秘密の花園

見つけた秘密の花園ー踊る感じー楽しいー花の妖精ーこっちに愛のテーマもいいかもーいや単純に楽しかった充実かー自分の秘密の場所


「ん?」

 あまりにもタコライスが食べたいので、おやつにと思い隣町を歩いていたら全く知らない道があった。いや、道と言うのか。小さく数段くらいしかない石の階段の先にしばらく石畳でできた道がある。のだが、植えてあるのか生えているのか植物で塞がっていて見えにくい。

 ここはたしか、3台しか置けないものの駐車場があるスーパーが潰れてから市が管理している空き地で、遊具も何もないが解放されていてたまに近所の待ち合わせ場所やイベントの時の集会場所になっていた。

 周辺の家の敷地になったのだろうか。周りをぐるりと歩いて確かめるがそれらしきものは見えない。地図を開いて確かめても特に分からないままだった。歩いている人が居たので聞いてみたら、いつの間にかこうなっていたようだ。まだ市の管理らしいが、入りにくいので使う人がいないのだそう。

 たしかに植物で入り口は囲まれているから入りにくい雰囲気ではある。おまけに木で囲まれていて中がどんな作りなのか分からない。

 怖いから後にしようか、でもやめたら気になって寝れなさそうだ、と迷っていると中から笑い声が聞こえた。

 腕でどけてもどうしてもぶつかってしまう葉に心の中で謝りながら進む。周囲にだけ木が生えているだけで中はラベンダーなどが植えられていた。他にも色とりどりな花がある。そのまま進むと中央らしき所に木があり、その周囲には編み込みで作られたようなテーブルと椅子置かれてある。石畳も中央まで行く道と木の周辺のみで、その周辺で遊べるようにしているのであろう、土になっている。

 人工的に作られているとはいえ、この中だけ香りが良い。ここでお茶会とかしたら更に美味しさが増しそうだ。

 あちらこちらから楽しそうな笑い声が聞こえる。目には見えないが、もしかしたら飛んでいる葉や花びらなのだろうか。風もないのに乱雑に動いている。

 きょろきょろしていると一枚、紫のまじった濃いピンク色の花びらが来た。

「あ!人間だ!遊びにきた!皆ー!!」

 その声掛けで周りで飛んでいたものたちが集まってきた。

「わー!」

「こっちおいでー!」

「あたし、人なんて初めてー!」

 と話しかけてくれるものもいれば、鼻の上に乗ったり、目隠ししてくるいたずらっ子もいる。どこから入り込んだのか、脇腹や首筋をくすぐる子も居たので数分間笑いっぱなしで大変だった。

「わーもう、皆ふふ、皆、ここに住んでるの?」

 笑いで出た涙を拭いながら聞いた。けどその自分でやった行動ですらくすぐったく感じてまた笑ってしまう。

「そうだよー最近ここに来たのー」

「ここは何もしなくても人間が世話してくれるからずーっと遊んでいられるよー」

「あ!ここに2組の家族が来たんだよー!」

「たしかもう赤ちゃんいるんだよね」

 たくさんいるからか、話が止まらない。次から次へと話が移っていってとても賑やかだ。

「家族?」

 と聞いただけでそこかしこから、鳥さんが来たんだって返事が返ってくる。

「捕まえれるかなー」

 鬼さんおいでーと葉っぱが目の前をゆらゆらして離れていった。

「わー!人間が鬼ー!」

「きゃー!」

 と可愛らしく声を上げて逃げていく。荷物を急いで走った。不規則にふら、ふら、と動くので意外と捕まえにくい。鬼、という事は鬼ごっこだと思うからタッチできればいいのだが、なかなかできない。それでも久々の解放的な遊びで楽しい。

 走っては息切れで休んでを繰り返して。やっと1人目を捕まえた。皆は人間が飛べない事を知っているので私の背より上には行かないように飛んでくれている。

 捕まえた小さな葉が手伝ってくれたおかげで他の子も捕まえやすくなった。逃げた場所にふらっと出てそのうちに後ろからタッチする。段々手伝ってくれる子も増えてからは誰が誰だか分からなくなってきていていた。多分もう鬼ごっこではなくなっているのだろう。

 右手がその先の薄紫の花びらに触れようして伸ばしていく。空気の抵抗を感じるが全く気にならない。暖まっている体と外の空気が体内に入る時の温度差さえ楽しいのだ。走っている時は体が軽く感じて妖精になったような気がする。花や葉が指の間からすり抜けていく。

 遊んでいるうちに風もまざってきた。

「ひゃ!わ!はは、凄い!」

 突然下からぐるぐると優しく風包み込んできたと思ったら、ふわっと体が浮かんだ。走っていると何回か浮く。それが楽しくて走って自ら跳んでみたら更にふわっと高く浮かんだ。空を飛ぶというのはこんな感じがずっと続いているのだろうか。


 こんなに楽しい時間を過ごしたというのに、終わりが来るとどうしてこうも物足りなく感じるのだろうか。

 まだ遊んでいたいのにお腹が鳴って、あまりの空腹に力が入らなくなったのだ。

「もうそろそろ行くよ。お腹がすいて倒れそう」

「そうなんだーまたねー」

 たくさんのさよならという声の中、鞄を持ちスマホから時間を確かめる。ここにきてから何時間か経っていたようだ。5時30分になっていた。タコライスの店はまだ空いているので、そっちの方が近いのでお腹の具合も間に合うだろう。

「また遊ぼーねー」

「遊びにきてよー!」

 という声も聞こえてくる。振り返って手をふりながら、また遊びに来るよ、と言って出た。


 心がリフレッシュしているからか歩く時に足がスイスイ前に進む。

 店に着いて席に座り、水が来るまでメニューを見る。タコライスを目的に来たのだが、タコスも良さそうだ。だけど僅差でタコライスのお腹に傾いたので、水を持ってきてくれた店員にそれを頼んだ。

 あぁ、よだれが出そうだ。

 食べ物を待つという幸福な時間。まだかまだかと体がそわそわする。

 そうしているうちに店員がタコライスを持ってきた。店はどうしてこんなに早く料理を出せるのだろうか。家では30分も1時間もかかるというのに。全く不思議だ。

 スプーンを持ち、タコライスを少し混ぜ口に入れる。多分混ぜなくて良さそうだがついクセでしてしまうのだ。

 茶色い味のしっかりついたミンチがたっぷり入っているというのに、トマトやレタスの酸味やみずみずしさで全くしつこくない。


 食べ終えて、家に戻る時もるんるんと体が軽く家にもすぐ着いたように感じた。

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