第12話 捕獲と逮捕

「あれなんだ?」

誰かがそう見咎めた。最初はこの収穫祭を彩る光線ライトアップか何かだとスルーされていたクリスの稲妻の術ライトニング・ボルトは、ついにそれが攻撃魔法の発動だとバレたのである。


「あれは魔法だ!」

警邏けいらの一人がそう叫んだ。


「そこの君!直ちに止まりなさい!」

もう一人の警邏がクリスにそう叫んだ。


「きゃああああ!」

いくつかの場所から女性の甲高い叫び声が響いた。その声で群衆たちも大パニックに陥った。元々大パニック状態ではあったが。


「止まれ!コラ!邪魔するな!」

警邏たちが叫びながらクリスに向かってくる。しかし逃げまとう群衆と、まだ何が起こっているか良く判っていない群衆に阻まれて警邏たちは思うように進めない。一方で魔法の発動源であるクリスの周囲からは人が逃げ、死霊レイスの追跡を容易にした。


「どけどけ!」

これ幸いとクリスは再び走って死霊を追跡した。クリス自身から逃げる者と、クリスを追いかける警邏たちから逃げる者とが合わさり、まるで海原を割るようにクリスは群衆の海を切り裂いて死霊を追いかける。死霊は空を飛ぶし動きに規則性はないが、移動速度そのものはさほど早くはない。ついに群衆の海は大きく割れ、クリスと死霊まで一直線に道が拓けた。今だ!


「おりゃ!」

クリスはチャンスを逃さなかった。拘束の術バインドを発動して死霊を拘束した。


──うううう

死霊はそう聞こえるうめき声を上げた。もちろんクリス以外にはほとんど聞こえなかっただろうが。それはもちろん警邏たちの大半も同じで、彼らはついにクリスが逃走を観念したと解釈した。警邏の一人がクリスに歩み寄り肩に手を置く。


「22時49分逮捕、名前は?」

その警邏はそう言った。クリスは捕獲しにきたのはこっちだよ!とは言わなかった。


「クリス・ボーン、タルスウィル島のものだ」

その言葉に集まってきた警邏たちはやや怯んだ。彼ら自身はよく事情を知らないが、とにかく上層部から構うなアンタッチャブルと言い渡されている謎の孤島の関係者らしい。とはいえそれは今ここでは判断はできない。とりあえず警邏たちは手縄などせず、クリスの周囲を人垣で固めて連行するのであった。

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