第8話 死霊を追って

この収穫祭は他の祭りと大きな違いがいくつかある。まずこれだけの人間が集まって居るのにも関わらずメインイベントというものがない。それどころか主催者すら居ない。じゃあ一体何しに集まっているの?というとただ集まる事が目的なのだ。


厳密に言えば参加者というのも存在しない。何故ならば参加・不参加を分けるべき主催者が居ないので、つまり勝手にやってきて、勝手に適当に遊んでいるだけである。つまりクリスの死霊レイス追跡は邪魔者ばかりで困難を極めた。


「どいて!」

クリスは大声でそう叫びながら標的の死霊を追跡した。いっそもうここで術でも行使しちゃおうかな、と思ったがさすがに影響が大きい。


「なんだよ兄ちゃん!」

酒に酔った男がクリスに突き飛ばされて文句を言ってきたが、そんな事に構ってられない。クリスは逃げるように逃げる死霊を追いかけた。


「ごめん!急いでる!」

一応はそう叫んで、だが止まる事はなく群衆をすり抜けていくクリスだった。


追われる死霊は頭が良かった。路地などに入らず群衆が多い方へと逃げていくのだ。ちくしょう!頭なんかもうないくせに!


抜群の運動能力──運動神経ではない。あくまで鍛えられた結果である──を持つクリスにしても群衆をかき分けて進むのが困難なのに対し、ある程度は空を飛べて物質もすり抜ける事ができる死霊にとっては実に有利な状況だった。


「チクショ!いっそ飛べ!」

クリスはそう毒づいた。もし死霊が群衆の頭上より高く飛べば、周りに被害を出す事なく拘束の術バインドなり金縛りの術ホールドなりを使う事ができる。実はクリスは群衆に被害を出す事そのものを恐れている訳ではない。それによるペナルティが発生するのを恐れているのだ。僕だっておこづかいが欲しいんだよ!


しかし死霊は群衆の頭をかすめる程度の高さですいすいと逃げていく。たまに霊障に当たって倒れる者も居るが、それもこのお祭り騒ぎの中では単に酔っ払って引っくり返っただけと思われて大騒ぎにはならず、クリスに進行の自由を許さなかった。


「これで二ヶ月分は安すぎるだろ!」

クリスは群衆をかき分けながらそう叫んだ。前回は半年分の割には随分と楽な仕事で、それで自信をつけたクリスは、たかが死霊の捕獲程度ならこんなものか、と妙な納得をして引き受けてしまったのであった。これなら一年分は寄越せ!

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