第20話 脅迫と二回目の事情聴取

第20話 脅迫と二回目の事情聴取


 そこまで小学生に言われれば、隣室でモニターチェックしている校長の目もあるし、山岡は一旦引っ込まざるを得ない。

「調子が悪いようだったら、また明日にしようか?」


 タケルはまた暫し沈黙する。

 絶妙のタイミングで、ヒロシが幕引きの言葉を放った。

「タケル君だけでも、先に家に帰してやってもらえませんか? ボクは一人でも事情聴取続けられますから」


「いや、そういう訳にも行かないから…… また明日、おじさん達来るから、それまでに身体の調子を整えておいておくれ」


 山岡の言葉に、すかさずヒロシが、はいと答え、タケルの方はやはり沈黙を守った。

 山岡たちは、タケルとヒロシの事情聴取を中止し、明日もう一回やり直すことにした。




 タケルとヒロシの二人と入れ替わりに、澤田の先導でシンジとイチローが、小会議室に入って来る。

 山岡は澤田を呼び寄せ、何事か指示した。頷いた澤田は一人小会議室を出た。


 五年二組の二人からも、大した情報は得られなかった。

 二組の二人と、三組の二人が、オンラインゲームでどういう関係にあったかについても、

「別々にプレーしていたので、三組の二人が同じグループでプレーしていたことは知りませんでした」と、シンジとイチローは口を揃えた。


 それでも山岡は、この二人も何か隠しているようだと考えていた。

 七月二日の事件の日、タケルとヒロシのプレータイムと、シンジとイチローのプレータイムの大半が重なっていて、同じエリアに居たことは、オンラインサーバー解析情報でわかっている。

 確かにそれは偶然で、例え同エリアの同ステージ内にいたとしても、少し離れていれば、外のチームの存在に気付かなかった可能性を否定することはできないが……

 ユーザーのコンピュータ=パーソナルトミーを解析することができれば、あるいは何かしらわかるのかも知れないが、それも運が良ければと云うことで、大きな期待はできないだろう。

 プレーヤーが辿ったゲームの経路は、大まかな所しか記録されないから、特定の時刻に、そのエリアの、どのステージの、どの辺りにいたかは、ユーザーがムーヴィ等の記録を残していない限り証明できないのだ。

 山岡が、二組のシンジとイチローが、何か知っている筈だと考えたのは、小会議室で三組のタケルヒロシ組と入替になる時に、ヒロシが素早くウィンクをしたことと、それに答えるように、シンジが親指を小さく立てる所を見逃さなかったからだ。




 同日……

 警察の事情聴取の後、帰宅した村井シンジは、家の郵便受けで、自分宛のTKというイニシャルがある封書を見つけた。

 中身はストラップと手紙だった。

 ストラップには、小さなぬいぐるみのような物が付いていたが、シンジには、それが何であるか一目でわかった。

 背筋がすうっと冷たくなる。

 それは二日前から行方不明になっていたミーコの右前足だ。


 文面は短かった……

「七月二日の事件は全て忘れろ、さもなければ、次はレナの歯でストラップを作ってやろう」

 シンジの歯がカタカタと鳴り、手紙を持つ手も震え始める。

 レナは、シンジの二歳下の妹の名前だったのだ。



 同じ日に、山野辺イチローにも脅迫状が来ていた。




 七月六日……

 事件から四日が経過した。

 朝のニュースでも、被害者十人のプロフィールなどが詳しく紹介されているが、依然として核心部分は謎のままだ。


 昨日、江戸川台小学校の五年三組の二人と二組の二人は、学校で警視庁から来た刑事達から、調査に協力して欲しいと簡単な事情聴取を受けていたが、警察の方でも、まだD512グループに属するプレーヤー達から事情聴取を続けている段階で、それほど捜査は進展していない様子だった。


 山田ヒロシは、事件の捜査の方向とタケルの様子が気掛かりでならない。

 今日も昨日に引き続き、十二時半から警察の事情聴取が、四人個別に行われることになった。


 正午で授業が終わると、ヒロシは二組に走り、シンジとイチローを小学CAFEに呼び出した。

「警察の捜査も余り期待できないし、僕らで調査を進めて事件を解決しようよ」とヒロシは、二組の二人に提案した。


「早く解決しないと、このままじゃタケル君がおかしくなってしまうよ」とヒロシは、タケルの状態が深刻なことを、いくつか事例を挙げて説明した。


 この件でリーダーシップを取っていた筈のシンジは、驚いたことにこんなことを言った。

「悪いけど、その話はもうしないでくれ。警察にも、昨日以上のことは何も話すことは無いし、俺はタケルから何も聞かなかったことにする。

 知らないことを、俺達で調査できる訳ないだろ…… これはイチローも同じだと思う」


 ヒロシが顔を向けると、イチローは黙って下を向いた。


「何でだよ。ボク一人じゃ何もできない……」

 ヒロシは、悔し涙のようなものを零した。



 小学CAFEで彼らが話し合いをしたことは、山岡の予想通りだったが、その中にタケルが加わっていないことが引っ掛かった。

 四人に対し、個別の事情聴取を行うことを、正午の授業終了直後に連絡して欲しいと校長に要望し、山岡達は少年達の様子を見ていたのだ。二人ずつの事情聴取だと思い込んでいた少年達は、個別と聞いて、対策を打ち合わせる必要に迫られたのだろう。


 十二時半に、山岡を含む四名の刑事が、別個に少年達の事情聴取に当たった。

 それぞれ教師を一名同席させることが、学校の協力の条件だったが、個別に訊けば少年達も、昨日話せなかったことをしゃべるだろうと予想していた。

 しかしながらこっちの方は、山岡の予想を見事に裏切ることになった。


 山岡の担当したタケルは、相変わらず心身ともに調子悪そうで、同席する教師が過剰に心配するので、追及は不発に終わった。

 ヒロシを担当した立川も、小賢しいヒロシに翻弄された。突っ込むべきネタは持っていたが、今は温存することにした。

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