第13話 緊急臨時捜査会議 その2
第13話 緊急臨時捜査会議 その2
「これから、各捜査官の報告に基づいた情報を整理して提供いたしますが、その中には有力なヒントが隠されていると、私は確信しております」
余裕しゃくしゃくで、梨本が佐藤に頷いて見せた。
「そう願いたいものだね」
佐藤がその渋い言葉とは裏腹に満足していたのに、隣の田中副総監はわかり切ったことを繰り返した。
「わかっているだろうね梨本君。総理と警察庁の介入を許さない為に、ここはなんとしても、警視庁の手で本件の早期解決を果たさなければならないのだよ」
これは梨本の誘導通りだった。
うまく行かない時は、全て梨本警視正の独走ということで、責任を転嫁しようとしていた二人の大幹部は、捜査会議の席上で、自らが梨本に無理な指示を出していることを暴露したのである。
佐藤が隣の田中を睨むと、田中は気が付いて、首をすくめ俯いた。
「重々承知しております」
笑みを含んで梨本が答えると、「梨本君、君に任せたよ」と、佐藤は了解の言葉を与えざるを得なくなった。
その直後、佐藤は隣の田中に向け、唇に人差し指を当てて見せた。もうしゃべるなという合図である。
「さてよろしいですか?」と、このやりとりを受けて坂井が説明を再開した。
「この会議に集まった刑事九名と、私の十名で分担して、被害者十名の家族と、ゲームでチームを組んだ相棒に対し事情聴取を行いました……」
ここで坂井は、ディスプレーを操作する。十件の突然死事件が、被害者の名前のあいうえお順に表示された。
「これらの十件の突然死を一連の事件と捉え、時系列に整理しました。これがその結果です」
ディスプレー上、被害者の名前の順番が入れ替った。捜査官達がなるほどと頷く。
「突然死の時刻はいずれも、hp(ヒットポイント)=0で強制退場した瞬間と推定されます。
それは各被害者が、ヘッドギアコントローラによって脳波の状態を常にモニターされていることで、各使用コンピュータの記録から証明されています」
そこで坂井は、またディスプレーを操作した。十件の事故が、時間帯の中でグラフィック表示されて行く。
「このように、十件の突然死は約四時間の間に発生し、間隔はほぼ一定。短いもので二十分、長くて三十分。二四〇分間で十件、平均二四分に一回の割合で発生したことになります」
多くの捜査官が、ぶつぶつ言いながら首を傾げている。
「この日、この十人の中で、一番始めにオンラインゲームに参加した者が黒川アンナ、十五歳女性です。
住所は西東京市三鷹町三丁目。黒川アンナ関係は、自分が捜査を担当しました。彼女のチームの相棒は北尾ケイ、同じく十五歳女性、住所は同町四丁目です。
友人の北尾の話によると、七月二日は三鷹第三中学校が創立記念日で休みだった為、前日からの二人の約束通り、午前十時五九分にオンラインして前回のセーブ地点からゲームを開始した。
ゲーム開始三十分後にはある程度ゲームが進み、その第五ステージの小ボスとの対決になったそうです。そしてその小ボスに斬り付けられ、北尾はhp=0で強制退場になったと言ってます。その時刻は午前十一時半丁度。このことはオンラインサーバーと、彼女の使用コンピュータのデータからも裏付けされています。
そして普通なら、強制退場後の『アフタールーム』で待っていれば、チームの相棒である黒川もゲームセーブして、間も無くその部屋に戻って来る筈なのに、その日に限って十五分待っても戻らなかった為、北尾は一人でオフラインした。午前十一時四五分、これも記録されております。
一方、黒川アンナのコンピュータの記録でも、ここまでは同証言を裏付けています。
そして黒川は、同日午後四時三分にhp(ヒットポイント)=0で強制退場が記録されており、同時刻に突然死しました。最後の十人目の犠牲者という訳です。
家族への事情聴取では、最近の行動、言動などに変わった兆候は無かったし、体調もすこぶる良かったとのことです。
尚、黒川アンナのプレー時間中、家族はずっと不在でした。黒川の母が帰宅したのが午後七時、黒川アンナがコンピュータチェアに着座したまま死亡しているのは一目瞭然で、すぐに救急車を手配したそうです」
ここで梨本警視正が注意を促した。
「黒川アンナがオンラインした時間は、午前十時五九分から午後四時三分までの約五時間です。この点を覚えておいて下さい」
坂井は、梨本とアイコンタクトしてから再開した。
「さて、この次の報告は突然死の順番に行いますが、広田君よろしく」
坂井に指名されて、最前列に居た大男が立ち上がった。その風貌は、身体に似合わず柔和である。
「巡査部長の広田です。私は被害者山本卓也、たくやはカタカナではなく漢字です。私は彼の調査を担当しました。同人は十七歳男性、住所は南大阪市南条二丁目です。彼のゲーム上の相棒は、長崎ケイイチ同じく十七歳男性、住所は南大阪市南条一丁目。
長崎君の話によると、その日は十一時までの授業だったので、学校で約束した通り、午前十一時三三分にプレルームで山本君と会い、同三五分に前回セーブポイントからゲーム開始しました。
同五六分、トラップに掛かってhp=0で強制退場となり、アフタールームで待っていると、正午二分過ぎに山本君が強制退場になったことがわかったそうです。
しかし山本君本人は現れなかった。従者トミーに訊くと、病死したようだと答えた」
ここで佐藤警視総監が質問を入れた。
「待ちたまえ、従者トミーとは何だね?」
広田は丁度説明のサビの部分で、今更という質問に少しむっとした表情を垣間見せたが、すぐ元通り、柔和なポーカーフェイスに戻した。
坂井警部が代わりに説明する。
「従者はゲームの進行を助けるアシスタントで、パーソナルトミーのアシスタントがゲームに合わせた扮装をしているようです」
佐藤は手の平をぽんと打って「ああ。パーソナルトミーのトミー君か」と言った。坂井は広田に続けるように目で合図した。
「はい…… それで、従者トミーの答えた意味が、長崎君はわからなかったと言ってます。
『病死ってどういう意味?』と訊くと、トミーは『パートナー山本卓也君は、七月二日午後零時二分に脳死したとの情報あり、死因は不明。ゲームプレー中の死で、外傷等の情報無し、情報を総合すると心臓病系統の突然死と推定できます』と答えたそうです」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます