友達の影
それは小学校の頃に、泥パックというのをしたくて放課後に泥遊びをしていたときだった。
子供の頃は放課後友達と遊ぶのと1人で遊ぶのとまちまちだった。その日は気分的に1人で遊んでいた。
一生懸命水を砂場に運ぶ。ある程度運んだら泥にしていく。そうしてると、今日は1人なんだね、と声をかけられた。
慌てて声のする方を見ると自分の影が手をふっていた。
「うん、泥パックに集中したいから」
「泥パック?」
「うん、テレビでしてた。泥をつけるとお肌かがやくって」
「へえ、そういうのがあるんだね。私もしてみてもいい?」
「うーん、うん!いいよ!今ね、泥つくってるから、まぜて」
「うん!」
なんとなくチラッと見てみると、影のままそのまま手を伸ばして混ぜていた。地面を這っているままだから、体が伸び縮みしているのだろうか。影なので顔がこちらを見ているかも分からない。それが凄く不思議だった。後ろを向いているようにも見えるのに泥を触っている。
2人でこねていると意外と早いものですぐに泥になった。
「それで、こうやってつけるみたい」
顔はさすがに拭くものもないし、服に垂れて汚したくないので腕につけてみる。影も真似をして腕につけていた。
服の形がなんだか同じに見える。キョロキョロと見てみたら自分の影がどこにもなかった。
「あ、私あなたの影なの。あまり話しかけるとダメかなってずっとだまってたの。それに、おばけとよくまちがわれるし…」
改めて声を聞いたら自分と同じ声をしていた。私は何も話していないのに勝手に話しているような面白い感じだ。
「うん、あなた、おばけにみえる。でも、怖くないから大丈夫だよ。いつでもあそぼう」
そう言って腕の泥はどうなっているんだろうと思って落としに行った。水で流した後触ってみると、テレビで言っていた通り凄くスベスベした。でも同時に、そこらへんで無料で泥パックが出来るのに大人はなぜお金を支払うのだろうと疑問が出た。その疑問は調べるのを後回しにし続けているので今でも知らない。
「そうだ、怖い小屋知ってる?」
まだ明るい中、影は言った。
「こわい小屋?」
「うん。怖いって言っても誰も行っていないから怖いかどうかも分からないけど」
探検や怖いものと噂されているものが好きなので、行く!と元気よく返事をした。
学校の少し奥に行くと裏山がある。いつも閉まっていて中に入る事ができない。まっすぐ扉には行かず、影は少し道を外れて這っていく。山の隣にある坂道を上がっていく。藪をかき分けて少し歩くとフェンスの続きがあった。近づいてみると劣化からなのか外れている所がある。小学生の小さい体なので、その少しの間から中に入っていった。
そしてそのまま影は這っていった。
一旦、授業で使ういつもよく見る場所まで降りる。だけどすぐに行ったことのない道へ進んで行った。とは言ってもそこまで道はそれていない。ほんの少し歩いたら、個人が間に合わせに作ったかのような石の階段があった。
降りると小さな家が見えてきた。ここで暮らすにはトイレもお風呂もなさそうで大変そうだな、というくらい小さく見えた。
「ここだよ。1人で行くのは勇気がいるから....」
たしかにそうだ。ある理由が分からない場所にあって見た目も使われてないかのように古く見える。ツタが絡まっているから本当に使われていないのかもしれない。
「たしかに、勇気がいるね」
ドアノブに手をかけてみた。案外あっさりと開く。たしかその時影が、ドアに鍵ついていないんだ...と呟いていた気がする。
臭いのかな、と思って身構えていたけどそうでもなかった。外からの見た目とは違って中は意外と綺麗だった。床を見るとホコリも見かけなかったので、靴を脱いで入ることにした。
「ここ、なんだろうね」
と靴を脱ぎながら聞いてみた。
「うーん、なんだろう。怪しいとこかと思ったら違うみたい」
中に入りじっくり見てみる。1つの大きな部屋と周りに2個ほど戸がある。大人になって分かった事だけど、真ん中には囲炉裏があった。古い家なのかと思えばそうでもなく比較的新しい台所もついていた。戸の向こうが気になるので、開いて覗いてみたらお風呂とトイレだった。
「おどろいた、古くないしなんかキレイ」
正直、かび臭いとか何かが居るとか思っていた。
「うん、そうだね。トイレもお風呂も新しい、ほら!これ、ゆめみちゃんの家にあるのと同じのがついてる。おゆだき《おいだき》」
「わぁ!本当だ!トイレも良い香りしてたし、あ、見て、お風呂の香りつける粉!」
学校で散々言われていた、人の家の引き出しを勝手に開けない事がここではすっかり忘れていた。ワクワクした気持ちが先行し、洗剤や洗濯板など色々な物を覗いていった。
危険そうな台所以外の引き出しという引き出しや棚、押入れ等を開けていく。特に怪しいものはなく、布団が入っていたりしていただけだった。
「なぁんだ、怖くないとこでよかったー!」
と言って影がペタンと座った。
「うん、そうだね。どろぼうみたいに悪いことしたから早くもどろう」
そうして最後まで何事もなく泥パックを作っていた場所に戻った。これはさっそく明日友達に報告しないとなぁとワクワクして考えていた。
「ゆめみちゃん、そろそろおうち帰ろっか」
「うん、そうだね」
るんるんとしながらランドセルを背負う。
ちょうどその時担任の先生が近くを通ったので、例の小屋の事を話した。
「気になるのは分かるけど、行っちゃだめでしょ!あそこはね、いざ何かあったときの為の小屋なの。だから危険な物とか場所がいっぱいあるの。それに、山を歩くなら放課後でも先生を呼んで、子供だけで入ったら危ないからね」
と少し叱られてその日はトボトボと帰った。
次の日、見事に小屋の事を言うのを忘れて過ごしていた。今でもあの小屋の事を知っているのは私と影だけだ。
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