第19話 タケル、ヒロシたちの事情聴取 その2

第19話 タケル、ヒロシたちの事情聴取 その2


 小会議室と校長室を結ぶドアを開けて、二人の少年が入って行くと、そこには二人の大人が待っていた。

 少年たちは、そこで待っていた大人二人に向かって、ぎこちない礼をした。


 二人を迎えた大人達は、まあまあそんなに固くならなくてもいいからと言って、テーブルの対面の椅子を指差し、そこに掛けてと云うジェスチャーをした。


「今日は二人とも、突然で済まなかったね。警察って聞いてびっくりしたかい?」

 山岡が質問役で、相棒の立川がメモを取る役だ。


 少年二人は、何も言わずこくりと頭を下げた。


「私は東京警視庁の山岡警部補です。こっちは私の相棒で、立川巡査部長だ。君達の名前も聞かせてくれるかな?」

 二人の刑事は、少年達に軽く一礼してから、山岡が先ず、小柄な少年の方を手の平を立てて指差した。


「五年三組の山田ヒロシです」小柄な少年は、はきはきと答えた。


 次に山岡は、ヒロシの隣で俯いてる少年に「君の名前は?」と訊いた。


 少年は自分が呼ばれたことに気が付かない。

「タケル君」とヒロシが肘でつつく。

 漸く顔を上げた少年は「五年三組の二宮タケルです」と小さな声を出した。


 山岡は、柔らかい口調で本題に入った。

 少年達の表情や仕草の変化は、一つとして漏らさないと云う厳しさを、すっかり奥の方に隠した温和な顔。普段の顔付きを知る刑事仲間なら、山岡がこんな顔ができるのかと驚くかも知れない。


「七月二日に『オンラインゲーム星夜の誓』で、十人もの少年少女達が突然死した事件は、二人とも知っているね?」


 タケルもヒロシも、ベテラン刑事の問いに黙って頷く。


「私たちはあの事故を調査しているんだ。早く事故の原因を究明しないと、皆が安心してゲームを楽しめないからね」と話し掛け、山岡はさらに

「君達も、あの日オンラインで、あのゲームをしていたんだろ?」と続けた。


 タケルの方が目を伏せる。


「タケル君、あの日ゲームをしていて、いつもと何か変わったことは無かったかい? 気が付いたことがあれば、何でも教えて欲しいんだ」


 タケルは暫く下を向いていたが、やがて顔を起こした。表情は無表情に近い。

「あの日は、第三エリアの古戦場跡と云うステージから始めて、崩れかけたビルを攻めました。

 チームの相棒のヒロシ君が、そこの小ボスにやられてしまったので、ボクはその小ボスを何とか倒しました。

 それからセーブしてゲームを止めました。いつもと変わった事はありませんでした」

 タケルは一気にそこまで話して、また下を向いた。


 山岡はその態度に違和感を持ったが、ポーカーフェイスでタケルに訊く。

「間違い無いかい? もし何か思い出したら、いつでもいいからすぐ教えてくれないか?」


 下を向いたままの、タケルの表情は読み難かったが、山岡はじっと観察する。


「小ボスのシュートミーが、凄く強かったこと位しか良く覚えていません」

 タケルはちょっとだけ顔を起こし、それだけを答えた。


「なるほど」

 山岡は、タケル少年が何かを隠していると確信を持った。

 そこで矛先を変え、隣の席で心配そうにしている、ヒロシ少年に向き直って質問した。

「じゃあヒロシ君。君は何か、いつもと違ったことに気が付かなかったかな?」


 ヒロシは、俯いたままのタケルを気遣った後、驚くほどはきはきと答えた。

「古戦場跡のステージは、途中の瓦礫群から、シュートミーと云う小ボスが待ち構える、崩れ掛けたビルの所までは何もないんです。

 いつもと違っていたとすれば、攻略が非常に難しいポイントだったということだと思います。あのシュートミーは、百発百中のスナイパーだったし」


 小柄な少年がすらすらと答えた中身には、山岡が期待するものは欠片かけらも無かった。(この少年は手強いな)と、山岡は肌でそう感じる。


「それだけなのかね?」

 山岡は無意識に、指先でトントンとテーブルを叩く。顔には出さないが、山岡はいらついていた。


 ヒロシは無頓着に答える。

「そうですね。ビルまでやっと辿り着いた後も、シュートミーは強敵でした。何しろ、気付かない内に、ボク自身やられてしまったほどですから」


 山岡はちょっと考えてから、次のように訊いた。

「ゲームの難度とかいうことじゃなくてね……そう例えば、ゲームに本来は無い筈のものが出て来たとか、あるべきものが無かったとか……そういうことを何か覚えていないかな?」


「そういう物には、ボクは特に気が付きませんでしたけど」


 やはりヒロシの方は難敵のようだ。


 ここで山岡は、キーワードを織り込んだ質問をタケルに投げ掛ける。

「タケル君は何かそういうもの、例えば異常に強力な武器が有ったとか? 気が付かなかったかな?」


 山岡とヒロシのやり取りの間、半分だけ顔を起こしかけていたタケルが、そこで瞬間的に凍り付き、また下を向いた。

 無論、山岡がそれを見逃す筈が無い。同時に左に視線を走らせると、同じ様に、ヒロシがタケルの顔を見てから、そっと山岡の反応を探ったのを見て取ることができた。


 タケルは沈黙する。


 見かねた様にヒロシは、タケルに救いの手を差し伸べた。

「あの刑事さん。タケル君、今日は朝から、かなり調子が悪いようなんです。無理をさせないで下さいね。ボク早退する事を勧めていた位なんです」

 ヒロシはタケルの背中をさする。


「そうなのかね? タケル君」


「いや大したこと無いです」タケルはつや消しの声を出した。


「そうやってタケル君、いつでも強がるんだから……」

 本当に心配そうに、ヒロシはタケルの目を覗き込む。

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