Chapter6 サユリ、がんばる

「本当に申し訳なかった。ヤオトメ ヒガンくん」

「い、イエッ……」


 そう言い、深々と頭を下げるきりっとした印象の青年。

 彼から渡されたお土産(まどろみ町の銘菓、まどろみまんじゅうだった)を手に抱え、ヒガンは動揺する。自身の隣には、きょとんとした表情のサユリが。青年の隣には、納得がいってない様子の少年──ユウがいた。


「こら、ユウ……」


 青年が呆れたように声を出す。


「お前がリーリをけしかけたせいで、彼らが色々大変だったんだ。好きなものを集めるのは構わない、だけど他人に迷惑をかけるのはダメだ。お前は賢い子なんだから、分かってるはずだろ」

「僕、兄さんが思うほど賢くないよ。……サユリちゃんが欲しかったんだから、しょうがないじゃないか」

「まったく……」


 面目ない、と再び頭を下げる青年に、ヒガンが慌てる。


「い、イヤ、僕もサユリも、ブジだったし……いいんです、過ぎたことだからっ」

「ふうん。相変わらず優等生だね、ヒガン……」


 忌々しそうにユウにそう言われ、ヒガンはひええ、と背筋を伸ばした。


「……俺はユウの兄のサクラ キョウスケ。これからは暴力ごとは無いように、ユウにきつく言っておくから……あと、メイドのリーリが焦がした壁の張り替え代も持ってきたんだ。使ってくれると助かる」

「えええっ……い、イインデスホントウニ……お構いなく……!」

「いいや。こいつもいい加減、我慢を覚えるべきなんだ。病弱だったから、俺も含め皆で甘やかして……だけどそれで、ヒトに迷惑かけてちゃ意味がない」

「やめてよ兄さん……頭を撫でないで。僕の頭を撫でていいのは、リーリちゃんだけだよ」


 もうすでに、兄弟の交流は決裂している気がする。ひきつった笑みを浮かべるしかないヒガンだったが、話を聞いていたサユリが、ユウに歩み寄る。


「ねえ、ユウ……」

「! なあに、サユリちゃん」

「あのね。悪いことしないで、ヒビヤくんみたいにヒガンとお友だちになってくれるなら、わたしだってユウのこと歓迎するよ? ユウが“LILLY series”を大事にしてるのは伝わってきたもん。わたしたち、きっといいお友だちになれるよ」

「サユリちゃん……」


 ね? と笑いかけるサユリ。つう、とユウが涙を零す。


「尊い……」

「えっ」

「えっ」

「やっぱり、君が欲しいよサユリちゃん……。僕のものにして、僕色に染め上げて、ずっと傍に置いておきたい……」

「──悪い、じゃあ俺たちは帰るから……」


 感涙するユウを連れて帰るキョウスケの背中からは、哀愁が漂っていた。

 遠くなっていく二人の背中を見守りながら、呆然としているヒガンをサユリがにこにこと見上げる。


「……ねえ、ヒガン。ユウと仲良くなれそう?」

「ど、どうだろ……僕には、新しいタイプのトモダチすぎて……」




サユリ、がんばる




「ひーくん、サユリちゃん。お見舞いに来てくれてありがとうね」


 病室のベッドに腰掛け微笑む祖母のキクは、一週間前となんら変化なく健康そうで、ヒガンは安心した。


「おキクさ~ん! 聞いて聞いて! わたし、お洗濯もの畳めるようになったの!」

「まあまあ、すごいわね! サユリちゃんはどんどん成長していくわねえ」


 頭を撫でられ、得意げにするサユリ。彼女も相変わらず、祖母にべったりだ。


「お、お花の水、替えるね。それに、お土産もあるんだ……“まどろみまんじゅう”……」

「あらあら、久しぶりに頂くわね。“十五夜”に行く機会があったの?」

「んと……イ、イヤ。も、もらって。あはは……」


 朝っぱらからのサクラ兄弟の邂逅については特に触れないことにした。サユリが「おキクさんおキクさん」と別の話題を振ってくれていたので助かった。


「お洋服、どうなった……?」

「ああ! それね。綺麗に直しておいたからね。それにね……」


 よいしょ、とキクは言いながら、いつかの時のように綺麗に包装された袋を取り出した。


「うふふ、開けてみてちょうだい~」

「え! なにかな、なにかな」


 リボンを解き中身を出したサユリは、「わあ!」と宝石を見た子どものように瞳を輝かせる。中に入っていたのは、サユリの新しいお洋服だった。ゆるりとしたシルエットのセーラーワンピースだ。


