第21話 タフィリアの次兄① ~帝国騎士団・副団長~

 

 弟に彼女ができたと聞かされた日には一瞬めまいがした。

 社交性はあるのに女性との付き合いがない彼奴は、男色なのでは?と家族中で心配したものだった。

 

「あ、ルイージ兄上!!」

「…来たか、タフィリア」

 久しぶりに、弟の声を聴いた。

 1年間隣国に留学した後、将来もらえる領地のために領地経営を学んでいたらしい。

 家を継ぐ兄上、騎士団に入った俺、そして領地を経営する弟…彼は兄上の補助をすることも考えているようだ。

「あ、兄上、紹介します。

 婚約者のルイーザ嬢です」

「…ルイーザ・レゼド、と申します。

 タフィリア様にはお世話になっております」

「そうか…俺はルイージ、タフィリアの兄だ。

 騎士団で副隊長をしている…君たちを王都迄送る護衛だ。

 よろしく頼む」

「はい、お願いいたします」

 そういってルイーザ嬢は慇懃に頭を下げた。

「タフィリア…お前…」

「あ、兄上?」

 俺が思わず熱くなった目頭を押さえると、タフィリアが驚いた顔をした。

「お前が…婚約者を連れてくるなんて、思わなかった…これは父上も母上も…お喜びなのだ。

 それを最初に知らされるのは家族でないといけないと思って…ここに来たが…こんなにうれしいことはない。

 …ルイーザ嬢」

「…はい…」

「ありがとう、タフィリアについてきてくれて…。

 タフィリアが君を大切にしないということがあったら…その時はタフィリアを罰するから、何でも言ってくれ」

「…はい!」

「ま、待ってよ!

 絶対大切にするって約束したじゃないか!!」

 タフィリアが抗議しているがそんなことは関係ない。

「…さ、二人とも、馬車に行こう。

 今日はここからしばらく行った辺境伯領にある我々の別荘で一晩明かすことにしている」

「あ、あの別荘!

 久しぶりだね!」

 タフィリアがどの別荘かわかったようで、喜んだ。

 

 馬車の中で、俺はタフィリアの幼少期、主にタフィリアが思い出したくないような話をルイーザ嬢に話して聞かせた。

 横で「なんでそんなこと言うのさ!」とタフィリアは怒っていたが、騎士団員の俺には蚊に刺されるくらいの攻撃しか来ない。

 

 そんな話をしながら俺はタフィからの電報を思い出していた。

 隣国に留学してその後も、領地経営の勉強のため数年帰ってこなかった弟が、数日前手紙をよこした。

 その内容というのが、俺たち身内にとっては驚天動地だったのは言うまでもない。

 何しろ、社交界で困らない程度の社交性はあったが女性に対して恐怖なのか嫌悪なのか、身内と幼馴染・・・の侯爵令嬢以外の女性に心を開かなかった弟が、「婚約者を連れて帰るから、国境の町まで馬車をお願い」などと書いてきたのだ。

 しかも、電報は何通かに分けて「実家の馬車は使うな」とか「迎えはルイージ兄さんと護衛の人だけにして」とか、わけのわからない指示がいろいろ書いてあり、一刻も早く迎えに行きたい母上をなだめるのが大変だったし、父上や長兄も不服そうな顔をしていた。

 両親としては子供は3人、全員男の子で世継ぎと何かあった時のスペアがいるのはありがたいことだが、何しろ男世帯で花がないとは母上の談。

 そんな一家の中で、社交性があって姿かたちも整っている末っ子がかわいがられないわけもなく、タフィは一家のアイドルだった。

 それが、数年前、隣国である王国に留学すると言い出し、1年の留学期間の後、将来を考え領地経営を学ぶと言ってしばらく帰ってくることがなかった。

 実は留学期間が終了する間際、隣国に所用で向かった際に、タフィとも会ったのだが、その時「こっちの国で婚約者を探そうと思ったけど、うまくいかないね…帝国と同じだよ」と力なく笑っていたのを思い出す。

 どうやら、タフィは婚約者探しのため、領地経営を学ぶという名目で王国に残ったらしい。

 それから1年以上たち、久々に来た電報に母上が狂喜したのは言うまでもない。

 父上は「決めたのはいいが…」と言葉を濁すが、「タフィが決めたのなら文句を言わないで!」という母上の一喝に何も言えなかったらしい。

 

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