エッセイ・ゴルフについて
柴田 康美
第1話 はじめてのゴルフについて
「きみの打ち方か変わってるね」その先輩はいった。ゴルフ場へ初めていったときのことだ。ドライバーを1本借りてボールももらってグローブも借りてティーショットを打ったときのことだったとおもう。ボールは鈍い音とともに一直線に飛んでフェアウェイの真ん中にポトンと落ちやわらかな春の陽を浴びている。どーですかぼくのこの腕まえはと振り返ってきょうラウンドする心配そうな顔のメンバーたちをみた。ぼくとしてはトップをしっかりためてテキスト通りパーフェクトスウィングしたつもりだった。だったんですね。そのどこが変わっているのか?その、その、どこが?と内心いらついておもった。いちばん先に打ったのはジャンケンに勝ったからですよ。おおかたのOB期待にそわずへたっぴーのぼくがいきなりいいショットを打ったのでいい気持ちじゃなかったのかなひとを見下すにもほどがある。でもホールアウトして打ちっ放しの連習場にいって足下を見たら気がついた。スウィングするとき球を乗っけるティーをうっかりティーグラウンドに刺していなかったのだ。ルール違反じゃないけれど直ドラしている人はあまりいない。あまりというよりぜんぜんいない。むかし芝を集めて山にしボールを上にのっけて打った有名なゴルファーがいたようですがいまこんなことするひとはいない。でもあの日どうともなれで芯に当たるようジャストミートしたらおかげでクラブは芝の先を舐めて通過しなんとかボールはチョロにならずに済んだ。なにせ好奇心のかたまりゴルファーはできもしないのになんの趣味にでもいろいろ手をだして脳ミソが大混乱していたからティーショットのボールの位置にまで気が回っていなかった。こんな調子でコンペに出られるようになれるのかなー。その一方で、ボールを芝の上にベタに置いてあれだけ打てたのだからティーアップしておもいきりスウィングしたら夢のボールは中央の高い樹木を飛び越えバンカーを過ぎ池を越え川を越え空高くどこまでも飛ぶのかしらととんでもなくズ太い楽天的でなにも知らないぼくでしたね。
問い、ゴルフは1スキですか2キライですかと聞かれれば若いころのぼくはだんぜん2だったんですね。当時はゴルフは金持ちがやるものという世間の眼のしばりみたいなものがあった。もちろん金持ちの道楽みたいなところがあった。そういうしばりがとてもいやだった。ぼくが金持ちというランクじゃなかったからこびりついたひがみ根性でそう思ったかもしれなかったし世間にすねた内向的抵抗の証であったかもしれない。でも金持ちとか金持ちじゃないってだれが決めるんだ。きょう金持ちでもあした夜逃げすることはいつでもおこる。きょう金持ちじゃなくても一夜にしてたちまち億万長者になるケースもある。一通りじゃないことにお金の魔力というものをひしひしと感じてしまう。だれがいったか金は天下のまわりものって言葉があります。金持ちの尺度というものは金の有り無しという浮き沈みの激しい円の単位で測れるものじゃないですよね。世の中のくらしが豊かになり物が増えるにつれてしばりから外れたひとたちと思われるグループまでゴルフブームに参加するようになった。ゴルフは金持ちがやるという世の中の眼にちゃっかり便乗したひとたちですね。急に金持ち気分にわきたってうきうきで増え続ける会社の経費をつかって接待ゴルファーというひとたちが横行するようになった。ぜんぜんボールはOBラインでもナイスショットと声がかかる。カップまで5m以上あるのにパターはなしですぐハイ!OKですと声がかかる。これスポーツなんかじゃないよなぁー。スポーツの世界でプロとアマの意識の違いがこんなにはなれているのもめずらしい。どうしてこうなったか。ゴルフが年齢に関係なく若者から年配者までハンディをもらって対等にできる競技であることがおおきいとぼくは常々おもっている。
ところで、彼の英国では紳士のスポーツだとお述べになっているのですがおどろいたことに飲酒して打っていても罰則はなくカート内はビールの宴会でがば飲みでもよくておおらかなことこのうえない。でも酔っぱらったらいけないらしい。酔って他のプレイヤーに迷惑をかけてはいけないらしい。酔わないように飲むこれかんたんなようで難しくはありませんか。酒を飲んだらどうしても酔っぱらうのではありませんか、きょうは飲むということでふつうに飲んだら足はふらふらになる。グリーンは飲むところじゃなくゴルフをするところだのおっしゃることもよーくわかります。そのまえにバンカーにいれえっさえっさと走ったらたいへん危険なこともわかる。たいへんどころかひょっとすると死にますね。さいごにひとつだけいいますとプロがスコアカードの記入を間違えると失格になるそうですがわれわれ身内ではそんなことはあたりまえで平気で消してまた書いている。あそこはこれだったよな。あそこはボギーだったよね。みんなにききまわる。打数もめちゃくちゃ打ってるので自分のスコアもわからないのにメンバーのはてんでわからない。だいたい数えられないんですね。そのうえ勝ったら勝ったで負けたひとに飲み代をぜんぶおっかぶせてあとはのとなれやまとなれですたこらさっさとコースアウトです。
(了)
エッセイ・ゴルフについて 柴田 康美 @x28wwscw
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