「かわい~い!! 最初のお洋服も大好きだけど、紺色のスカートもとってもステキ!!」

「よかったわ~。これは構想に一週間はかけたからね! 前のものより“おりじなりてぃ”があるはずよ」


 はしゃぐサユリは、袋の中にまだ何か入っていることに気づく。


「ん? おキクさん、これは?」

「ああ、それはね。サユリちゃんのお洋服と同じ素材で作った、ひーくん宛てのカチューシャよ」

「エッ。ぼ、僕にも?」


 自分宛てがあるとは思わず、びっくりするヒガン。祖母からの手作りのプレゼントなんて、中学生以来だ。


「ひーくんとサユリちゃんがお揃いのものをつけていたら、かわいいと思ったの~。私の大事な孫と、孫の大事なメモリアですもの」

「うん! 絶対似合うよ、ヒガンにこのカチューシャ!」


 ふたりにそう言われ、ヒガンは頬を染めて「そ、ソッカナ……」なんて答える。髪飾りを変えるなんて、何年ぶりだろう。ちょっと恥ずかしい。

 そのあとは、祖母に近況報告をして、少しの世間話をした。もちろん、ユウの襲来やドクゼリたちとの出会いを話せるはずがなく──当たり障りない、学園生活が話題の中心だったけれど。

 お見舞いを終え受付で書類を記載するヒガン。その横で、備え付けのテレビを観ていたサユリが言う。


「ヒガン、ヒガン!」

「ン……どうしたの?」

「《“人機婚姻法”もうすぐ成立か!?》 ……だって!」


 人機婚姻法。最近、世間を騒がせているニュースだ。メモリアがヒトの形をとるようになってから、ずいぶん経つ。中には──彼らを本当のヒトのように思って、“つがい”になることを祈るニンゲンたちがいた。そんな彼らが推し進めている法案が、“人機婚姻法”。


「……それってなあに?」


 生憎、ヒガンの家にはテレビは無かった。俗世から離れている生活を強いているので、サユリも当然それについて知る筈がなく。


「んと……に、ニンゲンとメモリアが……ケッコンできるのか、みたいな話、カナ」

「結婚!? そ、それって……」


 改めて“結婚”についてインターネットで調べ、ハードディスクを熱くするサユリ。

 特に気にも留めず書類を書き終えたヒガンが「じゃあ、……行こっか?」というまで、彼女はぽかぽかしていた。


***


 祖母に新しいお洋服を貰ったサユリはるんるんだった。時々意味もなくくるくる回りながら、また鼻歌なんて歌って。そんな彼女と一緒に外出するのにも、ヒガンは慣れ始めていた。朧プラザや商店街以外にも、彼女を連れて行ってあげてもいいのかも……なんて思うくらいには。

 めざめの塔の足元にある広場が近づくにつれ、何かの喧騒が響いてくる。どうやら、誰かが街頭演説をしているようだ。

 サユリは好奇心旺盛だった。足並みがふらふら、人ごみに吸い寄せられている。ヒガンが「ど、どこいくの……」と彼女を追っていくと、街頭演説の詳細が耳に響いてくる。


『いまもこうしてメモリアを連れている皆さん、彼らに助けてもらっている皆さん。機械の相手に好意を抱くのって、そんなにオカシイですか、ヘンですか?』


 立てかけられた旗に描いてあるのは『人機婚姻法の成立を! ヒトとキカイの間に未来を!』という文字。ヒガンはびっくりした。先ほどまでテレビで出ていた講演は、まどろみ町で行われていたものだったのだ。舞台のセンターに立つのは、誠実そうな男性。だけど、奥に控えていた青年が突如として大きなメガホンをもぎ取ると、まるでオーディエンスを煽るかのように自分の想いを叫び出した。


