三月二十一日
歩いて、倒して、また歩いて、倒して、少し休んで、歩いて___
それを繰り返しながら三人でぐるぐると坂を下っていった。そして坂の終わりに、また目の前に巨大な鳥居が現れた。
ホログラムのような揺らぐ見た目は先程と似通っているが、額の上、長い方の貫の部分からの柱を支える石製の台座の上の部分までを
「・・・んんー・・・?」
俺が盾を地面に突き立てて息を整えている間に、久山は変な表情をして地面に伏せて鳥居の下の隙間から向こう側を覗き込んでいた。
「何か見えるか?」
「暗くてよく見えない・・・けど、奥は広い空間になってるみたい。」
久山はそう言うと立ち上がって身体に付いた土をぱっぱっと払い落とした。
「広い空間に・・・ってことはここが霊域の終わりか?」
「どうだろう・・・色々とイレギュラーな霊域だし、複合霊域って可能性もあるかも・・・」
「確かに。」
鳥居でエリアが分けられていたのだから、もしかしたら複数の霊域がくっ付いている可能性も捨てきれない。
二人で顔を見合せてうーんと唸っていると、不意に神原が御簾に指先を触れさせた。
「兄さん?」
その様子を不審に思った久山が問いかけるように呼び止めると、神原はゆっくりとこちらを見て口を開いた。
「・・・どうしても行くの。」
「まだそんなこと言ってるの?」
久山にそう返されて神原はよろめいて二、三歩後ずさった。ぐっと顔を歪ませて、無理やり諦めるように首を左右に振ると、意を決したように口を開いた。
「・・・分かったよ。僕は権能の効果を再生だけに絞るから、攻撃はサヤと平里でお願い。」
「兄さん?・・・・・・分かった。任せて。」
神原の急に雰囲気が変わったことに久山は不思議そうな顔をしたものの、なにも聞かずに指示を受け入れた。
「あと、この先は広いから僕は霊力の出力を最初から最大にしようと思う。」
「つまり・・・三次覚醒の権能を使うのか?」
「そういうこと。龍に
「もしかしたら?」
そこで言葉に詰まった神原に俺が問いかけると、神原は口を押さえて俯いた。
「・・・なんでもない。それよりもサヤ、少し前に二次覚醒の前兆あったよね?今はどう?」
「え!?ああ、えぇっと・・・今は・・・」
神原の質問が思いもよらなかったらしく、久山は慌てて自身の手首を掴んだ。
「うぅーん・・・ダメみたい。なにも・・・」
「そっか。それなら平里はサヤのこと守ってくれる?かなりの耐久戦になると思うから。」
「久山が攻撃に専念できるように、ってことだな?」
俺がそう言って盾を軽く持ち上げると、神原は頷いた。
「そういうことなら分かった。久山もそれで良いな?」
「うん!頑張るよー!」
俺がそう久山に確認を取ると、久山はおー、と拳を突き上げて返事をした。そんな久山の様子に神原は金色の目を細めると、再び御簾に向き直った。
「それじゃあ・・・いくよ。覚悟はいい?」
「それは兄さんの方でしょ。私は最初っから覚悟できてるんだから。平里は?」
「俺ももうとっくにできてるぞ、覚悟。」
神原の呼びかけに久山と俺がそう返すと、神原はへにゃりと眉を下げて困ったように笑った。
「しまらないなぁ。」
そう呟いて神原は力いっぱい御簾を鳥居の内側に向けて押した。
御簾が向こう側にはためいた___と思った直後、周囲の景色が一変した。
大穴の底であることは変わらないのだが、先程まで歩いてきた坂道や目の前にあった鳥居がなくなり、足元の土は石畳に変化した。
「なっ・・・」
「動かないで!」
突然の変化に面食らって左右に目を配っていたが、神原の注意で動きを止めた。その間にも石畳は中央の方へと一直線に伸びていき、その両端に入口の鳥居とよく似た赤色の、壁部分が和紙でできた小鳥の巣箱のようなものが上に載った燭台が等間隔で地面から生えた。
「なに、コレ・・・」
久山は臨戦態勢を取りながらも、うわ言のようにそう呟いた。
それでも留まることなく、景色は目まぐるしく変貌を遂げていった。
石畳の直線に沿って赤い花々を付けた木々が先程の燭台のように地面からにょっきりと生え、石畳の終点には歪な石造りの鳥居と、熊の腕程の太さもあるしめ縄がかかった
「・・・あそこに、この霊域の主が・・・?」
変化が収まったことを確認して、俺は誰に向けるでもなくポツリと零した。
「冷静に考えて・・・そう、なんじゃない?」
久山はそう言って、何かに戸惑うようにしばらく目を瞬かせていたが、やがて自らの頬を軽く叩いた。その様子を見ていた神原は少しだけ怪訝そうに眉をひそめた。
「サヤ?大丈夫?」
「大丈夫。やれる。」
久山の返事に神原は「そう」、と一言だけ返して俺の方を見た。
「平里。サヤのこと、ちゃんと守ってね。」
「ああ、任せろ。だからお前はお前のやるべきことに集中してくれ。」
俺が頷いて盾を掲げると、神原は緊張した面持ちで頷き返した。
「死なせないように、頑張るから。」
そう言って神原は権能を発動させた。
白い光が神原を包み込んだ次の瞬間、神原は純白の龍の姿になっていた。
「・・・死なないでね。」
神原はそう言い残すと上へと飛び上がった。そして穴の中央あたりでくるりと一回転すると、キラキラと真珠のような雨が降り出した。
そしてその雨粒が石畳を叩きつけると同時に___熟れた果実が甘く
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