第13話 それぞれの会話
クリスはある思惑があって大人しく
「なんで!?」
マイエルンの顔を見て思わずクリスはそう絶叫してしまった。マイエルンはクリスの仕事のマネジメントもしている。つまりクリスは留置所で一泊する事で宿泊費をごまかそうと考えていたのだが全て水の泡であった。なんで来るんだよ!
「ゲストを放って置くわけには行きませんよ」
マイエルンは皮肉たっぷりの笑顔でそう言った。
「ゲスト?」
マイエルンの言葉を聞いて警邏がそう確認した。
「ええ、ピーター・シールド様のお客様なのです」
その言葉にマイエルンと同行してきた偉そうな警官が黙って警邏に目配せした。余計な事を言うな、という意味であろう。
斯くしてあっさりと釈放されたクリスは、しかし当然喜んではいなかった。クリスは迎えが来るとは想定しておらず、もし来るとしてもレジーだと思っていたのである。もしレジーならクリスの事情を察して多少の「お遊び」で目溢ししてくれるだろうと踏んでいたのだ。それがまさかのマイエルンである。
「ご苦労だったねクリス」
マイエルンはやや皮肉を込めてそう言った。
「わざわざ来る事ないのに」
クリスはブーたれた顔でそう言った。
「君が心配だったからだよ」
マイエルンは皮肉げな微笑でそう言った。
「だったら今回の報酬を見直してよ」
クリスはマイエルンを睨みつけてそう言った。
「私の移動費は気にしなくていいさ」
マイエルンはからかうようにそう言った。
「誰が払うかよ!」
どうせ
こうしてクリスとマイエルンは警邏署を後にしたのだが、それを見送る警邏達が居た。彼らは当然タルスウィル島の事情など知らず、この奇妙な逮捕劇が一体なんだったのかは判っていない。見送るひとりが独り言のように言葉を発した。
「なんだったんだあいつは」
彼は最初にクリスに
「タルスウィル島の子だからね」
もうひとりの女性警邏がそう応えた。
「あんな噂を信じろってか?」
最初の警邏が片鼻に皺を寄せてそう言った。カリジア南東部に浮かぶ謎の孤島の噂は誰でも知っている。そこには唯ひとつのホテルがあるだけで、住民は全てそのホテルの関係者で、しかもその住人は全員化け物だというのだ。まあ都市伝説だが。
「噂はともかく治外法権よ」
女性警邏は諦めるようにそう言った。
「なんだよそりゃ、何でもやり放題か?」
男性警邏が忌々しそうにそう吐き捨てた。
「関わらないの。ただ判った事もあるよ」
女性警邏は少し上目遣いの笑みを浮かべた。
「なんだよ?」
男性警邏は肩眉を上げて訊いた。
「あの子は女の子だったよ」
最初にクリスの身体検査をした女性警邏は面白そうにそう言ってにやりと笑った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます