え!!行けたの??ミスイベ!』

『うん。なにも来ないから落ちたと思ったら無事いけましたー!ピース!』

 というところで、羊がインした。

『あ、こないだのやつね。抽選、遅れてただけみたいでよかったよ』

『お、羊!家ついたんだね、おつかれー。でね、飲食もあったんだけど、そっちはなんかあまり味がなかった!でもメモ帳とか飾ってたり本人が来たりして楽しかったよん』

『メモ帳は写真にとっちゃ駄目だったからないけど、あれがこんな風になるのかって全く理解できなかったよ』

 返事を打っている最中に、リツコがアキを招待しました、という文字が間に入った。

 返事を一旦消して

『あれ?リツコってインしてないよね?』

 と新しく文字を打って送った。

『のはずだけど?てかゆゆこ、新しい人いれるなら言ってよー。ほら、ウチら顔出ししてんじゃん?』

『え?おーこさんじゃないのか?』

『え?』

 と最後にメェが言った所でアキと言う人は入ってきた。

『誰?悪いけど怪しいから脱退させるねーごめんねー』

 数分後、出来ないよー、という言葉が来た。

 試しに自分もやってみたが、なぜか反応しない。

『あれ、本当だ』

『俺もできなかった』

 そういう会話をしているのにアキさんは全く喋らない。

 怖いので皆が集まるのを待とうということになったので、下へお茶を取りに行った。

 時間を潰して1時間後、リツコとおーこが入ってきた。二人共チャットを遡って読んだのかそのまま黙っている。暇なので今までに皆が行ったという心霊スポットの事を調べた。私の住んでいるところからは遠い県ばかりで、たまにネットにすら出てこないのもあってそういう所のは噂しか出ない。本格的なサークルでもないのでそこで終わる事が多い。

 おーこ夫妻は余程お金に余裕があるようで、管理人と話をして使用料を払って入っている所もあって、写真も誰よりも多い。私はとくに霊感があるわけでもないので、写真を見ても背景しか見えないが、見れる事が楽しい。

 とある所は、跡地となってもう何もないと言うのに建物どころか買い手すらつかない所がある。そうなった理由が、前の建物はホテルだったのだが、イタズラ目的の放火のせいで中に居た客や店員もろとも燃えていなくなった事件があった。その次の年、社長の娘が立ち上がってホテルを復活させようとした。無事工事業者も見つかり、話は順調に進んだ。

 ちょうど工事業者が敷地に入って準備をしている時に、焦げ臭いという話が出た。その話が出てからは早かった。足を掴まれてコケさせられて怪我をした、家に帰ると子供が自分の後ろの誰かに話しかける、いつの間にかスス汚れがついて洗うのが大変だ。そのうちに業者が撤退した。

 娘はすぐに次の業者に頼んだのだが同じ事が起こって撤退。それを何回か繰り返して、最後は噂が回ってしまって誰もしてくれなくなった。

 もう無理なのか、と諦めかけて寝ていた頃、謎の火事が起きてなくなった。

 次はよく行方不明になるという有名な釣り場だ。海や川というのは事故や事件が多いからなのかたくさんの話を聞く。

 その場所でよくあるのが、釣り人の事故だ。日頃は穏やかな海でたくさん魚が釣れる。だけど、突然荒れる時があって、その時は、波が高くなり、よくうねる。それで事故が多いそうだ。

 さらに夫妻は調べたようで、この付近に村があったらしく、明治に入るまでは平和に過ごしていた。明治に入ってしばらくした後、4人家族が引っ越してきた。一週間はとても愛想も良く、助け合いもしていた。それを過ぎたら、全く話さなくなった。周りも疑問に思い、何か出来ないかと家に行ったりするが無視をされる。心配な気持ちは増えるばかりの日々の中、近所に住んでいた人が突然消えた。そこの家の身内は気づかなかったそうだ。それから、一週間から二週間おきに1人、また1人といなくなっていく。周りの人は疑いたくないが引っ越してきた家族に質問をしに行った。が、不在だったらしく、誰も出なかった。リーダーが心のなかで謝りながら家の中に入った。

