星の恵み

 2月10日。その日をカレンダーで見るだけでよだれが出てくる。その日は星達の大掃除の日だ。星から出た欠片は落ちていく間に空気に触れ味の角が取れ食べやすいおやつになるのだ。


 10時になり庭に外用の椅子とお菓子を入れるための袋やカゴを持っていく。とても寒かったので生姜湯とカイロも持っていった。

 今年も本屋さんは約束通り時間きっかりに場所へ来ていた。

 ちょうどリビングの窓の前に居るので後ろを見ると家族がテレビを見たりしているのが見える。父はパソコン画面を見たりスマホを使ったり忙しそうだ。姉が分からないことがあったと言っていたので通話で聞いているのだろう。母は兄とクイズ番組で競い合っている。

 そんな何でもない場面を見て、ほっこりとしたり、皆もこんな風に危険な事を心配しないで何でもない日常が訪れたらいいのにと思ったりするのは、今日が特別な日だからなのだろうか。

「あ、来ましたよ」

 そう本屋さんが言うので上を向いたら震えているのか2重に見えた。錯覚なのか光が強いのか実際に震えているのか。

 それから数分経つとまばらにキラキラし始めた。2人で持ってきた袋の用意をする。

 最初に落ちてきた欠片が見えやすくなって来た頃には全ての星から欠片が出始めた。

 ここから忙しくなる。最初に落ちてきた欠片を空中で袋の中に入れていく。そうしたら次から次へと落ちてくる。これは他人から見たらゲームみたいに見えるんだろうなと思うと少し笑ってしまった。

 袋がいっぱいになるとカゴに閉まって急いで次の袋を用意する、これの繰り返しを二人してひたすら続ける。

 そうして全ての袋がいっぱいになったら寒いので家の中に戻って食べるのだ。

 落ちている欠片はと言うと朝になるまでに他の動物や虫が食べたり微生物が分解したり水に溶けたりして栄養になるのだそう。地面に積もって行くのを見て、全部拾いたいなぁと食いしん坊が発動してしまう。けれど独り占めはよくないので今拾えた分を堪能する事に集中した。

 いただきます、と言って2人で欠片を食べ始めた。

 噛むと人間が作るハードグミより硬い。が、ずっと噛んでいくとじょじょに柔らかくなり中から液体が出てくる。

 最初に入れた瞬間は柑橘類のような酸味があり実に爽やかだ。酸っぱいのではあるが香る程度なので食べ続けても全く邪魔にならない。それに唾液と合わさって段々甘くなっていく。そして1回噛むごとにマンゴーの様な独特の香りとミカンの様な甘さになっていく。最後に中から液体が出るときは香りも最大になりジュースを飲んでるようだ。そしてまた次のを口に含むとリセットされて何個も食べてしまう。

「今年も美味しいね」

「ですね」

 美味しさに思わず顔が緩む。

「そういえば星がなぜ地球にこんなにたくさんの恵みをくれるのか解明したみたいですよ」

 ひと粒口に含み本屋さんはそう言った。

「え、そうなの?今まで解明できないんじゃないかって言われてたのに...いったいこれは何??」

「中世のヨーロッパみたいでして。子供の頃からお互いに恋に落ちている2人が居たんです。親は珍しい恋愛結婚に大層喜び2人が結婚出来る年齢になったら許可したそうです。

 彼は家の仕事を引き継ぐみたいなのですが少し否定的でした。彼には落ち目で減ってきている飲食店で新しいものを作って復活させたい夢があったのです。それを聞いた彼女はその素敵な考えに同意して、力になりたいと言ったのです。それを聞いた彼も喜び、何人か跡継ぎを残して少し金銭に困っているので助けてくれと言いました。彼女は喜んで力になれるのならと頷きました。

 最初の一人目の子供の後、売れ行きが良くないのか夫婦でご飯が食べられない日々が出てきました。

 彼女は仕事はどうなっているのか、と聞いたら全くダメなのだそう。苦労の割には報われない、本当にごめんと泣くので、私も頑張るからと彼女は励ましました。

 子供が乳離れをした頃、彼女は彼の母にこっそり、自分も働きたいのでその間は見てくれないか、と相談しました。もちろん家の力になれるのなら、と母は快く承諾しました。

 そして夜になって彼が家に帰ると、私も仕事をする、と伝えました。そしたら彼は、この仕事は男の力じゃないとできない、と言うので彼女は、じゃあ外で稼いでくる、と言いました。彼は物凄く後悔して、すまないと何回も呟いて泣きました。

