第004話 静寂

—— ビクン


 …と、大きく跳ねた後、それは動かなくなった。

 は首から血を流し、同胞彼女の身体ごと赤く染まってゆく。


 縄張りを追われ逃げ込んだ洞窟。

 そこで得た力で、外に戻れると思った。

 しかし現実はどうだ。


 共にあった同胞も、守るべき子も、跡形も無く消え去った。

 愛した同胞彼女は目の前で永久の眠りについた。


―— 私が逝くまで、待ってくれているだろうか。


 この老人ゴブリンがやって来るのがあと一日遅ければ、結果は違っていたかもしれない。

 あと一日早ければ、為す術もなく蹂躙されていただろう。そういう戦いだった。


 老人ゴブリンが洞窟を休みなく歩いてきていたのは分かっている。

 大部屋に入ってくる前に休憩されていれば、もっと道中で魔力を温存していれば。

 たったそれだけのことで、結果が変わっていた可能性はある。

 ただし、それは悪い方に。


 自分達に出来ることは無かった。

 そう理解わかっていても、それでも —— 。


—— あぁ、私達はこの洞窟に来た時点で終わっていたのだろうか。

—— この洞窟と同じで、行き止まりだったのだろうか。


 自然に生きるモノとして覚悟はしていた。

 ただ、何もできないこの状況が、想像以上に堪えただけだ。


 そして、それももう終わりを迎える。


 彼は同胞彼女の顔に寄り添い、眠るようにその眼を閉じた。


—— 静寂が戻った洞窟に、赤い水たまりが広がっていた。


——————————

Tips:イレギュラー

 適正より下位のダンジョンに出現した魔物。強力な魔物が下位ダンジョンに棲み付いた場合、その魔物が吸収する魔素量がダンジョンの回収する魔素量を上回り、再出現リポップに必要な魔素が不足することがある。普段見られる魔物が姿を消した時には、大物が潜んでいる可能性が高い。

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