来世で会いま唱

@agito-10pest

来世で会いま唱



小さい頃の話なんだけどさ

病気しがちでよく病院に行ってたんだ

そのときによく話し相手になってくれた女の子がいてさ

その子は重い病気で入院してて

病院に行く度に会って話してたんだけど

家からそう遠い距離でもなかったからさ

いつからか毎日会いに行ってたんだ

朝から晩まで毎日お話ししてた

あの子の「おはよう」を聞くと元気が出たよ

5時のチャイムが鳴ったら「またね」って言って別れてたよ

毎日色んな話をしたなあ

いつか退院したらお花畑に一緒に行こうねって話をしてたのは今でも覚えてる

いつだったかふと、あの子と話してるときに気づいたんだ

この子が好きだって

まだ小さかったし恋ってものを知らなかったけどさ

それでも、この時間だけはかけがえのない大切なものだって気づいたんだ

でも面と向かって好きだって告白できるほどまだ強くはなかった

いつか好きだと言おうと思ってた

あの子と一緒にいるときはいつも、この時間が永遠に続けばいいのにって思ってたよ


ある日、いつもより早く病院に行ったんだ

そしたらあの子の病室にお医者さんがいてさ

なんか入りづらくて廊下で話しが終わるのを待ってたんだよ

盗み聞きしようとした訳じゃないんだけど、偶然聴こえちゃったんだ

余命1ヶ月って

持って2ヶ月だろうって

まだ小さかったから余命の意味は分からなかったけど

なんとなく、あと1ヶ月でいなくなっちゃうんだって思ったんだ

そのときはとてつもない不安に襲われたよ

怖くなって怖くなって走って病室を離れてトイレに籠ったよ

でも不安の中にほんの少しだけホッとした自分がいたんだよ

あと1ヶ月あるんだって

その間に告白すればいいんだって

そう考えたら気が軽くなってさ

いつも通りお話しして別れたんだ


それから2週間たって

その間毎日病院にいって話してたんだけどさ

その日あの子が別れ際になにか言いたそうにしてたんだよ

でも時間だったし「またね」って言って別れたんだよ

次の日になってさ

理由は忘れたけど病院に行かなかったんだ

あの子と毎日会うようになってから初めて病院に行かなかったんだ


その日の夜、夢を見た

白い花がいっぱい咲いたお花畑で、あの子と遊んでいる夢を

今思えばあの花は彼岸花だったよ

白い彼岸花なんてあるんだな

近くに川があってそこで水切りしたりして

あの子と一緒に追いかけっこしたり

いつも以上にお話しして

楽しかったなあ

まさに夢のようなひと時だったよ

でも夢はいつか終わるもの

5時のチャイムが聞こえてきたんだ

目覚めのときを知らせるチャイムが

そのとき、あの子は一輪の花をくれたんだ

お花畑に咲いている花と同じ花を

でも渡してくれた花は白い花じゃなかった

まるで鮮血のような赤い彼岸花だった

「ありがとう」と花を受け取って、いつも通り「またね」って言って駆け出したよ

明日は何して遊ぼうかなとか

明日はどんなお話をしようかなとか考えながら

夕日に向かって走ったよ

そしたら遠くから声が聞こえてきたんだ

「ありがとう」って

そしていつもとは違う別れの言葉

「さようなら」って

きっと精一杯の大きな声だったんだろうな

今でもずっと耳に残ってるよ


目が覚めたら、手には赤い彼岸花があったんだ

瞬きしたら消えちゃったけど

不思議と目から涙が止まらなかったよ

悲しいとか嬉しいとかじゃなくて

ただただ涙が止まらなかったんだ

今見た夢の話をしようと病院に走っていったよ

今すぐにあの子に伝えたくてさ

今なら好きだと言える気がしてたんだ

病院に着いてあの子の病室に向かおうとしたら呼び止められた

そして告げられたよ

さっき息を引き取ったって

夜急に発作が起きたって

昏睡状態になった後一時は落ち着いたけど、さっきまた発作が起きてそのまま……

何を言っているのかわからなかった

言葉の意味がわからなかったってのもあるけど

さっきまで一緒に遊んでたのに

さっきまで一緒にお話ししてたのに

夢中で駆けだした

なんで、どうして、なんで、どうして

頭の中はぐっちゃぐちゃになってたよ

病室のドアを開けたら色んな人がベッドを囲んでた

お医者さんが座ってた、ベッドの横のイスに座らせてもらって、あの子の姿を見た

あの子は、赤い彼岸花を持って眠っていた

今にも「おはよう」と言って話し出すかのような笑顔だった

あの子の持っていた赤い彼岸花は、多分白かったんじゃないかな

だってあの夢で見た彼岸花と同じだったから

赤く染ってしまった白い彼岸花を持ったあの子を見て、もう会えないことを理解したんだ

もっと早く好きだと伝えればよかった

なんで昨日会いにいかなかったんだろう

後悔ばっかり頭に浮かんでくる


涙は出なかったよ

もう既に出し切っていたから

まるであの子が、最期は泣く姿じゃなくて、笑っているキミが見たいって言ってるような

そんな気がしたよ

最後に一言だけ

あの子に別れの言葉を送った

精一杯の笑顔で

「さようなら」じゃなくて

「またね」って

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