搾取の構造

第2話 激しい魔法戦

クリスは木の陰に隠れて辺りをきょろきょろと見渡した。探索の術サーチを使えばそんな事をする必要はないのだが、この状況では少しでも精神力を温存するべきだった。それに探索の術を行使する事による魔力を感知されたら目も当てられない。


「遅い」

そう声がして真後ろから稲妻の術ライトニング・ボルトが飛んできた。もちろん躱せる筈がなくクリスの右腕は吹っ飛んだ。激痛がクリスを襲う。


──ぐっ!!!

もちろん反撃などできる訳はないが、それでも戦意を損なわずに振り向けたのは大したものだった。しかしさすがにそこまでである。


「12分持ったか」

稲妻の術を使った人物はそう言ってクリスに歩み寄り、凄みのある笑みを浮かべた。


「あーあー痛そうだねえ」

男は偽悪的な笑みを浮かべてそう言った。


「さてボーンくん。その腕の治療には些か費用が必要だがどうするかね?」

この世界には治癒の術ヒールという術もあるが、それは四肢欠損を再生できるものではない。現代魔法で行えるのは義肢を作って神経を通わせ、その表面に培養皮膚を移植するところまでなのだ。それとてとても高額で、庶民が受けれる手術ではない。しかし男の口ぶりはその常識を覆すものであった。


「……おねが……ます」

クリスは息も絶え絶えの声でかろうじて言った。これも大した胆力である。普通四肢欠損などしたら痛みと失血と生存本能により即失神もあるのだ。


「まあ今日は頑張ったからオマケして三日分にしておこう。……あら失神したか」

クリスは白目を向いて失神した。男は台帳を取り出し、約束の三日分を書き込むと、クリスに手をかざした。クリスの右腕はほぼ瞬時に再生された。男はクリスと半焦げになった元の右腕を持ち上げて帰路に着いた。


本人には言わないが、男は食材としてのクリス・ボーンにもある程度の価値を見出していたのである。値引きディスカウントの理由はそれだった。

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