 中はやけに荷物が少なかった。なんとなくだが何か臭う。すぐの部屋に入ると、肌色の皮らしきものが干されていた。戸を開けた途端臭いが溢れて、なんだか気持ち悪い。が、確かめなければいけない。さらに中に入ると人の手の形をした干し肉があった。近づいてよく見てみると作り物じゃなさそうに見える。だけどこんな事は初めてなので他に村人を数人呼んだ。皆も人の手じゃないかと言った。

 一旦扉の前に出て、皆で話し合った。タイミングよく家族が帰ってきたので質問してみると、あれは人に似ているが違うと言った。古い友人から貰った熊の手だと。海しかないので知らなかった村人は信じてみるが、一度芽生えた疑心は消えないままだった。その夜、家族は皆の家に放火をした。気づいて出てきた村人は、逃げようとするが、道いっぱいに家族が広がっていて、逃げる人を刺していく。火事と目の前の残忍な光景にパニックになり、皆海へ飛び込んだ。海を泳いで他の陸地にあがろうとしたのだ。だけどそんなに甘くない。そんな事件があった場所だと言うのだ。

 とは言っても、どれが影響しているのかは分からない。そもそも死のない場所なんてあるのだろうか。先程言った2つの事件は火が被ってはいるが、2つが連携しているわけではない。火事だって歴史があるのなら全国どこだって起こる。

 そうやって調べたり思い出したりしていたら随分と時間が過ぎていたらしく晩御飯の時間になった。アキさんの話はその後でという事になり皆もログアウトした。


 お風呂も先にすませ、パソコンの前に座る。インしたら先にメェと羊のカップルが来ていた。挨拶を済ませたらすぐにおーことヨモギ夫妻も来た。グループを作ったヨモギも、なぜかアキさんを脱退させる事は出来ないと言っている。パックで出したハーブティーをゆっくり飲んでいたら残りのメンバーの、リツコとモリタも来た。

『さて、私のところでは、ヨモギが招待したことになっているわ』

『僕の方ではメェさんですね』

 とおーことヨモギが言った。続けてリツコが、ぼくはよもぎーと言った。

 1分程してモリタから、メェ、と一言来た。

『え、なになに?これってまさか、新しい機能??どーなのヨモギ!』

『いや、そんなものはなかったです。他のグループにも聞いているのですがどこもないそうで。管理人からの返事も数日かかるでしょうし…』

『てことは誰か連れてきたのかしら。ほら、今年は私達とリツコがよく心霊スポットとか骨董品の店に行ってたじゃない?』

 ただのそのやりとりだけで全身が冷えた。ホラーは好きだがこちらに影響がくるのは起こってほしくない。

 一度ここで会話が何分か途切れた。

『でも見事にバラよねー他でもないならマジでそうかも!』

『え、ネットにくるの?最近の幽霊ってハイテクなんだね』

 メェと羊がそう言うと、また何分か途切れた。

『まあ、カメラが出来てから写真に写ったりするって言うからありえるかもしれないわね』

『ウチら去年持ってきちゃったかなー?』

 また途切れる。きっと皆怖いのに無理して続けているのだろう。

『ね、皆わざとー?』

 次を続けたのはリツコだった。

『めーとひつが行った去年のやつ』

 とは言うがここの人達は毎年たくさんの写真や動画を送っている。心霊スポットだけじゃなく、神社やお寺に行った時や、空き地の時もある。後半の場所は、綺麗なのもあるから心霊には全く関係ないやつもある。撮り方が上手く、季節の感じられるものもあって、雑雑とした日常のなかの風景だというのに物凄く綺麗だ。他の人達もピンと来ないのか、なんだっけ?と言っている。

