第5話 ライリー① ~ベネディクト伯爵家 当主~
ライリー ~ベネディクト伯爵~
「…」
私、ライリー・ベネディクト…現・ベネディクト伯爵は何か足りないと思い始めていた。
領地だ領民だと愚にもつかないことを心配し小言ばかり言っていた、元夫人のルイーザが病死し、長女のカトリーヌは仕事を手伝わせて幽閉していたところで、その二人と同列の執事・レイモンドが引退し、新たにその下で私には逆らわないジャックという若い男を執事として半年以上が経つ。
その少し前にはレイモンドが珍しく私に利する提案をし、領地の代官も、同じく小言の多かったミレド前男爵から、その嫡男ではない次男は私側の人間であったこともあり、前男爵の引退の申し出を幸いに、その次男に継がせた。
領地経営も家の中も私の味方であふれ、領地経営で何かあればカトリーヌにすべてかぶせてしまえば話は終わる…そんな順風満帆な生活を過ごしていた。
一つ気になるのは、もともと少なく
「…なぜだ?」
領地は農業が盛んな土地ではあるが、今年は不作というわけではない…むしろ豊作なほうだ。
ルイーザやレイモンドが口やかましく農業以外の特産を作れというから、山地にある林を開いて林業を使用と思ったら、今や「紫のダイヤモンド」と呼ばれ、魔法具に必須な魔力を持つ石である「魔鉱石」が多少発掘され経済が潤った。
その点
農業が不作でも魔鉱石のおかげで心配事がなくなり、昨年不作だったにもかかわらず無事に領地は回った。
しかし今年はむしろ農業は豊作であるにもかかわらず、不作だった去年よりもむしろ税が少ない。
考えられるのは、代官に任命した件の男の不正だが…そんなことに頭の回るやつとは思えない。
「ジャック…ジャックいないのか!?」
「はい、旦那様! ただいま!」
この若いが卑屈な執事姿の小男が、小言は多いが優秀だったレイモンドに比べると執事としては数段落ちるが、私に従順なのでかわいがっている。
「領地の租税が少ない。
どういうことだ?」
「え? 去年と同じでは…」
確かに額面上は昨年と同じ租税であるが、不作の年と豊作の年で租税を変えるのは基本だ。
「何を言っておる…不作の去年と豊作の今年で、租税が同じでたまるか。
今すぐ代官に手紙を…あぁいや、すぐに準備しろ」
「…準備、ですか?」
小男は不思議そうな顔をする。
「…領地へ行く。
手紙でやり取りするよりも、直接見に行ったほうがいいだろう。
旅支度をしろ」
「…か、かしこまりました!」
そういって小男は私の部屋を出た。
準備はすぐに整ったのだが、すぐには出発できなかった。
というのは領地へ向かうといったところ、なぜかジェニーが「領地を見たい」とごね出したのだ。
今回の領地訪問は私の仕事であり、面倒を見られないといったのだが、イメルダ迄が「では私も行けば、ジェニーの面倒を見られますわね」と言い出したので、なだめるのが大変だった。
…その説得の中で「最近、お茶会のお誘いも来ないし、こちらからお誘いしても誰も来ない」と言われたことだけ少し頭には残ったが、何とか家で待つよう説得し、御者のもとへ向かった。
「旦那様、馬車の準備ができております」
「…そうか、では向かうか…」
「へぇ…ただ、私も馬も領地迄の長距離には慣れていないので、ならしながら行きますんで」
「…なんだと?」
代々使えてくれている馭者・ローレンスの言葉が気になる。
「カトリーヌが数か月に一度は領地に視察に言っていただろう。
二人しか馭者はいないはずだが、もう一人の馭者しか領地へ行っていないのか?」
いや、それはあり得ないはずだ…ローレンスは家の者には忠実でカトリーヌでも馬車を出すことができるが、もう一人のベンはイメルダが連れてきた馭者でカトリーヌの指示には従わない。
「カトリーヌ様は領地へよくいかれてるんですか?
…そういえば一度だけ私がお供しましたけど…何年前でしたかねぇ…。
それ以降は夫人が『伯爵家の馬車を私が買い物に使えないのは納得いかない』とカトリーヌ様に抗議していたとは聞きましたよ?」
「…ということは…どういうことだ?」
この時、以前カトリーヌがローレンスに馬車を出してもらい、私がベンの馬車(運転はひどかったので二度と彼の馬車には乗りたくないが)で仕事に言ったため、イメルダとジェニーの買い物に馬車がなかったということがあったのを忘れていた。
「領地へは何回か乗合馬車を乗り継げばたどり着けますからね。
カトリーヌ様は乗合馬車の乗り継ぎで行っていたのではないでしょうか」
少し目を細め冷たい声でローレンスは答えた。
つまり、イメルダが近所に買い物に行くために…いや、そうではないな。
ベンはイメルダにしか従わないのだから、今目の前にいるローレンスを使って領地に行くのが正しい。
しかしその時にイメルダが買い物に行ってしまえば私が急用で馬車を使わなければならないときに馬車がなくなる…あぁ、カトリーヌはそこまで考えていたのか。
そうなれば、イメルダだけではなく私もカトリーヌを叱責するだろう。
それを未然に防ぐためにカトリーヌは自ら進んで乗合馬車で領地に向かっていたようだ。
「…そうか。
まぁいい、馬車を出してくれ」
「承知しました」
1週間分の荷物を馬車に乗せ、私は領地へと向かった。
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