第8話 おじさんはイケメンだ。そんなイケメンから発せられる体のサイン

 おじさんは昔、太っていた。

 昔と言っても何十年前、小学生低学年までだったが。

 

 もちろん、太ったのには理由がある。ことあるごとに食べていたからだ。

 一歩あるくごとに「腹減った」「のど乾いた」だの言っていたらしい。


 小学校に入って、規則だたしく生活せざるを得なくなり、徐々に痩せていったわけであるが、やっぱり食い意地ははっていた。


 そんな私は学校の帰り道、よく食べ物をもらっていたそうだ。知らん人から。

 ときには家に上がり込み、ガッツリ食事を食べて、おみやげにダイコンまで首からぶら下げて帰ってきた……らしい。


 なんか紐でね。二本のダイコンを結んでヌンチャクみたいにして首にかけてたんだと。

 母親は困ったそうだ。だって危ないし。


 それにお礼だってできない。なにせ私も初めてあった人だ。どこの誰かも分からない。なんなら顔すら覚えていない。食べることに夢中だったから。


 そんな私は練乳が好きだった。

 食パンにつけてモリモリ食べていた。


 なかでも缶詰。ワシの絵が描かれているのが濃くてウマイとか言っていたらしい。

 誕生日プレゼントにおねだりもしたんだそうな。


 が、ある日気がついた。

 尿から甘い匂いがすることに。


 おしっこをする。水の張られた便器が泡立つのだ。


 さすがにこれは少年のわたしもマズイと思った。

 そこから練乳を絶ち、以後数十年と口にしなくなる。



 いつからだろうか、甘いものを嫌うようになった。

 ケーキの生クリームが嫌いで、よけて食べるようになった。

 ぜんざいも間に潮吹き昆布を欲するようになった。


 もしかしたら防御本能が働いたのかもしれない。

 糖尿病にならないように、体が、心が、教えてくれていたのかも。


 そんな私は栗きんとんが大好きだ。

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何の役にも立たないエッセイ集 ウツロ @jantar

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