第42話 決着

第42話 決着


 タケルが下を向く。

「あれはゲームだと思っていたからだ。本当に死ぬとわかっていたらやらなかった」


「殺した事実は曲げられない」

 ヒロシの言葉が、しんとした中で冷たく響き渡る。


 もうずっと前から、ゲームのBGMは無くなっていた。

 タケルは目の前の存在に対し悪魔を感じた。


「ひょっとしてヒロシ、お前がゲームを改造したのか?」


「そんなこと、ボクにできる訳ないだろ」ヒロシがまた微笑する。


「ヒロシ。犯人を知っているのか?」

 タケルは状況の把握に努めることにした。そしてヒロシを説得しなければならない。


「知っているけれど、そんなことは今関係無い」


「誰なんだ?」


「タケルの知らない人さ」


「ヒロシは、その人とどういう関係なんだ?」


「お互いに利用しあう関係だ」

 ヒロシは、高田ケンタロウの顔を胸に浮かべた。その途端、ふっと笑ってしまう……

(自分の存在を、家族との関係でしか捉えられない情け無い男)


「ヒロシ、目を覚ませよ。お前はそいつに騙されてるだけなんだ」

 タケルの警告は、ヒロシを素通りして行く。


「残念だね。騙してるとしたら僕の方さ。ボクは、人を操ることが得意なんだ」


「何を言ってもムダなのか?」

 タケルは素直に反応しないものに対して、虚しさを感じていた。


「やっとわかったかい?」


「俺、光線剣で人を殺せると知っていたら、ヒロシは斬れないぜ。やる気が無い相手を斬ってもおもしろくないだろ?」


 破壊する刺激だけを求めて、行動しようとする相手に対して、タケルは攻め口を変えてみる。しかし相手の方が一枚上手だった。


「タケル。自分だけ楽しんでずるいじゃないか。君はアンナの頭を真っ二つにして、脳みそが零れ落ちる所を見たんだよね」


「止めてくれ」

 タケルは震えだした。そのシーンが脳裏に蘇ったのだ。


「ボクはあの美人を破壊した君が羨ましい。今度はボクが、ボクのヒーローを自分の手で破壊する番だ」


 タケルはヒロシのペースに完全に嵌った。出て来た言葉は説得にはならなかった。


「もう一度言う。もうこんなことは止めようよ」


「ダメだ。もうおしゃべりは飽きた。行くよ!」


 半泣きのタケルを、ヒロシは冷たく突き放した。

 再びヒロシは、タケルから見て半歩左に寄った。

 タケルはそれに合わせるように半歩右に回った。

 ヒロシはじりじりと左に寄る。

 お互いに四Mの距離を取りながら反時計回りに動いている。


 月光の角度が変わり、ヒロシの顔が刻々と変わって見える。

 丁度月光がヒロシを正面から照らす角度になった時、その形相に、はっきりと殺意を帯びていることがわかった。

 タケルはぞくりとした。(斬らなければ、自分が殺されるかも知れない……)

 タケルから震えが消えた。


 左に回っていたヒロシが一気に間を詰める。

 タケルは半歩後ずさった。

 ヒロシの上段から、光線剣が『ブン』と唸りを上げて振り下ろされる。

 タケルは手首と肘を返して、光線剣で受け止める。

『カン!』と金属的な音が響いた。

 光線の中心部は、まるで細い金属のようだ。

『カン』『カン!』

 続けざまのヒロシの攻撃を、すんでの所でタケルはかわす。


 ヒロシが僅かに笑っているのが見えた。

 ぱっと遠退いたヒロシは、光線剣を中段に構える。小柄なヒロシは元々は中段なのだ。中段に構えたヒロシがじりじりと前に出る。

 タケルはじりじり下がりながら、どこかに隙が無いかと探るが、実戦経験で圧倒的に勝るヒロシに、ただされるばかりだ。


 タケルは遂に、大きな瓦礫を背にして追い詰められた。

「これで終わりだよ」

 ヒロシが氷結した目で宣言した。


 中段から、僅かに上段に引いた光線剣が、ヒロシのジャンプと同時に、タケルの頭部目掛けて真っ直ぐ振り下ろされる。

 タケルも瞬時に反応して、ヒロシに「面」を打ち込む。

 空中のヒロシは首を横に捻り、それをかわしたかに見えた。しかし、タケルの剣を僅かに避け切れず、ヒロシの左目が斜めにすっと切れる。

 それでもヒロシは、右手をえいと伸ばし、タケルの頭部真正面に、鮮やかな「面」を決めた。


「ギャー!」

 大絶叫と共に、タケルの頭がぱっくりと二つに割れ、血飛沫が上がる。


 返り血を浴び、その左目から血を流しながらも、ヒロシは冷たく笑った。

 血の匂いが鼻腔をくすぐる。

 一歩だけ脇に退いたヒロシは、その右手に十分な手応えを感じながら、じっとタケルの最期を見届けている。

 頭部が左右に分離しながら、タケルは、ゆっくりと前のめりに倒れた。次の瞬間、ヒロシの顔が引きつった……


 二つに割れた筈のタケルの頭が、次第に元に戻って行く……

 ヒロシは、光線剣を、横たわるタケルに夢中で突きたてた。何回も何回も……

 しかし、倒れたタケルの身体を、それ以上傷つけることはできなかった。


 ヒロシは首を捻り、

「何だ…… 脳みそは崩れ落ちないのか?」と呟いて、諦めてその場を去った。


 ゲームは終わったのだ……

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