わたげちゃん達
大きく息を吸い込む。中の悪いものが換気されているようで清々しい。だんだん季節が変わっていくからなのだろうか。たんぽぽの綿毛達が楽しげに話しながら、風に目的地まで運んでもらっている。潮風にゆられたいやら山で毎日パーティーをするのやら海外まで行くやら話している。あまりにも楽しみなのか、希望に包まれているのか、るんるんと踊っている綿毛もいる。そんな中に囲まれているもんだから、私もすっかり心が踊っていた。今いる場所が家の中や庭だったら、一緒に踊っているだろう。太陽さえも祝福しているようにも思えてくる。
楽しいと目的地に着くのも早く感じるものだ。友達と約束している公園に着いた。お昼はここでピクニックにしようとなったのだ。ここは芝生だけで遊具は一切ない。ピクニック仕様になっていて、近くに店があちこちある。他の公園よりトイレや水道、ゴミ箱やテーブルが多い。店も雰囲気に合わせて、移動販売車でやっているところもある。店の前には店が用意した食べる席もあるので、また違った雰囲気が楽しめるのだ。電車に乗ってから歩くのでちょっと遠いが、それでも来るかいがある。
念の為、余裕をもって出たので少し時間が余った。どこの席も埋まっている。芝も人が居てなかなか良いところが見つからない。待っている間だけ、どこかないかと探していると、ぽつんと空いているところがあった。日陰な上にゴミ箱や水道が近い。近いとは言っても5m以上の距離はある。そこくらいなら大して汚いわけでもないので、早足で向かって座った。ずっと立っていたので、ただ座るだけで筋肉がほぐれるような感じがして気持ち良い。体の緊張が緩んでいく。荷物を置き、背伸びをした。このままほぐれて、うっかり寝てしまいそうだ。
たくさんの人達の話す声が聞こえる。もちろん、何を言っているのかわからないが、笑い声も聞こえる。
目をつむって楽しんでいると後ろからうめき声が聞こえた。振り返って見てみると、下の方で折れているたんぽぽの綿毛がいた。何をすればいいか分からないため、指を近づけては離してを繰り返した。
「うう、そこの人…風がある時に私達をとばして…これじゃあどこにも行けないよう…」
お願い、と綿毛達が言う。
「わ、分かった。風がある時にとばせばいいんだね。えっと…これは…茎は切ってもいいの?」
「うん。いいよ…茎も頑張ってくれたけど、踏まれてから随分と経つしもうすぐ終わるんだ…」
そっと持ち上げ、茎を引っ張ってちぎった。風が吹いてもここは障害物が多いと思い公園から出た。たしか少し先まで歩くと広い場所に出る。周りは家や、建物だったはずだ。建物の感覚は広く、飛びやすそうだと感じた事がある。ただ、建物の中で唯一分かるのは百均だけで他は何をしているのか全く分からない。少し不安を覚える。
そこへ向かい、風を待った。まだ待ち合わせ時間に余裕があるのでゆっくり待つ事ができる。
「助かったよ」
「僕達、もう終わりかと思った」
「たんぽぽになったら会いに行くね」
「たんぽぽになったらどうやって歩くんだよ」
なんて、ほっとしたのか一斉に話し始めた。
上の方で風の音が聞こえる。こっちまで降りてきてくれたらいいのに。
待っている間は皆、どこに行って何を見たいかとかを話していた。聞いていると、なんだか楽しそうで、自分も綿毛になった気分だ。
「どこも良すぎて迷っちゃうね」
「そうなんだよ」
「いいや!同じたんぽぽが集まるとこがいいんだってば」
「…ふふ。住む場所想像したら住んだ気になっちゃった」
「えー!もったいない!わたしの行くとこに一緒に来れば想像と違うって分かるよー!」
そうだそうだと綿毛達は言う。
「住んでからしか分からないもんだよー!」
「うーん。そうだね。どんな空気がするのか、どんな繋がりがあるのかわからないね。そう考えたら、いつか皆の行ったところに遊びに行きたいよ」
また、そうだそうだの合唱がおきた。行きたいところが増えて、楽しみが増えた。けれど、これは…何回生まれ変わったら終えるだろう…。私のことだから、一度じゃ足らずもう一回と言って遊びに行きそうだ。
風が近くを通った。
「こんな所にもわたげちゃん達いたのね。皆を呼ぶからいらっしゃい」
と言って、風は周りの風達に伝えていった。
後ろから凄い音がする。来たのだろう。風が下から上へと流れていった。綿毛に息を吹きかけたら、皆笑いながら飛んでいった。
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