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午前中の授業が終わり、小川は山下と少し話したが、やはり海叶の居ないクラスでの自身の役割が見えなかった。校長から言われた「山下の目が届かない子供を助けてくれ」という言葉も「子供に目が届かない山下を助けてくれ」と言っているように思えてきた。
「それでは、お先に失礼します」
「はい、お疲れ様でした。明日もよろしくお願いします」
山下から「明日も」と言われたが、小川は言葉の意味のまま受け取ることなく、ただの挨拶として頷き学校を出て車に乗り込んだ。
いつも通り、学校を出て家へと向かう道中、ふと道路脇の赤いポストに目に留まった。
「手紙、か」
小川は車を路肩に寄せ、助手席に置いていたバッグを開けた。
バッグの中から取り出した海叶からの手紙をダッシュボードの上に置いた後も、まだバッグの中を探っている。そして手にした紙の上部には「緊急連絡網」と書かれていた。
小川はその紙にある自分の番号のひとつ上に書かれている番号へ電話をかけた。
「もしもし」
応答はすぐにあった。けだるい声だ。その声を聞いた小川は、距離感を間違って衝突してしまった感覚がして、電話したことに後悔した。
「小川です。突然すみません。お加減はいかがですか?」
取り繕って口にした挨拶も、正しい言葉だったのかさえ判断できない。
「はい、元気です……って言っていいのかな。小川先生は?」
不思議なことに、初めてまともな会話をしている。そのことがどこか可笑しく感じられた小川は、確かに小川らしい距離感というものを見失っていたのかもしれない。
「正直、海叶君が転校して気が抜けた感じです。塚田先生が休まれているのも知りませんでしたし……」
そう口にしたものの、その後の言葉を小川は悩んだ。その間が、塚田の何かを動かした。
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