第6話 標的発見!

カルミア地区は日が暮れるほどに人影が増えていった。元々大都会で人も多いのに、今やもう道路全体がぎゅうぎゅう詰めだった。あるところでは収穫祭への祝いの言葉が大声で叫ばれ、またあるところでは警邏けいらが大声で交通整理をしていた。


「うっさいなあもう」

クリスは声に出してそう言った。独り言を言う性格ではないが、ここまで人が多くて煩いと多少は声を出さないと自分が消えてしまいそうだった。


ふと目を上げると死霊レイスだらけだった。この時クリスは知らなかったが、この収穫祭は冬至を意味する祭りで、転じて宵闇の魔物がやってくるという意味をも含んでいる。つまりオバケの仮装はそれを偽悪的に表したものなのである。従って陽気で茶目っ気が強い魔界の住人たちは、なら俺たちが行かなきゃ話にならん!と言わんばかりの勢いで喜々としてこの祭りに参加してくるのである。


「こりゃプラスアルファで15エルは欲しいな」

またもクリスは言わなくてもいい独り言を言った。クリスがこういう仕事を引き受けている理由のひとつは当然ながら宿泊費の返済のためだったが、プラスアルファの部分は自分のおこづかいになるのだ。


タルスウィル島は全域がホテル・バラーの敷地内であり、その中で生活している限りはあまりお金が必要な場面はないが、そこから一歩踏み出せば衣服だって靴だって食事代も宿泊代も必要なのだ。いつまでも昔のローブを引きずってる訳には行かない。


「灰色、灰色っと」

標的の死霊を識別するのには魔法が必要だが、ある程度の区分けは見ただけで判る。堕落主義者の死霊は見た目が灰色だそうである。とは言え少し路地に入ると割と結構そういう配色の死霊が居た。


──こいつら全部捕まえればいいのに

クリスはそう思った。魔界での倫理観では殺傷より堕落への誘導のほうが重罪であるそうだ。ならこいつら全部捕まえればいいのでは?もし一匹で二ヶ月分になるのならこの路地だけで十二ヶ月分だ。あっ十四ヶ月分になった。いやならないけど。


そうして十四ヶ月分、ではなく七体の死霊の群れに対して魔眼の術ウィザード・アイを実行した。今日これ何回目だろ。ハイ違う、違う、そう、違う、違う。ん?


「うわ居た!」

クリスは思わずそう声を上げてしまった。

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