第15話 クリスの身元
クリスはマイエルンと一緒に彼の
「お疲れ様でした、ボーン様」
マイエルンはわざとらしくクリスの背中にそう声をかけて見送った。クリスは返事もしなかったが、マイエルンは密かに苦笑していた。クリスがああいう態度を取る時は機嫌が悪い時なのだ。経費横領に失敗したのだから悪いのはクリスのほうなのだが。
クリスの姿が見えなくなるとマイエルンはバックヤードの自分のデスクに向かった。彼にはまだいろいろな雑事が残っている。クリスが捕獲した
次にクリスへの報酬の計算である。ふむ二千五百三十三泊か。がんばったなクリス。一時期はもうあと数ヶ月で三千泊の大台だったのに。
実は三千泊という数字に意味はない。少なくとも現時点ではだが。クリスが最初にこのホテルに来て、ここのゲストとして扱うと決められた時、シールド様がなんとなくの目安として言った言葉であった。
──それだけあれば判るだろ
当時シールド様はそう仰った。それは再調査命令でもあった。その時点で身元は判明していたが、調査結果が今ひとつしっくり来なかったのだ。
クリス・ボーン。本名は同じだが一時期はクリス・リーグ。父はマイケル・ボーン、母はミシュア・リーグだが調査時点ではミシュア・ライハル。両親は今も健在だが元々ふたりは結婚していなかった。どうやら学生時代の恋愛で生まれた子らしい。
母ミシュアはクリスを産んだ年に高校を退学、その後は両親と共にクリスを育てるが、翌年18歳の時にクレイグ・ライハルと結婚。この時クリスは父マイケルの元に引き取られているが、さらに翌年には消息不明となっている。クリス自身の記憶と合わせると、この当時クリスはボルドという人物の元に身を寄せていたらしい。
まずこのボルドという人物が何者であるかが今も判らないのだ。クリスの記憶によると当時から寝たきり同然の老人であったようだ。そして幼いクリスの記憶では、彼はクリスが三歳か四歳くらいの時に亡くなったとの事である。
仮にクリスが四歳の時に亡くなったとすれば1782年に死んだ事になる。前後二年程幅を見て1780年から1784年の間にジェムダ地区周辺で亡くなった単身の高齢者を洗ってみたが、該当者が多すぎて特定ができなかった。
そしてこの後クリスはダリミル・バチェクという男に引き取られている。この人物は
その関係が真実なのか謙遜なのかはバチェク自身も含めてどうでもいい。問題なのはバチェクがクリスに遺した言葉とその意味であった。
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