シジュウカラの恋模様

 1羽のシジュウカラがうろうろとしている。白黒と灰色の体をあっちこっちへぴょんぴょんしてはうなだれて。その場にはその1羽しかいないのに何をしているのだろうか。

 ベンチに座って見てからどれくらい経っているだろう。疲れて座っていたのだが、今ではすっかり疲れが取れている。そして、いつの間にか隣に知らない者が座っていた。

 背は私と似ていて、見た目はカカシのように見える。服から見える腕などは木の棒で手袋をつけている。顔はかぼちゃで目や口はハロウィンのようにくり抜いてできている。鼻は小さめの人参を雪だるまのようにつけていて、見ていたら煮付けを思い出してお腹がすいてくる。服装は昔の海外の刑事ドラマで着てるようなコートや帽子を着ていて、なんだか可愛い。

「彼ね、やっと好きな子と暮らせるんだよ」

 と、カカシは気づいていたのか、そう言った。

「やっと??」

「そうだよ。彼らにとっては長い時間だったんだ」

「なにがあったの?」

「彼はね、この近くで生まれて無事育ったんだ。巣立って食べ物を探していると、同じものを狙ってる子がいてね。かち合ったんだ。

「これは僕のだよ!」

「私が先に見つけたのよ!」

 なんて喧嘩をしているうちに他の鳥に取られてしまって。そして次の食べ物を探しているとまたかち合うんだ。

「なんで私の真似をするの!」

「そっちこそ!僕のを横取りするなよ!」

 とまた喧嘩が始まった。それを見かねた彼の兄弟が、そんな事をしてるうちにまたとられちゃうよ。半分に分け合いなさいな。と言ったんだ。

 2羽はしぶしぶそうして食べた。

 運命というやつなのかねぇ、他の鳥とは会わないのにその2羽だけかち合うんだ。2羽の目にはお互い自分の見つけた食べ物しか見えていない。野生だからね、他の鳥の事を見ていたら食べられてしまって自分が飢えてしまう。お互い文句を言いながら半分こにして食べる日が続くうちに、文句はやがて世間話になっていった。どこで生まれたか、兄弟姉妹としたイタズラ、こんな悪い鳥が来たとかとか。 2羽とも惹かれ合って、ちょうど良く夏が来たもんだから一緒に暮らそうとなったんだ。夏はご飯が豊富にあるからね。2羽の過ごしていた場所の間がちょうど良いんじゃないかとなって向かったんだ。

「じゃあ私、巣を作ってくるね」

「わかった。悪いやつが来ないよう見張ってるよ」

 そう言って巣作りを始めた。

 彼女が巣に使えそうなものを集めて運んで作って、ずっと動いているもんだから彼は何かできる事がないかと考えていた。彼女が動けば自分も動いて。

 そしたらちょうど下に食べ物があったから取りに行ったんだ。取って戻った。たったそれだけなんだ。たったそれだけの間に彼女はいなくなった。

 あたりを見回すがどこにもいない。大声で呼ぶが返事はない。次の日になるまで探すが見つからない。どうにもできないから家族のもとに行き相談した。家族も周りに聞いていったが見つからないまま冬になった。周りも、もう次を見つけなさい、というが彼はずっと探し続けた。

 そんな彼はストレスからかやつれてしまってね。見るに堪えない姿になっていた。

 全く違う種の鳥にも話が行ってね、自分の生活をしながら近くにいないか探してくれた。

 それから春になっていった頃、雀が噂をしていたんだ。シジュウカラの女の子が人間の家に閉じ込められている、と。その話が近くのツバメに行き、シジュウカラに行き、彼女の姉に行き、家族に広まり彼のもとまで届いた。

 お互いの家族で見に行くと、二人の子供が彼女に餌をあげていた。彼女は食べるがあまり食欲がないのだろう。すぐにやめて目をつむった。子どもたちがどこかに行くと、彼女は檻から出ようとくちばしで壊し始めた。

 家族はどこか入るところがないかと探すが、どこも隙間がなくて中に入れない。けれど諦めずに見張っていたら、親が子供の部屋に行き窓を開け掃除を始めた。そしてドアを開けたままにし廊下掃除を始めた。皆で窓から入りあれやこれやと檻をいじって開ける事に成功したんだ。さて、あとは飛んで帰るだけなのだが、鳥なので逃げられないように羽を切られていて飛べない。そして子供特有の恐ろしい好奇心で指の1つが切られていて歩く事もままならない。それでも死の恐怖から力を振り絞り外へ出たんだ。そこからは家族に守られながら、元いた場所に一ヶ月かけて戻ってきた。

 彼女が言うには、巣に使えるものをとってる最中に突然人間に捕まえられて、あそこに閉じ込められたというのだ。ペットとして飼っていたみたいで、逃げて迷子にならないように羽を切られて、更にこの小さな足に痛覚はあるのかって考えから切られたというのだ。

 しばらくは親の元で体を元気にするとの事で別れた。お互いやせ細って、彼女は羽が生え変わるまで何もできないからね。

 それで今日がお互いまた会う日なんだよ。怖くて壊れた日常は戻らないけど…。来るといいがね…」

 彼は話に聞いていたやせ細った姿じゃなくぷっくりとしていて毛並みもよくなっている。よほど気になるのかたまにくちばしで毛を整えている。

 先に誰かが来た。カカシ曰く、彼女側の母だそうだ。お互い何かしら会話をしている。その後たくさんのシジュウカラが待っていた彼の所に降りていった。

 彼が彼女らしき鳥のところへ行き、話をしながら彼女を毛づくろいしている。

 羽は生え変わるとしても、足や心は戻らない。私達は好奇心で簡単に力を入れて相手を怪我させたり殺したりしてしまう。それに対する答えは教えても聞く耳をもたないからそれぞれ考えなければいけない。答えが分からないことばかりだ。なんだか空のように空虚さが広がるばかりだ。

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