第14話 緊急臨時捜査会議 その3

第14話 緊急臨時捜査会議 その3


 ここでまた佐藤が質問する。

「それは医者の所見と似たようなものかね?」


 広田はそれに直接答えた。

「医師の所見は心不全です。心不全に至った病根は不明、外傷無し、病歴無し、結局何もわからないということです」


「ふうむ」眉間に縦ジワの佐藤警視総監は、あごを撫で回す。


「続けてくれ」坂井が広田を促す。


「はい。それから長崎君は山本君の家に電話したが、誰も出ないため緊急メール措置を取った。

 そのメールは家族に届いたようで、山本卓也の母が午後二時五分に帰宅。卓也君の死亡を確認した母親は一一九番通報した。十分後に到着した救急車と共に、母親は救急病院に同行。

 死因に関連するものを、母親は全く医師に説明できなかったようです。勿論ゲームのこともです。付け加えれば、外部からの家屋侵入の痕跡は全くありませんでした」


「その害者の相棒長崎君が、直接的な加害行為をしたとは考えられないのかね?」

 こう訊いたのは、でっぷりとした田中副総監だったが、その隣で、小柄な佐藤警視総監がいやそうな顔をした。


「南条一丁目と二丁目で近そうに思えますが、二人の家の移動には、どんな方法を取ったとしても九分以上かかります。長崎君が家のコンピュータから、午後零時七分までオンラインしていたことは証明されています。山本卓也の突然死が午後零時二分に発生したことも確実です。従ってアリバイは成立していると思います」


「はい山岡です。長崎がコンピュータネットワークで、何らかの細工をしたという線は考えられんのですか?」


 山岡警部補が、挙手と同時にそう質問した。これに対して坂井が答える。


「有り得ないとは言いませんが、ケンタウルスのゲーム開発スタッフでも、そんなことはほぼ不可能らしいです。これはオンラインサーバーに詳しい専門家数人からも確認しています」


「そうか……では家族の線は?」山岡が食い下がる。


「家屋の入退室は、セキュリティシステムカンパニーと、ダイレクトで繋がったコンピュータで、厳密に管理されていますが、このシステムの普及率は全世帯の九九%で、山本宅にも導入されています。

 このシステムを不正操作できない限り、外部からの侵入者は勿論、家族の線も消えています。そしてその不正操作には、相当高度な専門知識が必要です」


 広田が山岡を振り返って説明すると、山岡はううんとうなりながら天井を睨んだ。


 広田に続き同じ様に、二人目の被害者から九人目の被害者まで、八人の刑事が捜査報告した。どのケースも似たり寄ったりだった。


 ここでまた、警部の坂井課長付が報告に立った。

「十人目、最後の被害者が始めに報告した通り、黒川アンナだったという訳です」


 その場の誰もが、事件を推理するように黙りこくった。


 ここで梨本警視正が議事を進行する。

「次に突然死した十人についての死因ですが、何か被害者周辺の調査から見た意見、あるいは直感の様なものでもいい。考えられることがあれば述べて下さい」


 さっと挙手した若手の刑事を、梨本が指差す。

「近藤です。被害者は上が十七歳、下が十一歳までの子供達ですよね。先ほどの各報告からは、コンピュータマニアは相棒を含めて居ないようですし、いわゆる天才的な子供も居ない。

 ということは、例外的なことを考慮する必要の無い、平均的な子供達と考えられるでしょう」


「要点を述べて下さい」

 梨本が注意する。


 近藤は固まったように見えた。警視正の注意に緊張したのだろう。

「はい。普通の子供達が細工できるほど、最近のコンピュータは脆弱ではない。

 だから、ゲームをプレーした被害者およびその相棒を含む二十人の中に、加害者が居るとは考えられません。

 すると私としては、どうしても事故の線か、もし刑事犯罪ということであれば、ケンタウルスのオンラインサーバーの関係者の関与しか考えられないのですが」


「私も近藤君の意見に賛成です」

 隣の席の若手刑事が発言した。


 梨本警視正は、近藤君ありがとうと言ってから、捜査手順を一つ公表した。

「ケンタウルスの捜査については、オンラインサーバー関係の技術的な調査に加えて、関係者の中に特殊思想の持ち主、偏向した趣味の持ち主が居ないか、金銭的に困っている者が無いかなどについても考慮して、調査することにしよう。外にありますか?」


「オンラインサーバーの故障とか、プログラムミスなどによる単なる事故とは考えられませんか?」

 挙手と同時にそう言ったのは、先ほど近藤の意見に賛成した若手の刑事だった。


 名前も言わず、許可される前に発言した山崎巡査部長を、梨本は冷淡に一瞥した。


 すかさず坂井警部が警視総監らに顔を向けて説明する。

「このゲームのオンラインサーバーでは、各ゲーム参加者の入力を時間軸で受け付けて、それを瞬時に整理してフィードバックしているだけだそうです。

 何万人もいるユーザーが一つのゲームに参加していると言っても、実はこのオンラインゲーム『星夜の誓』では、ゲームの進行度や参加者のレベルに応じて、数十人単位でグループを作り、そのグループの数十個の家庭用コンピュータがローカルネットワークを形成し、その中継ステーションの役割を演ずるのが、本ゲームにおけるオンラインサーバーなのです」


 佐藤警視総監は首を捻って、独り言の様に言った。

「そうだとして、何故事故が発生しないことになるのか、意味がよくわからんがね」


 坂井は神妙に頷いて見せ、説明を続行する。

「つまり、オンラインサーバーからは、各ローカルネットワークに対して命令とか入力は行えないシステムなのです。またそういったことは機能的に全く必要ありません。

 繰り返しになりますが、オンラインサーバーは、参加者数十人のグループが作るローカルネットワークからの入力を、順序良く受付け、その結果について、ローカルネットワークからの問い合わせに答えるだけです。勿論そのやり取りは瞬時に行われます。

 その外のオンラインサーバーの役目と言えば、非会員の参加を制限することと、会員に対する課金を計算すること位ですね」

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