『ぶっちゃけオレはさ!! めっちゃショーコちゃんが好き! 好きすぎてどうにかなっちゃいそうなくらい好き!! 理屈とか関係なく、ショーコちゃんとケッコンしたいんですぅぅ!!』

「こ、コラ、キバナくん! 我々にも体裁があるというか、品がないと同意が得られないだろう!? ステイ、ステイ!」

『ショーコちゃん大好き!! めっちゃアイラビュ~~~!!!』


 聴衆もどよどよどよめいている。そのままその青年は暫く愛を叫んでいたが、ほかの講演者に引きずられ、舞台袖に姿を消し──男性が『……彼のように愛に溢れた若者の未来を潰してしまって、よいのでしょうか?!』なんて、美談に話を変えようとしている。無理があるだろう、それは。


(世の中、色んなヒトがいるんだなぁ……)


 メモリアが初恋相手のヒガンはそんなことを思った。


「さ、サユリ。帰るよ……」


 婚姻法、成立すると良いですね……ココロの片隅でそんなことを思い、ヒガンは甘い色の髪色を持つ少女の肩に触れる。

 振り向いた彼女は「えっと、どなたですか?」と困ったように答えて見せて──


「あ、アレ?! あ……スミマセッ! ヒ、ヒト……メモリアッ? 違いでっ……!!」


 何たる不覚。演説に聞き入っていたのはほかならぬ僕で、サユリを見失ってしまっていたのだ!


***


「うう~……また止められた。オレの演説って、そんなに良くないのかなぁ~?」

「良くない。大体なんだ、アイラビューって。演説の度に公開プロポーズをされる私の身にもなってくれ」


 舞台袖に押しのけられたキバナはひとりごちる。そんな彼に、耳まで真っ赤に染めた女性が呆れたようにそう言った。キバナの瞳がきらりと輝く。


「ショーコちゃん……! オレ、超本気なんだよ!! 本気で、ショーコちゃんを幸せにしたいの! この法案、キマってくれたら堂々とショーコちゃんと式、挙げられるんだよ!? そんなサイコーな事ってないよ!!」

「まったく……お前の謎のやる気には、いつも驚かされてばかりだ」


 ふたりのやりとりを聞き、サユリは瞳をまたたかせる。

 本物だ。本物のヒトとキカイのカップルだ!

 病院で“人機婚姻法”について知ったサユリのCPUは、それでいっぱいになっていた。いつかは自分も、という憧れがあったからだ。彼女は本来、可憐な“LILLY series”、思考回路は少女色に染めあがっている。いつの間にかヒガンと離れ離れになってしまっていたが、そこはそれ。それよりも、今は彼らの話が聞いてみたい。

 どんなふうに出会ったんだろう? 告白はどっちから? どんなふうにお互いが好きなのか? 結婚したらなにがしたい?

 サユリの脳裏に浮かぶのは、さっきまで一緒にいた赤毛の彼。いつかは振り向かせて見せる──不器用でやさしい彼のこと。「んふふっ」なんて笑みがこぼれて。


「……で。キミはどうしてこんなところまで来ちゃったんだ?」


 ショーコと呼ばれた女性が、サユリを覗き込みながらそう言った。白くて長い髪が揺れている。サユリは「ひゃあ!」なんて言って飛び上がった。

 

