第15話 緊急臨時捜査会議 その4

第15話 緊急臨時捜査会議 その4


 佐藤は、ますますわからんという表情で訊いた。

「だったら赤外線で同期するゲームと同じじゃないか? 何故金を払ってオンラインゲームなどするのかね?」


 坂井は、いやそうな顔一つせず警視総監に説明する。

「赤外線システムなどでは、その場の数人しかゲームに参加できません。

 格闘技ゲームやレースゲームなどでしたら、それで十分だと私も思いますが、RPGのようなゲームでは、全国のライバルと戦ったり、複雑な謎や強力な敵を共同で攻略したり、従来はCOMが演ずるバイプレーヤーを参加者達自身が演じて、独自のイベントを行ったりするなど、様々な楽しみ方をゲーム参加者が考え出しているようです。ゲーム中の参加者同士の会話も自由です」


「数十人にグループ分けする意味はあるのかね?」佐藤はさらに質問する。


「RPGなどでは、同時期にゲームスタートして、その中で自分が他人より早くクリアすると云う楽しみが一番大きいようです。

 またローカルネットワークは、各家庭用コンピュータの処理能力に依存する訳ですから、かなり能力が上がったとは云え、まだ数百個単位のネットを組んで複雑なゲームを同時進行させることは無理があると思われますし、できたとしても多すぎる参加者は、ゲーマーレベルの格差が広がって競争の興味を減じると思われます」


 広田が挙手して、梨本が「広田君」と言った。

「そうなりますと……何か細工するとすれば、オンラインサーバーよりも、ローカルネットを組んでいるグループの、他の参加プレーヤー達の方がやはり可能性が高いですね」


 広田の意見を受けて、梨本が答える。

「先ほど同じ指摘が山岡警部補からもあったようだが、やはりその線の可能性は捨て切れないだろう。

 ケンタウルス担当班から、被害者達が参加していたD512グループの名簿が送られて来ている。

 全部で六五チーム、各二名で一三〇名だ。彼らは日本全国に散らばっている上、ソウル、台北たいぺい香港ほんこん上海しゃんはいにも二名ずつ居る。

 外国の八名については、先ほどソウルと北京ぺきん、台北の友人に、非公式に調査依頼を出した。その報告が来たら、検討して国際捜査課から刑事を数名派遣させることも考えている」


「国際刑事警察機構に直接依頼を出さないのですか?」

 これは近藤の質問だった。


 梨本は近藤に目をやってから、佐藤警視総監を向いて言った。

「インターポールは書類関係がうるさいし、警察庁の国際捜査課がらみでの情報漏れを防止するため、今の所表立って動きたくないのです。外にありますか?」


 一同しーんとして、質問と意見は止まった。

 梨本が隣を見ると、坂井警部が恐る恐るという様に手を上げていた。


「坂井君」梨本は発言を許可した。


「はい。私は先ほどのケンタウルス関係者の捜査については賛成ですが、被害者になった子供達を、犯罪に関係無いとして除外することには反対です」


「何故そう思うのかね?」

 梨本は坂井の目を覗き込むようにして訊いた。


 坂井はこほんと咳払いをする。

「これは私の仮説ですが、最後の被害者黒川アンナが、その前の九人の死に対し、深く関与している可能性が高いと思うのです」


 坂井はそこで梨本の目を見た。

 梨本は興味を示し、先を続けてと坂井を促した。


「黒川アンナが主犯かどうかはわかりませんが、ゲームの中で細工された強力な武器を使って、次々にゲーマーを倒したとしたらどうでしょう?

 彼女はその武器が、単なるゲーム上の強力な武器だと認識していただけだったが、それがあれば、相棒が脱落したとしても単独でエリアを進んで行けると考えた。

 最初に山本卓也を倒し、九人目の石原リョウコまでの九人を倒した……」


 そこで切って、坂井は反応を探るため一同を見渡した。


「もしそうだとして、十人目の被害者となった黒川アンナを、一体誰が倒したのでしょうか?」

 質問したのはまたしても近藤だ。


 坂井は佐藤警視総監を見てから、近藤を無視し、奥に座る筋骨隆々の小柄な老刑事を見詰めた。

「黒川アンナは九人倒した所で、自分の武器で相手が本当に死んだことに漸く気が付いた。

 そして自分のしたことが恐ろしくなって、その武器を捨てたとは考えられませんか? 所がその武器を拾った別のゲーマーが居たのではないか?」


 頻りに端末を検索していたメガネの刑事が、挙手と同時に、西田ですと言ってから発言した。年齢は若いが、西田はもう一人の警部補である。

「強力な武器を拾ったそのゲーマーが、黒川または他のプレイヤー達を殺したとしてもですね。それらしき届出などは今の所無いようですが」


「確かにありません。それでも、その武器で黒川アンナを倒したゲーマーが、ニュースを見て怖くなったということも考えられる」

 坂井は、山岡から西田に視線を移してそう言った。


「なるほど、それは十分考えられますね」西田はすぐ同意した。


 そこで山岡が、「山岡」と言って、手を上げるや発言する。

「その仮説が正しいとしたら、先ほどの一三〇名のリスト中に、黒川アンナを倒したミスターXないし、ミスXが居る筈だな。しかも黒川の突然死の前に、」


 ここで山岡発言に被せる様に「もしくはミセスXですかね?」と、坂井が補足して、山岡に対し素早くウィンクした。

 山岡は、坂井のウィンクの意味を理解したようだ。


 梨本警視正はリストを確認しながら、坂井を見て言った。その目には微笑が含まれている。

「いや一三〇名中、山本卓也の十七歳が最高齢だ。だからそれは先ず無いだろう。また、最低年齢の方は十歳まで広がった」


「十歳って言ったらまだ小学四年生か五年生ですよね?」と近藤。


「ゲームのつもりだったら、十歳の子でも加害者になり得るだろう。元々そういうゲームなんだからな」

 山岡は坂井の仮説に乗ったようだ。先ほど、その坂井に発言を途中で遮られた事を気にしている様子は全く無い。


「そうですね……」近藤は同調した。

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