『ほらーどこだっけー背景が病院だったかなー建物の入れ替わりがはげしーとこ』

 リツコの文を見てからすぐピンと来た。メェと羊は2人で行く事が多いのに、あの時はなぜか知らない人と3人で行っていたのだ。当時は三角関係かと思って怖かったのでよく覚えている。

『もしかして、処刑場だったかもしれない所に村ができて、時代と共にインフラが整わないから人がいなくなって、農家が土地の良さに集まって、でも売れなくなってきてやめて、自然を利用したパークが出来て潰れて病院になったとこ?』

 送信し終えると、そー、とすぐに返事が返ってきた。

『あーっこねー待ってて探すから』

 10分くらい経った頃、メェじゃなく羊が写真を送ってきた。

 前に見た時と同じ、何も変わらない。1番左、1歩下がった所に知らない女性、真ん中にメェ、すぐ隣に羊。皆専用のカメラと三脚を持っているので、建物に入る前にこういう撮り方をしてから入るそうだ。

 女性は、髪の毛を下の方でお団子に結んでいて、シャツのようなパリっとしたワンピースを着ている。ウエストの部分がその服とセットのベルトできゅっとなっているので、ラインができて爽やかだ。メェと羊は走りやすいような格好をしている。荷物も最小限で、迷彩柄のズボンがすごくかっこいい。

 これもあった、とメェも見つけたらしく病院内の写真を送ってきた。移動しながら撮る時は二人共それぞれのカメラでそれぞれ撮っていくので、お互い写らない事が多い。ただ今回は3人目がいるので、その写真では女性が写っていた。振り向き口角を上げている。どちらかが、どうせだからとそうお願いしたのだろうか。

『このとき、ゆゆおかしかったよねー』

 突然のリツコのその言葉にドキっとした。何かしでかしていたのだろうか。

『そ?ゆゆこ普通じゃない?』

『あー、何か気をつかっていたわね』

『や、それもそーだけど、そーときからモリタって人と話し始めたジャン』

『ゆゆこワールドね!でももとからふわってたじゃん!面白いから好きだったよー』

『俺もよく笑ってたかな』

『もしかしてあの時からかしら?ゆゆこ、この写真で疑問とかないの?』

 皆が好き放題言うけど、面白かったのなら良かった。悪いことをしたんじゃなくてほっとした。返事をするために改めて写真を見てみるが、やはり何もわからない。とりあえず、あの時不安に思っていた事を伝えようと思いキーボードを打つ。

『いつも2人なのに、あの時、女性と来てたから…三角関係かと思って…』

 と言うと流れが止まった。

『2人だけど…ゆゆこ』

『え、ほら、メェの隣に、一番左に、下でお団子結びしてるワンピースの女性』

 急いで返事をした。送った時には相手の返事はまだかと心がソワソワとした。なんだか嫌な感じがする。とりあえず気持ちを落ち着かせるためにハーブティーを一口飲んだ。だけど、動揺していたので気管に入ってしまい咳き込んだ。

『2人しか見えないわ』

『僕もメェさんと羊さんしか見えません…』

『ぼくちょっと調べてくるー』

 あまりも怖さに全身が寒い。その中でも手がどこよりも冷えて寒いので息をかけた。かかってる間は暖かく感じるがすぐに戻る。何回かそれを続けて、他に気を紛らわせれないか探すが思いつかない。特に喉も乾いていないのにハーブティーを一気に飲み干した。

 待っていたら、探し終えたのかリツコが、医療事故、と単語を送ってきた。

『に見せかけた殺人。や、アキじゃなく、押し付けられ』

 と、また止まった。

『ねえ、ゆゆこ、ウチらの写真、どんな人か詳しく描ける?』

『んー、やってみる』

 紙とえんぴつを用意して写真を見た。1歩後ろには下がってはいるが、メェより少し背が高く平均的な肉付きをしている。1枚目はメェと羊と同じ、無表情なはずなのになんだか柔らかい。2枚目は口角を上げているが、ただの笑顔ではなく頼れそうな、私が倒れてしまっても安心できそうな雰囲気をしている。この人が犯罪だなんて全く考えられない。