「わ。わたし! 人機婚姻法? にキョーミがあって! それで、お話とか聞きたくて! あはは……」


 言いながら立ち上がり、振り返る──びっくりした。ショーコは、隻腕だった。かたわのメモリアだったからだ。


「ショーコちゃん、どったの? 何? オレのファン?」


 舞台袖から身を乗り出し、キバナが能天気に言う。


「ごめんねー、見てのとーりオレはショーコちゃん一筋だから。浮気はできないぜ~?」

「わ、わたしだって! 浮気できません!! そ、そんなことより」

「ん? ……ああ、私の腕かい? そうだな……どうせ演説が終わるまでヒマだし、話してあげてもいいけれど。キミの素性も知りたいな」

「あ、わ、わたし……! メモリア、ですっ。“LILLY series”の……」

「“LILLY”? 大分古いなー! ショーコちゃんより古い?」

「そうだな。私は第三世代……“DIVA”って型なんだ。知ってるかな。音楽に特化したメモリアなんだけれど」


 サユリが「へええ」と感心していると、キバナが舞台袖から地面に降り立ち、「そう! あれはオレがまだ受け子をしてた頃……」と唐突に思い出話を語り出した。


***


 雨が降る夜だった。恋人にフラれ、犯罪に手を染め、キバナ リョウマの人生はどん底に近かった。あんなに人生が暗かった時期は、後にも先にもこれっきりだ。

 雨に打たれながら、まどろみ町を歩いていた。ショーウィンドウに飾られるメモリアを見て……「オレも金持ちなら、メモリア一機くらい持ってるのにな……」と愚痴ったりして。

 世間では、メモリアはすっかり浸透していた。軒先で店じまいの掃除をしている白い髪の女性。あれもきっとメモリアだ。メモリアにもちゃんと仕事があるのに、オレってヤツは……

 なんだか、すっかり人生がどうでもよくなっていた。どうせ、そのうち受け子してたことがばれて、捕まるだろう。家族にはとっくの昔に勘当されていて──生きててもしょうがないな、とキバナは思った。女性型メモリアとすれ違い、ふらふらおぼつかない足取りで歩く。

 後ろから、何か声がかかる。なにもかもどうでもよかった。天気も悪いし。どうせ、行く宛ても無いし──パアアア、とクラクションが鳴る。振り向いたときには、車のライトに照らされていて──

 バン!!!!! ──大きな破裂音。

 だけど、壊れていたのは、オレじゃなかった──


「わあああ!! ひ、ヒト、ヒト轢いちまった……! 兄ちゃん、大丈夫か……!!!」


 トラックの運転手が降りてくる。が、すぐ「な、なんだぁ……!!」と安堵した声を上げた。

 白い髪の主が、自分に寄りかかっている。粉々に砕けた何かの左腕。キバナが状況を理解するより先に、運転手が汗を払った。


「轢いちまったの、メモリアかぁ……! 悪かったな兄ちゃん、請求はココにしてくれたらいいから……いや、ヒトじゃなくて本当に良かった……」


 無理やり名刺を握らされ、男性はいそいそとトラックに乗り。そのまま、車は走り去っていった。

 キバナは「お、おい……あんた、大丈夫……?」なんて言いながら、メモリアの女性を抱きかかえる。彼女は目を閉じていて、左腕からは火花が散っている。

 彼女は、自分を助けてくれたのだ。見ず知らずの自分を。持ち主でも何でもない自分を。


「ちょ、それうちの従業員じゃない……! 壊れちゃったの?!」


 彼女が着ていたエプロンを頼りに、近くにあった喫茶店を訪ねるとマスターが困ったように言う。


「明日、彼女しか出てくれるヒトがいないのに。どうしようかしら……臨時で新しいメモリアを調達する? ブツブツ……」


 誰も、彼女を“ヒト”として見ていなかった。当たり前だ。彼女は“メモリア”だから。キバナには、その現実が無情に映った。


「あの……じゃあこのコ、オレが引き取っても良いですか……」

「え? ああ、いいよ……修理費も馬鹿にならないしね。でも、ちゃんと動くか保証できないわよ?」

「……ダイジョウブっす……」


 お金をかき集め、彼女の型に合いそうな接続端子を買って。家に帰り彼女の首裏に隠されたスイッチをオンに入れる。無事動いた彼女は、キバナを持ち主と認識し……キバナのメモリアとなった。

