第20話 ライス辺境伯③ ~王国辺境伯~

 

 そして翌日。

「ではお義父様、行ってまいります」

「…ああ、ついたら手紙を書くんだよ。

 君の義兄あてでもいいから…」

「書きます…きっと書きます」

「タフィ殿、ライス、よろしく頼むぞ」

「もちろんです!」

「ああ、行ってくる…」

 タフィ殿、ルイーザ嬢、そして俺を乗せた辺境伯家の馬車は国境を目指す。

 レゼド侯爵に関しては、俺が戻るまで屋敷に滞在してもらい、その後侯爵を送りがてら、一度侯爵家に邪魔する予定だ。

「…辺境伯領は険しい場所なんですね」

「え…あぁ、そうだな、王都の都会っぽさはないし、侯爵領のようなのどかさもないな…あるのは山と岩場に、少しの平地を農地にしているくらいだな。

 まぁ険しいくらいでないと防御に適さない」

「なるほど…領地によって必要な経営というのは異なるんですね…勉強になります」

 ルイーザ嬢は今まで自分がしてきた領地経営と、別の領地の違いを見るというのが初めてで、とふわりとほほ笑んだ。

「…領地経営の才は、侯爵から聞いていたが…想像以上に領地経営に興味があるようだな」

「…けど、全然うまくいかなくて」

「何を言ってるんだ、ルイーザ。

 僕は君に何度助けられたかわからないよ!」

 タフィ殿が誇らしげにルイーザ嬢の領地経営のすばらしさを説くのを、恥ずかし気にうつむきながら聞いているルイーザ嬢を見てほほえましくなった。

「…辺境伯様に、恥ずかしいわ。

 もちろん私がしてきたことは間違いではないけれど、辺境伯領では間違いだってこともありそうだわ」

「…あぁ、それはそうかもしれないね。

 領地によってなさねばならないことが違うからね」

 これにはタフィ殿もうなずく。

「いや、あくまで領地経営は主に父親や母親から代々受け継がれていた経営方法を引き継ぐことができるからね。

 新たに領地が増える場合でも、その領地の前の持ち主に経営方法を聞くことができる。

 …領地を見ただけで経営方法が違うなんて気づけるのは才能だと思ってくれ」

「…辺境伯様まで…」

「そうそう。

 それに僕はまだ領地を持っていない・・・・・・・・・・・けど、最終的には領地経営する貴族になるんだ。

 だからそんな君が隣にいてくれるのがとても心強いよ!」

「…タフィ…」

 またルイーザ嬢は恥ずかしそうに今度は顔を外に向けた。

 

 それから数時間、辺境伯家の馬車に揺られ、淑やかなルイーザ嬢と、にぎやかなタフィ殿と過ごした。

「…さて、国境の街だな、降りるとしよう」

 そういって俺は、タフィ殿を先におろし、ルイーザ嬢をエスコートする。

 「あぁ、辺境伯様、それ僕がやりたかったのに!」とタフィ殿は不満そうだったが。

「…これが、国境」

「そうだ。

 この門の先には、隣国…アルメスト帝国の国境の街がある」

「…」

 隣国とはいえ外国に行くというのは、伯爵、侯爵レベルの貴族とはいえほとんどない。

 王家、公爵家は行くことはあるが、それ以外だと、宰相に選ばれた侯爵家と隣国に接している辺境伯家、大きな輸入商家を傘下に収める一部の伯爵・子爵家くらいなもので、海外旅行をするというのは庶民はもとより下級貴族でもできないことだった。

 俺はすぐ隣に帝国のある辺境伯家の当主なので、アルメスト帝国には何度か行ったことがある。

 アルメスト帝国はこの王国よりも近代的に発展している国家だ。

 今から、ルイーザ嬢はその国に嫁に行くことになる。

「…辺境伯様、ようこそ」

 こちらの国の門衛が俺に声をかけてきた。

「ああ…今日は彼らを隣国に出国させたい」

「はい…えと…」

「あぁ、タフィリアという。

 これを…」

 門衛が困っていると、タフィ殿は名前を名乗って門衛に一枚の小さな紙を見せる。

「…へ…あ、ど、どうぞお通りください!!

 失礼いたしました!!」

「あぁ、彼女は僕の婚約者ね」

 もちろん・・・・通れるよね、と言外ににおわせ、タフィ殿は門に向かう。

「…あ、タフィ…辺境伯様、ありがとうございました!!

 また、お手紙出しますわ!!」

「ああ、気を付けていくんだよ、ルイーザ嬢!

 タフィ殿、後を頼む!」

「もちろんです!

 辺境伯様もお元気で!」

 タフィ殿はそういうと、ルイーザ嬢を伴い、隣国へと旅立った。

 

「さて、家で爺さんを拾って、侯爵家に行くか。

 忙しくなりそうだ」

 そうつぶやいて馭者に来た道を戻るように指示して、馬車へと戻った。

 

 それから一年かけ、俺はレゼド侯爵、ベネディクト伯爵領の代官・ミレド前男爵や元執事のレイモンド、そして例の後妻にやめさせられた伯爵家の使用人に聴取し、ルイーザ嬢の体の傷を最大の物的証拠に、伯爵あの男の後妻を逮捕することができた。

 最も、伯爵本人は虐待には加わっておらず、伯爵領の税金を一部横領した罪に問われ簡単な罰金刑だけで許された。

 それは不服だったが、今度は例の後妻の娘が血がつながっていないとわかるや否や、ベネディクト伯爵との結婚を希望するというまさかの結末。

 結果後妻のみが一人実刑になり、ベネディクト伯爵家はそれによって白い目で見られ、社交界から爪弾きされたようだ。

 それでも、ベネディクト伯爵は新たに迎えた元養子の夫人とともに歩んでいくことにしたらしい。

 

 それから3年後、伯爵家に放火騒ぎが起こるとはだれも思わず。

 

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