第9話 悪魔たちの観戦

「お、もうちょっと」

シールドは水晶玉に映るクリスと死霊の逮捕劇を観戦していた。これは新たにできたシールドの娯楽のひとつだった。まさに高みの見物である。


「あ、今の惜しかった」

客室係のレジーも一緒に観戦して声を上げた。マイエルンも一緒に観ていたが、彼は娯楽としてではなくクリスの動きを観察している。


「しかし大変だねこりゃ」

料理長のウェダムも面白そうにそう言った。つまり今、ホテル・バラーの従業員のほとんどが集まってクリスの逮捕劇を観戦しているのである。


「でも大きくなったわねえクリス」

フロント係のマギーがしみじみとそう言った。その言葉に皆がうんうんと頷く。


「最初に来た時はぶかぶかのローブだったよな」

ドアマンのアギルが懐かしそうに言った。


「あれまだ持ってるよ。あ、惜しい!」

レジーが答えつつ途中から残念がった。


「攻撃魔法でも撃てばいいのに」

料理人のデイモンがそう言った。


「群衆に被害が出ればペナルティだからね」

マイエルンは冷静にそう言った。


「え?なんでですか?」

デイモンは当然の質問をした。かつてはともかく、今の彼らは民衆に責任など持っていないし、ましてやこの群衆はほとんど人間である。


「ルールが多いほうが楽しいだろ?」

シールドは澄ましてそう言った。その言葉にクリスを応援している筈の従業員一同も笑い出した。彼らは幼いクリスが一人でよろよろとこのホテルにやってきた頃から知っているし、クリスを愛してもいたが、それとは別に、人間から悪魔と呼ばれる者たち特有の感性も持ちあわせているのである。


「しかしこいつ何者なんでしょうね」

アギルがふとそんな事を言った。


「どっちが?」

マギーが聞き咎めて確認した。


「死霊のほうは堕落主義者で前科173犯」

マイエルンは敢えてそう言った。その言葉に従業員たちはひえ、とかうへ、とか声を上げたが本気で恐れている訳でも、興味がある訳でもない。アギルの質問はクリスに向けた者だと皆判っていた。しかしそれは誰も知らない。クリス本人さえも。

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