第18話 タケル、ヒロシたちの事情聴取

第18話 タケル、ヒロシたちの事情聴取


 あれほど積極的で、勇気のある少年だった二宮タケルは、一夜にしてすっかり人が変わってしまった。夜が怖いのだ。


 二夜目にもまた繰り返された悪夢は、あの日体験した事件からいささかもリアリティを減ずることが無かった。

 その上ゲームの時とは違って、女は初めからヘルメットを着けていない……恐怖を顔に刻んだ、自分より五、六歳上の女の子はそれでも眩しいほど綺麗だ。

 その青い目を見ても、脚の長い体型を見ても、彼女には明らかに、欧米系の血が混じっている。

 その許しを請う懇願の悲しい視線が絡み付く。

 タケルが上段に構えた光線剣を後ろに引こうとしても、固有の意志を持った剣は、勝手に女を斬りつけて行く。

 後は同じだ…… 女の頭に光線剣がすっと入って行き、下に引き抜かれ、恐怖の顔がぱっくりと割れ、左右に落ちて行く。

 目を開けていても、脳裏に焼き付いた映像を、完全に消し去ることはできないのだ。


 教室では勉強に集中して、外のことを考えないようにした。学校から帰ると、タケルはできるだけ友達を避け、クロスワードパズルを解き続ける。何かしていないと不安だから。

 何も知らない教師や親達は、突然勉強好きになったタケルに戸惑いながらも喜んでいた。


 親友のヒロシだけは、タケルの不安を自分のことのように思い、何かにつけ声を掛けて来るが、その励ましがタケルには鬱陶しくて「俺のことは放っておいてくれ」と邪険な応対をした。

 それでもヒロシはめげずにタケルを励まし続ける……

 ヒロシの思いは、通じないのか、あるいは十分過ぎるほど通じているのか…… 




 二日前の七月四日。

 第一回「オンラインゲーム星夜の誓連続殺人事件」捜査本部会議の後、坂井警部と山岡警部補の話し合いによって、D512グループ六五チーム一三〇名に対する事情聴取を行う為の、捜査班全九班の編成が行われた。


 基本線は、会議で招集された九名の刑事をそれぞれ班長とし、緊急増員十八名から、それぞれ二名ずつを加えた三名ずつの九班、総数二七名編成である。

 第一斑は山岡警部補を班長とし、以降第八班までが通常班、第九班は広田巡査部長を班長とする特別班とし、特別班は坂井警部から機動的に指示を受けて活動する。


 その後のケンタウルス大捜査班からの情報によると、被害者グループ十チーム(事情聴取済)以外に、当日オンラインしていた者は、十三チームで二六名、その内十名の突然死の時間帯に絡んでいるのは、十チーム二十名で、これを重要参考グループとする。


 山岡の第一斑は、重要参考グループの内、最後の犠牲者、黒川アンナが突然死する前にオンラインして、その後にオフラインした、参考グループたる三チーム六名の内、小学五年生のチーム二名を担当し、「最」が付かない重要参考グループから、同じく小学五年生のチーム二名も担当することになった。

その二チームとも、たまたま同じ小学校の生徒だったからだ。


 参考グループ残り二チーム四名は、それぞれ、西田警部補の第二班と、近藤巡査部長の第三班が担当。


 従って、重要参考グループ十チームの残りは六チームである。

 それは第四班から第九班までの六班が一チームずつ受け持ち、D512グループ六五チーム一三〇名中、担当の決まっていない、残り四五チーム九十名を参考グループとし、第四班から第八班までの、通常班五班で分担して担当することになった。

 坂井警部が重視する、黒川アンナのチーム二名は、引き続き坂井の担当とし、その指示で広田の特別班がフォローする。



 昨日の七月五日朝……

 山岡班は江戸川台小学校に連絡して、五年三組の二宮タケルと山田ヒロシの二人、及び五年二組の村井シンジと山野辺イチローの二人を、午前の授業終了後、二名一組で個別に事情聴取したいと申し入れた。


 授業が終了した正午、校長室に五年三組の二人が呼ばれた。


 校長先生は二人をソファに座らせると、まあ楽にしなさいと言った。

「オンラインゲーム『星夜の誓』の事件の件で、警察の方が少し二人に話を聞かせてもらえないかと訪ねて来ています。二宮君と山田君は、あのオンラインゲームをやっていたんですか?」


 タケルとヒロシにさっと緊張が走る。二人は黙って頷いた。


「まあまあ。そんなに怖がる必要はありませんよ。

 あのオンラインゲームで、同じ時期に参加した人達で作られたのがD512グループだそうです。全部で六五チーム一三〇名いるそうですがね、そのグループの参加メンバーが、あの人身事故に巻き込まれた。

 君達は、たまたまその一三〇名の内の二名だったのです。あの事故に巻き込まれずに済んだのは幸運だったと思わなければいけない。

 だから君たちは、警察に訊かれた事に対しては、知っていることを素直に答えて、事故の早期解決に協力するという義務があるでしょうね」 


 校長先生はにこやかにそこまで話してから、身を乗り出して二人の肩を軽く叩いた。

 タケルとヒロシは、どうしようかというように目を合わせた。


「まあ大したことはないと思いますが、隣の部屋で警視庁の刑事さんが二人待っていますから、質問に答えてやってくれませんか? 怖くなったら、この部屋に戻って来てもいいですからね」


 タケルとヒロシは、校長に促されて隣室のドアを開けた。


 一方教頭室でも、五年二組のシンジとイチローが呼ばれていた。

 その二人の事情聴取は、タケルとヒロシの事情聴取が終わり次第、山岡自身が行うが、それまでの待ち時間を、山岡班のもう一人の刑事澤田が、世間話をしながらリラックスさせ、少年達と仲良くなろうと努めていた。

 その澤田は、子供好きで、当りの柔らかい青年である。職務には熱心だが、それを感じさせない所が彼の特徴だ。

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