第16話 緊急臨時捜査会議 その5

第16話 緊急臨時捜査会議 その5


「リストの参加者情報は正しいのですか?」西田の発言だ。


 坂井がその質問に答えた。

「このオンラインゲームでは参加者の申告の内容と、ローカルコンピュータの使用者たちの名前を照合して、それが合致しないと参加できないそうです」


「ローカルコンピュータの情報登録がウソということは?」

 佐藤警視総監が、議論に参加しようと重々しく言った。


 坂井が答弁する。

「それも、ユーザーの照合が厳密に行われるように、オンライン規則が改正されてからは考えられないと思います。百%ではないですが」


「仮説では、ゲームの中で細工された強力な武器というのがありましたが、そんな可能性はあるのでしょうか?」

 西田はメガネをついと押し上げて坂井を見る。


 坂井は次の様に説明した。

「先ず素人では絶対に無理でしょうが、相当な専門家かマニアで、かつゲームソフトのプログラムバグを知っている人物か、あるいはその人物を協力者とできる者であれば、決してできないことではない。

 しかし、パーソナルトミーの安全プログラムを同時に破らなくては、プレーヤーを怪我させたり、死に至らせることは不可能だと思われます」


 佐藤警視総監が、即座に疑問を呈する。

「あのパーソナルトミーは、絶対安全だとされているのではないかね?」


 坂井がきっぱりと答える。

「そう言われておりますが、今回の事件は、パーソナルトミーの安全プログラムが打ち破られたとしか考えられません」


 そこで梨本が、デスクのコーヒーカップをガチャンとソーサーに打ち付けて、一同の注目を集めてから腕組みをしてこう言った。

「そうなると、マイクロサニーも捜査対象になり得るな?」


「マイクロサニー? それは困るよ梨本君」

 でっぷりとした田中副総監が、その太い眉をひくひくとさせた。


「マイクロサニーが、自公党の後ろ盾だからですか?」

 そう切り返した梨本は、田中副総監を見て、次に佐藤警視総監を見詰めた。


「そうは言っていない……」田中は口ごもった。


「佐藤警視総監、マイクロサニーを捜査対象に含めてもよろしいですか?」

 梨本は、佐藤を見詰め続ける。


「確信があるなら良いだろう。だが今は時期尚早だろう?」

 佐藤警視総監は、口をへの字にして渋面を作る。


「パーソナルトミーで、人が十人も死亡しているのは事実です」

 坂井警部課長付が、佐藤警視総監に畳み掛ける。


 刑事一同は一斉に佐藤を見た。


 佐藤警視総監は諦めたように言った。

「それでは、それもやむをえんな」


「ありがとうございます」

 梨本は笑みを見せて、すくと立ち上がった。


「ではこの場で、捜査員十八名の増員を申請いたします」


「わかった、必要ならさらに増員することも合わせて許可するから申請してくれ」

 梨本の増員申請を、佐藤警視総監は腹をくくった様に即決した。


「「ありがとうございます」」

 梨本と坂井が同時に言った。


 梨本は坂井に合図した。

 坂井が端末を操作すると、ディスプレーに人名と住所などがずらりと並ぶ。


 満足そうに梨本は一同を見渡した。

「では諸君、端末を見てくれ。これが先ほどのD512グループ一三〇名のリストだ。

 明日十八名を増員し君達の班に貼り付ける。ここにいる九名で九班を作り、班はそれぞれ三名とする。

 この九班で、早急に一三〇名の事情聴取に当たってくれ。名簿の割り当てについては、坂井君の方から指示する。

 私と坂井君の二名でマイクロ関係を当たる。

 次回の会議は、三日後の七月七日同時刻だ。外に質問とか意見があればどうぞ。山岡君何かあるかね?」


「今の所はありませんな」

 山岡は眉間にシワを寄せた強面に、少しだけ笑みを含めて梨本を見た。


「では会議を終了する。捜査官諸君、引き続き頑張ってくれ!」


「「「「「おう!」」」」」

 刑事一同から一斉に声が上がった。


 会議が終わって、皆が解散して退室した後、坂井は残った山岡に声を掛けた。

「先ほどは、先輩の発言を途中で遮って申し訳ありませんでした」


「俺の方こそ礼を言うぜ。人手が足りないって突き上げていたのは俺だからな。

 あのまま俺が、『黒川アンナの突然死の前にオンラインして、その後にオフラインした者に絞れるぜ』と発言していたら、増員は半分も認められたかどうか怪しいもんだ。梨本も中々やるもんだな」


 小柄な山岡はこう言ってから、長身の坂井に「今日はごくろうさん」と肩を叩いたが、

「まだ山岡さんとは、班の編成について重要な相談が残ってますよ」と言って、坂井は二つの椅子を向かい合わせに置いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る