第22話 タフィリアの次兄② ~帝国騎士団・副団長~

 

「さて今日の宿についたかな。

 さ、タフィ、彼女をエスコートして差し上げろ」

「はい!

 さ、こっちだよルイーザ」

「ええ、ありがとう」

 そういって二人は実家の別荘に入っていった。

「ルイージ」

「…なんだ、ワリーか」

 二人が別荘に入ると、幼馴染で騎士団に入っている悪友の侯爵令息・ワリーが声をかけてきた。

 ワリーとは学生時代からの腐れ縁で、俺が騎士団に入ったあと、「お目付け役だからよ」と悪びれもせずに俺に言ってきた。

「…タフィ殿は、どうやら実家のこと何も言ってないみたいだな」

「…そのようだな」

 ワリーの一言で俺はようやく、「俺が迎えに来た理由」と「実家の馬車を遣わせなかった理由」を理解した。

 タフィの奴、ルイーザ嬢に実家のこと・・・・・伝えてないな…。

 まぁいい、この旅が終わればわかることだ。

 相手も侯爵令嬢とのことだし、不足はない。

 まぁ…うまくやれよ、弟。

 

 それから数日かけ、俺たち一行は帝都へと足を踏み入れた。

「これが…帝都」

「そうだよ、いやぁ…久しぶりだなぁ」

 一行は帝都が見下ろせる丘の上で最後の休憩をとり、間もなく帝都の門にたどり着くところまで来ていた。

 正直国境の街から帝都に来る途中にここを回るのは寄り道になっているが、タフィの希望でルイーザ嬢にこの帝都が一望できる場所を見せたかったらしい。

「どうだい、帝都は」

「お義兄様…ええ、王都よりも建物が多くて…活気があるように見えますね」

「そうだろう?

 そして治安も悪くない。

 そんな帝都が君を歓迎してくれるよ」

「…そう、ですね…」

 ルイーザ嬢はそういって休憩が終わるまで帝都を眺めていた。

 

 それから1時間ほど。

 休憩場所からしばらくして帝都の門をくぐってから、石畳を行くことしばし。

 馬車が、ガクン、とどこかで止まった。

「…ついたようだね。

 さ、降りよう、ルイーザ」

「…え、ええ…」

 タフィがルイーザ嬢を再びエスコートして、馬車から降ろす。

 そして目の前に、タフィと俺の実家が見える。

 

「…は?」

 

 思わず、ルイーザ嬢が令嬢らしからぬ声を上げたのがわかった。

 やっぱりタフィの奴、言ってなかったな…ワリーが笑いそうになっているのが甲冑の上からでもわかる。

「…タフィ…あの、冗談は…」

「さ、入って、ルイーザ」

「えっ…? えっ!?」

 実家・・のエントランスに向かって歩き出すタフィに、ルイーザ嬢は何も言えなくなっている。

 そしてエントランスでタフィは振り返り、貴族の礼をする。

 

「ようこそ、ルイーザ・レゼド嬢、わがアルメスト帝国へ

 私が帝国第三皇子・タフィリア・アルメストです」

 

「…え? ええ!?」

「…ははは、やはり伝えていなかったか愚弟よ」

 思わず俺はその様子に耐え切れず噴き出した。

「…えと、お義兄様…」

「では改めて…ルイージ・アルメスト、アルメスト帝国第二皇子、帝国騎士団・副団長だ」

「…帝国騎士団…」

 へなへな、とルイーザ嬢がへたり込む。

「…驚かせてごめん、ルイーザ。

 君の性格からすれば、僕の正体を明かすと婚約を受け入れてくれそうもなかったから、ここまで連れてきてしまったんだ」

「…」

 何も言えずに、唖然としたままのルイーザ嬢の肩をタフィリアがそっと抱いた。

「そのくらい君のことを大切にしたいと思ってる」

「…もう、そんなこと言われたら、認めるしかないではありませんか…」

 ルイーザ嬢が陥落した瞬間だった。

 元々タフィリアと婚約してここまで来たのだから、それなりの覚悟はあったのだろう。

「…さ、父上と母上に挨拶に行こう、ルイーザ」

「…はい」

 そういって二人が帝城の中に向かった。

「…やれやれ」

 俺はそう思いながら、二人の後について帝城に入った。

 

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