第36話 山岡の考え

第36話 山岡の考え


「すると山岡さんは、どう考えるんですか?」


「ケンタロウだってそれ位は計算している筈だ。修羅場の様な戦闘経験を積んだアンナには、勇気と反射神経と決断力を持つ人間でなければ、確実に殺してくれることは期待できない。

 だからヤツは、それができるプレーヤーを探した筈だ」


 坂井は黙り込んだ。

 鼻に人差し指を当てて聴いていた梨本が、その指をついと離す。

「それは興味深いな。私もその考えには賛成だ」


 山岡は、意外そうな顔を梨本に向ける。

 梨本は大きく頷いて見せ、もっと聴きたいという顔をした。


「警視正も賛成してくれるなら、俺としては心強いぜ。俺は最重要グループを担当した第二班の西田君と、第三班の近藤君に調書を見せてもらった上で、二チーム四人のプレーヤーの性格などを教えてもらった」


 山岡がそう言って西田の方を見ると、梨本も同じ様に西田警部補を見て質問した。

「西田君、君の担当した二人はどんな人だ?」


 メガネを掛けて、神経質そうな所を見せる西田は、ちょっと胡散臭そうだと云う表情をする。

「はい。山岡先輩の言う意味を考えれば、二人とも中学二年生の男子ではあるが、勇気、反射神経、決断力の三拍子どころか、二拍子も揃ってないですね。

 まあ私は、それが無くても、高校一年生女子の黒川アンナを、必殺アイテムで殺せないとは思いませんが……」


 語尾を濁す西田に、山岡が畳み掛ける。

「十分な経験を積んだアンナなら、危険を感じれば逃げると思うぜ。

 光線剣に勝てないことはわかっているんだからな」


「そんなものですかね?」

 西田は嫌そうに言った。


 梨本がすぐに取り成す。

「まあまあ西田君。じゃあ近藤君の方はどうだ?」


「私達第三班が担当したのは、中学一年生の女の子二人組で、とても臆病でした。あの二人にはできないかも知れません」

 水を向けられた近藤巡査部長は、あっさりと山岡に賛成した。


「なるほどな」

 梨本はまた鼻に手をやる。


 山岡は、梨本の仕草を横目に見て結論を言った。

「まあ勇気とかはこの際、後回しでもいいさ。

 俺は江戸川台小学校五年生の、二宮タケルが黒川アンナを斬ったと考えている。

 相棒の少年は、アンナが死ぬ前に強制退場しているからな」


「何故そう思う?」

 梨本は鼻から指を離した。


 山岡はそれを見て、ふんと言うように右の口の端を上げる。

「まあ、後回しにしても良いと言ったのに、また戻して悪いが、始めはそれよ。

 あいつら二人とも、十歳の少年にしてはかなりのもんだ。三拍子揃っている。

 まあ二宮の方は、その結果に今はぶるっちまっているがな」


「その結果とは?」梨本が問う。


「アンナを殺したことよ」山岡が受ける。


「ぶるっちまった少年を見て、何故三拍子揃っていると思ったんですか?」

 しばらく黙っていた坂井が訊いた。


「五年生の誰に訊いても、タケルは同じ評判を取っている。勇気があって運動神経抜群、リーダーとしての決断力を持っている男の子だそうだ。担任教師の評価もほぼ同じだな」


「あいつら二人ともと言ったようだが、もう一人の少年は、同じ評判があるのか?」

 梨本は、山岡の言葉を漏らさずに聴いているようだ。


「いや、こいつの方は俺の見た評価だ。

 こいつは恐ろしいヤツだ。爪を隠したタカ、牙を隠したオオカミと言っても良い。

 担任の話だと、成績は常に最上位、週末は町道場で剣道をやっている。

 素質があるって言われてるそうだから、反射神経も良いだろうよ。

 ただクラスでは、タケルに隠れて目立たないそうだけどな」


「凄い評価だな、山岡君」

 梨本は、山岡が隠しているネタを、早く聞き出したくてうずうずしていた。


「俺はアイツにぞっとしているのさ。さっき言った、もう一つの殺意ってのもアイツから感じるんだ」


(やはり山岡が注目しているのは、タケルの相棒の方か?)

 梨本は、その少年のことがかなり気になってきた。

「その少年の名前は?」


「山田ヒロシ……」山岡は、重々しく少年の名前を口にした。


「二人とも十歳の少年か……」坂井が呟く。


「三拍子の方を除いたら、どんな決め手がある?」

 梨本は山岡にそう催促した。


 山岡がにやりとする。

「決め手まで行くかな? 七月五日の最初の事情聴取の後、俺は澤田にヒロシを尾行させた」


「その報告は出ていないようだが」

 いざそう聞くと、梨本に、実質捜査本部長としての不満が湧いて来る。


「報告するほどの内容があるとは思えなかった」山岡は動じない。


「何がわかった?」

 しょうがないなと云う顔をして梨本が訊く。


 山岡は、またにやりとした。

「ヒロシはそのまま帰宅しなかった。江戸川区西野一丁目と、その隣街区に当たる水原三丁目の二箇所でタクシーを降りた」


「どこへ行った?」

 間髪をいれず梨本が訊く。


 山岡は今度は微笑を見せなかった。

「ヒロシに尾行が見つからんように、澤田は十分距離を取っていたんでな……西野一丁目では暫く歩いた後、角を曲がった所で一時見失った。

 すぐ見つかったんだが、用事はもう済ませたらしくてな、ちょっとそこから歩いた所でタクシーを呼んだようだ。

 澤田のタクシーは間に合わなかった。

 水原三丁目でタクシーを降りたのは、後で調査してわかったことだ。

 そこからはどこにも寄らずに自宅に戻っている」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る