 次の日さっそく彼女は仕事を探しました。ですが女性に出来る仕事の種類は多くなく何も見つからず夜になりました。これでは合わせる顔がない、と思い自分で何か新しく価値が作れないか、何かないものか考えました。そうしているうちに過去に結婚している男性同士の話を思い出し、試しに実行しました。

 彼女の真っすぐで優しい心で見事に成功しました。これで明日からも助けになれると思って、夜中に家に帰りました。

 そうして彼女は夜になるまで子供に一生懸命愛を注ぎ外の世界に触れさせ、夜は仕事に励みました。そうしているうちにご飯も食べられるようになっていき、彼はやっと将来のために勉強が出来るようになったのです。

 そして数年。4人の子供に恵まれ今の所元気に育っています。そうやって頑張っているおかげで彼がお礼にと新しい服を買ってくれ物凄く幸せでした。

 ですがやはり人間もまた自然界の厳しさの中にあると言う事なのでしょうか。幸せはその数年でした。

 ある日突然家に彼が帰って来なくなりました。何かあったのかと心配になり職場に行くと誰も居ませんでした。今で言う夜逃げみたいな感じです。

 彼女は周りの人に聞いてみました。どうやら随分と前から店はやっていないということだそうです。それは彼女が仕事を始めた辺りから。それからと言うものの4人の子供のご飯のために仕事に励みました。今までより貧相な生活でしたが子供たちは父親や今まで居た祖母まで居ないことで何かあったと思い文句は言いませんでした。そして、母が自分のご飯を食べなかったり量を減らしてまで自分達に渡している事も気づいてました。

 そうしているうちに母の実家も歩ける距離にあり道も知っていたので長男が、たどたどしい言葉ながらも母方の祖父母に相談しました。それに祖父母は悲しみ娘孫を迎えに行き、旦那家族を探しに行きました。大して裕福ではないので相変わらず生活は苦しいままですが物凄く安心して一晩中彼女は泣いたそうです。

 ある日、彼女が夜の仕事をしていると旦那の姿が見えたのでこっそり追いかけました。彼はどちらの家よりも少し裕福そうに見える家に入り、知らない女性とハグをしていました。そこには彼の親も居て皆で笑い合っていました。なんとか聞く事が出来ないかと耳をあてました。君と会えて幸せだよ。私もよ。とかすかに聞こえます。そして2人は別の部屋に行きました。するとそこに残っていた彼の親が、結婚しなくてよかったなぁ。でも自ら働いて私達に贅沢をさせてくれるなんてあの子も良かったんだけどね。いやぁあのままだと跡継ぎも死んでしまうよ。なんて会話が聞こえて、彼女は泣きながら走って実家に向かいました。ですが道の途中で運悪く馬車にぶつかり亡くなりました。

 それを見ていた月が人間の身勝手さと報われなさに憐れみ、たくさんの星達に自分達の体を綺麗にしたら出る欠片を地球に降らせる事を頼みました。

 この欠片は栄養があるので勝手な事をされて振り回されている生き物たちのために今でも年に一度、一年分降らせているのだそうです。」

「それに...そんな事があったなんて...」

 我が先にと取っていた自分が恥ずかしい。

「今は、自分達の欠片を美味しいと言っているのも知っていてそれも凄く嬉しいんだそうですよ」

「...にしても、そんな昔から今でも続いてるなんて。ずっとなくならなさそう。せめてこの時代でなくならないものかな。1000年記念とかなってほしくないよ」

「...そうですね。本屋が生きているうちになくなるといいのですが、様々な欲が多く、それに対する考え方も無数なくらい多いので...本当にいつ落ち着くのでしょうね」

 その星達の優しさからなのだろうか。無限に食べられそうなくらいの味と、食べるだけじゃなく飲み物も摂取が出来る。最後に小さくなるがずっと噛めるのも...。

「...来年..」

 どうしようか悩んだ。美味しいから食べたいけど私が食べていいのか。

「来年も食べましょう」

 と言ってくれたので少し心が軽くなり、うん、と答えた。

「これ、栄養あるっていうけどこんなにたくさん食べて体大丈夫かな...」

「...い、一年かけてたら大丈夫じゃないでしょうか...」

 そうだね、と言い近所の面白かった話などをしていった。

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