第004話 帰路

「お疲れさま、格好良かったよ」


 そう言いながら差し伸べられた手を取り立ち上がった。


「そっちこそ、叫んでくれて助かったぜ。それで、あいつの怪我は?」

「大丈夫。軽い火傷はあったけど、ちゃんと治ったよ。それより、君の方は大丈夫なの?」

「そりゃ一安心ひとあんしんだ。俺も問題ない。とりあえず、集まって状況確認といくか」

「それがいいね。肩、貸した方が良い?」

「大丈夫だ。そんなら念の為に警戒頼む」


 そんな会話をしながら、覚束無い足取りで仲間の元に向かう二人。


「悪い、さっきは助かった」

「誰も気付いてなかったんだ、ありゃ仕方ねぇよ。むしろすぐ動いてくれて助かったぜ。二発目が来てたら流石にヤバかった」

「私も、すぐにカバーに入っておけば良かったわ。ごめんなさい...」

「それは僕も同じだね。でも反省はその辺にしておこう。今は無事に帰ることを考えないと」


 戦闘は短時間だったとはいえ、ここまで歩いてきた疲れもある。装備の確認や体力について確認しながら、軽い休憩を取ることに決まった。とはいえ、周囲の警戒は欠かせないのだが。


「じゃあまずは俺からだ。さっき火の玉受けた衝撃で盾が少し歪んじまった。普通に使う分には問題ないと思うが…帰ったらすぐにでも修理頼まねぇと、親父にドヤされちまう」

「俺は剣も盾も問題無さそうだ。流石爺ちゃん自慢の剣、思いっきり地面割っちまったが刃毀はこぼれ一つしてないぜ。それよりこの魔石見ろよ、やっぱ俺の日頃の行いだって!」

「危うく死に掛けたのに、あんたってほんっっっと元気ね...。でもほんと、他のやつの倍近いサイズじゃないこれ」

「これは…凄いね。あいつのことも含めて、ギルドにはしっかり報告しておかないと」


—— 携行食や水分補給も済ませたところで、誰にともなく立ち上がった。


「そろそろ戻ろう、ゆっくりしすぎると再出現リポップに捕まるかもしれない。入り口付近は仕方ないけど、今の状況じゃ余計な戦闘の可能性は減らしておきたい」

「そうね。で、さっきから気になってたんだけど、あんたが持ってるその棒は何なの?」

「ん、これか?あいつの持ってた杖だよ。真っ二つになっちまったけど、今日の記念に良いかなって拾っといた」

「まったく…それで、体力はもう平気か?」

「おう!それに、疲れた状態でも動けるようになれって、爺ちゃんに吐くまで走らされたからな、それに比べりゃ...」

「あー…なら後ろは任せる、先頭は今回も俺が行く。二人は念の為、いつもより後方に気を払ってくれ」

「わかったわ」「任せて」


 そこからは、幸いにも再出現リポップする前に抜けられたらしい。一度だけ、角を曲がってすぐ背後に現れた気配があったが、声を潜め、戦闘も無く最初に休憩した場所に戻ってきた。


「ったく、流石に角曲がってすぐ背後に出てきた時はビビったぜ」

「見てる範囲では再出現リポップしないって言うけど、逆に言えばすぐ後ろに出てくる可能性もあるってことだね。それも聞いてはいたけど、実際遭遇すると心臓に悪いよ...」

「多少なり人が魔素を吸収するから、集団の近くでの再出現リポップは滅多にないらしいがな。それもどこまで本当のことやら。なんなら、背後に出てきた奴にそのままられたから分かってないだけって可能性だってあるんだ」

「ちょっ、おどかさないでよ...」

「兎も角、すぐ後ろで再出現リポップしたってことはだ。もうこの先は再出現リポップ済みだと思って行くぞ」


 とは言っても、来た時と比べればその動きは雲泥の差だ。洞窟を歩くのにも慣れ、おまけに僅かとはいえ最適化も進んでいる。残る二人も、遅れはしたが無事に最適化が進んだ。その結果、思ったより大きくなった炎が、ガキ大将の前髪を焦がしたのも思い出と言うものだろう。


 そんな一幕ひとまくもあったが、四人は再び森の中にいた。背後には変わらず佇んでいる洞窟。ただ、来た時よりも心做こころなしか小さく見えるのは成長した証だろうか。


「あーくっせぇ、それにチリチリする」

「ほんっとごめん、次までに加減出来るように頑張るわ...」

「ふふっ…でも、何事も無くて良かった。大丈夫そうならこのまま森も抜けちゃおう」

「だなー、さっさと帰って飽きるまで惰眠を貪りたい」

「それはお爺さんが居る限り無理だと思うよ」

「くっそ、いつか絶対に爺ちゃんに勝って好きなだけ寝てやるッ!!」


「よし、それじゃあ帰るとするか」

「「「おぉーっ!!」」」


—— 未来がどうなるかは分からない。だが、彼らの表情かおはとても輝いていた。


——————————

Tips:死体

 ダンジョン内で死体を放置すると魔素として分解・吸収される。また、魔素を多く含むほど分解までに時間が掛かることが分かっている。討伐依頼を受けている場合、分解されるまでに討伐証明となる部位を回収する必要がある。

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