三月二十日
「・・・これから、どうする?」
「どうするったって、進むしかないでしょ。もう三人もいないんだから・・・・・・」
「それは・・・・・・そう、だけどさ。」
二人の会話を聞きながら、壁に並んだ松明が神原の頬に影を落とすのをぼんやりと眺めていた。
甲等級だなんだ言われたって、結局俺は弱い。あの時だって、俺が自力で対処出来たなら小鳥遊は死ななかった。茜塚だって、大岩だって。俺がもっと周囲を警戒していたら___。
もうなんの意味もない後悔をして、岩壁に身を預けて上を見た。
すっかり天井も見えなくなった大穴が、こちらをせせら笑っているように感じて俺はぎゅっと上着の裾を引っ張った。
「・・・ね、ねぇ。もう、もうさ。帰らない?」
神原の引きつった声に俺はハッとした。
「帰る?」
「そうだよ・・・もう帰ろうよ。撤退したところで誰も責められやしないよ。だってもう充分よくやって___」
「そんなの、できるわけないじゃん。」
神原の言葉を遮って久山は首を振った。
「逃げたいなら・・・生きていたいなら兄さん一人で逃げて。私は・・・私が逃げる訳にはいかないから。」
「なんで!」
微かに震える手をぎゅっと握りしめて久山がそう言うと、神原は目を見開いて叫んだ。
「兄さん、落ち着いて。」
「このままだと死ぬって分かってるならなんで!!!」
久山の手首を縋るようにグッと掴んで、そのまま神原は膝から崩れ落ちた。
「逃げようよ。サヤにも平里にも、死んで欲しくない・・・・・・」
膝をついて俯く神原は、涙こそ出ていないものの泣きじゃくる幼子のようだった。
見た事ないほどに取り乱した神原の様子に久山はオロオロと狼狽えると、こちらに視線を向けて口を開いた。
「・・・・・・平里は?」
『どうすべきか』の指針を失って惑ったような、迷子の子どものような。久山はそんな声色で俺に答えを求めた。
「俺は・・・・・・。」
このままじゃ死ぬ。そんなことはとうに知っていた。
繰り返しの中の最後の記憶は、いつもあの鳥居だったのだから。
それでも。
生きていて欲しい人がいるから。
笑っていて欲しい人がいるから。
俺は。
「俺は、このまま進むべきだと思う。」
「・・・分かった。ありがと平里。これで決心がついたよ。」
俺の言葉を聞いて吹っ切れたように笑った久山と、対照的に絶望したような表情でこちらを睨みつけてきた神原の姿が、今も頭から離れない。
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