第003話 久遠

—— 最近、ゴブリンを滅多に見なくなった。


 あれは大事な餌なのに。

 液体からだが大きくなった所為か、少し物足りなかったけれど。

 それでも、この洞窟で手に入る貴重な魔素だ。


 ゴブリンが減ったからか、やって来る冒険者も減ってきた。

 洞窟で血を流すモノは殆ど居なくなった。


 そこに居るだけでダンジョンの魔素は吸収できる。

 しかしそれも、最近は随分と薄くなっていた。


 入ってきた動物を食べてみたが、ほとんど魔素を含んでいない。

 捕らえる為に大きな液体からだを動かしたので、逆に減ったかもしれない。



—— ゴブリンを最後に見たのはいつだったか。


 あれは貴重な餌だったのに。

 液体からだが大きくなった所為か、幾ら食べても満たされなかったけれど。

 それでも、この洞窟で手に入る貴重な魔素だったのに。


 ゴブリンが姿を消して、冒険者はたまに様子を見に来るだけになった。

 戦いもなく、洞窟で血を流すモノは居なくなった。


 そこに居るだけでダンジョンの魔素を吸収できた。

 今はもう、感じることも難しくなってしまった。 


 いつしか動物も姿を見せなくなった。

 もう食べるつもりは無かったから、どっちでも良かったのだけれど。


 泉だったそれは、気付けば部屋一面に広がっていた。



—— 二人の冒険者が入ってきた。


 食べるつもりは無かったけど、液体からだの中に入って来たから少しだけ吸収した。

 勝手にやってきて、それでいて動物より濃い魔素をくれる。


 それからも、たまにやって来る冒険者から魔素を吸収するだけの時間が過ぎた。


 大きくなったが動けば、余計に魔素を消費してしまう。

 魔素を求める本能と、消費することへの忌避感。


 それは生物として仕方のない事だろう。

 その身を構成する魔素が尽きてしまえば魔物は消えてしまうのだから。


 そしていつしか、冒険者もこなくなった。




—— 男が独り、倒れていた。


 どうやらスライムにやられたらしい。


 そのスライムがいつから居たのか、いつの間に居たのか。

 それは定かでないが、倒れた男の頭にスライムが取り付いていた。

 だから、そのまままとめて呑み込んだ。

 

 人も、魔物も、こうして取り込むのはいつ振りだったろうか...。

 久しぶりの感覚に本能が刺激された。本能が想起した。


 もっと魔素を ―― 。

 もっと大量の魔素を ―― 。


 それに知能など無い。

 あるのは魔素を求める本能だけだ。


 その本能が告げている。

 ここに魔素が無いのなら、ある所まで行けば良いのだと。


 に動き回る自由は無かった。

 

 動けないなら、大きくなれば良い。

 それは今までずっとやって来たことだ。


 ずっと大人しくしていたお陰で、随分と液体からだに魔素が満ちている。

 これだけあれば、すぐに消滅することもないだろう。

 あとは消費するよりも早く、消費するよりも大量に吸収すれば良いのだ。


—— は、本能のおもむくままに動き出した。

 

——————————

Tips:ダンジョンの消滅

 維持する魔素が不足した時に消滅するが、ダンジョンは付近の魔力を吸収している為、滅多に起こることではない。稀ではあるが、近くに発生したダンジョンで格差が大きい場合、魔素の奪い合いに負けたダンジョンが消滅した例が確認されている。

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