 だけど、キバナは彼女にそれ以上のことはできなかった。純粋に、お金が足りなかったのだ。ショーコの腕を直すことは、今に至るまでできていない。


***


「みんな、ひどいよな。おんなじ人型なのに、ニンゲンの為に動いてくれるのに、メモリアは“イノチ”じゃないんだ。“イノチ”としてカウントされないんだ」


 当時を思い出したのか、しみじみとキバナが言う。


「オレを助けてくれたショーコちゃんは、世界でひとりしかいないのに。皆、買い替えた方が良いとか言ってきてさぁ?」

「まあ、それが普通の反応さ。ましてやかたわのメモリアなんて、何の役にも立たないし」

「ううん! ショーコちゃんの歌は、世界で一番サイコーだよ! 聴いてたら、泣けるくらい元気が出る!」

「大袈裟だよ。私たち“DIVA”の標準機能だしな」

「それでも! オレの為に歌ってくれるのはショーコちゃんだけだから。ああ、やっぱ好きだ……ショーコちゃんとケッコンできる未来、早く来ないかなぁ……」


 サユリのメモリに、新たなデータが刻まれた。彼らの話は非常に興味深く、また、感じ入るものであったから。


「ねえ、キバナさん……ショーコさんの腕は、もう直してあげられないの?」


 サユリがそう尋ねると、キバナは「そうなんだよなぁ」と苦々しい顔をする。


「“DIVA”って、第三世代だろ? キミほどじゃないけど、古いんだ。おまけに、期間限定品だったみたいでさ。パーツ、もう流通してないんだ。絶版ってやつ……ネットとか見てても、今のオレじゃ無理な金額ばっかでさ」

「気にすること無い。お前を助けて失った腕なら、安いものだよ」


 微笑むショーコは大変にきれいで。キバナが惚れた理由もわかる気がする、とサユリは思った。キバナが嬉しそうに人懐っこく笑った。


「うん。ショーコちゃんのウデにはオレがなるって決めてる。一生かけても幸せにするからねー!」


 でも……サユリは考える。どうにかショーコの腕の部品を手に入れる方法は無いだろうか? そして、今日一日の記録を振り返って、気づいた。


「キバナさん! 腕のパーツって、持ってるヒトは、ホントにいないの?」

「ええ? そうだなぁ。そりゃ、コレクターとかなら持ってるかも知れんけど……譲ってくれんでしょー?」

「ううん……! “コレクター”ならわたし、ツテがある!!」


 不意に立ち上がるサユリに、驚くキバナとショーコ。「ショーコさん、電話番号交換しよ!」と彼女から半ば強引に番号を貰ったサユリは、

「近いうちに良い連絡ができるようにがんばるから! キバナさんとショーコさんも、人機婚姻法を……成立させるの、がんばって!! それじゃあ!!」

 と伝え、風のように駆けて行ったのだった。


「……変わったメモリアだったなぁ?」

「ふふ……お前には言われたくないことだな、リョウマ」


***


 後日、再び演説者という立場で、表舞台に立つキバナ。今度はあの謎のはっちゃけもなく、いやに緊張しているように見えた。

 隣に寄り添うショーコは、今回初めて公開されたキバナの婚約者のメモリアだ。

 無かったはずの左腕を巧みに動かし、後援者から花束を受け取るショーコとキバナ。若く勢いがあるふたりは、「ヒトとキカイ」の未来を示す図としてピッタリだった。


「ふふふっ。ショーコさん、よかったー」


 月並総合病院のキクの病室にあるテレビでその様子を見届けたサユリは、嬉しそうに足をぱたぱたとさせる。キクが不思議そうに尋ねた。


「サユリちゃん、この方々とお知り合いなの?」

「うん、ちょっとね!」


 その横で、ヒガンはサユリに届いたメールを紙に出力したものを凝視していた。差出人は、“サクラ ユウ”──


『サユリちゃんのお願いだからね。僕の知り合いの“DIVA”クラスタに頼んで、左腕のパーツを送ってもらいました。

 僕がメモリアコレクターで本当に良かったね。一生、僕に頭上がらなくなっても知らないから。

 ……サユリちゃんはお礼に、今度僕とデートしてくれるそうです。絶対に邪魔はしないこと。』


 サユリがはじめて自分のCPUで全部考えて、動いた出来事だ。それはすごく嬉しいことなんだけど。

 最後の一文に強烈な不安を感じて、ヒガンは小さく呻くことしかできなかった。

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