 完成した似顔絵を写真に撮り、グループに貼り付けた。

『うーん。すれ違ってもいないし…やっぱり考えても俺とメェしか見ていないな…』

『ウチも知らなぁい、行く時だってだーれもいなかったもん』

 困ったなぁ。写真の中には彼女がいる。他の人にも見えているのならよかったのにと、心の底から思う。1人ではとても怖いし不安だ。だけど、さっきリツコが言ってた事を考えたら少し悲しくなってきた。

 一旦リツコがログアウトしたと思ったらすぐ戻ってきて次の話をした。

『そこの病院は精神病院。昔は精神病に偏見や差別も多かったからいじめもあったってー。まぁ昔は精神病を悪魔憑きとか言ってたしね。でー、電気椅子とか殴って倒れた時の打ちどころが悪くてとかでいっぱいあったみたい。それを患者に内緒で、解体して料理させて食べさせて、骨とかは燃やして。

 数年後、盛田もりた晶子あきこって看護師がその病院に来たんだー。最初はその事に気づかなくてー、精神病は治ると信じて頑張ってたって。でも他の人は違ってね。周りで暴力とかそんな事をしてたらすぐバレるわけで、もちろん晶子さんにもバレた。それで警察に行った。で、病院側はその間に晶子さんに疑いがむくように証拠を押し付けたり作ったから晶子さんが自首したってなったの。

 家族はもちろん納得いかなかったから訴えたり弁護士や探偵を雇った。とある1人の警察官も疑問に思って手伝ってね。晶子さんの親戚も全員総出で手伝って、やっと今年真相が分かったって。患者が居なくなったのは、昔地元新聞で言われてたよりも多いのが分かったって。それに、病院から警察に賄賂があって早急に解決するようにと圧力かかってたってサ。

 その場所の写真を送った時から、ゆゆこが突然1人で話し始めた。その相手がモリタ、今回誰も招待してないのに入ってきたアキ。ゆゆこにだけ見えてた女性。めーとひつに着いてきたのかもネ』

『てことはその盛田晶子って人なの…』

『おや?皆さん、実は僕もちょっと調べまして。こういうのを見つけました。地元新聞のものです』

 ヨモギの送ってきた画像には晶子さんを最大の悪として書かれた内容があった。小さく写真もあって、画質は荒いが私の見た女性と似ている。

『あ、モリダ、だったね。モリタかとおもってたヨー』

『こっちのチャットに居たのはモリタだもんねリツコ』

 モリタとアキは同一人物なのだろうか。いや、その可能性しかないがどうしても本人から聞きたい。モリタに質問するために探して見たがどこにもいなかった。個人チャットの履歴すらない。今日もモリタは一言ではあるが話していたはずなのにそれすらない。メンバーにもいなかった。

 いつの間にかアキさんも脱退していて、そのログだけが残っている。

『あれ、抜けたわね』

『こりゃウチらがガチで連れてきたのかもね。気をつけないと』

 そうだねー、とほっとしたのかチャットはガヤガヤとしていった。

 心霊スポットに行く勇気もないのに、興味があった。それでも最近は行こうかと悩んでいた。が、こういう事がある限りやめた方が良いのだろうか。ここの人達が、今度そっちの県に行ったら行こうと誘ってくれていたが…。

 そう考えていた時だった。

 右の耳のそばで、行かない方がいい…私達のような者がいるわ…危険よ…と誰かが言った。いや、多分晶子さんだろう。晶子さんの声は聞いた事もないが、今回皆が体験した不思議な事を考えるとそうだろう。

 直接言うくらいだ。本当に危険なのだろう、そう思い一応皆にも伝えた。


 その後も飽きずに続いていて今でもメンバーとの交流は続いている。あの後すぐに2人、おーこの長年の友人とその娘さんが入ってきてとても賑やかだ。

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