シロ
ボクの名前はシロ。犬だ
ころんと小さな純白の犬
人懐っこい可愛らしい犬
ボクの命は程なく尽きる
死ぬのは大して怖くない
ボクに与えられた一生は
あまりに残念過ぎたから
ボクには特殊な力がある
金銀財宝を見つける力だ
人はボクの能力に気付く
そうして私利私欲を廻る
肥えた脂っぽい声が呼ぶ
欲めいた瞳でボクを見る
親切や好意なんてものは
見返りなければ貰えない
そんなつまらない一生涯
最後くらいは夢を見たい
触れてみたい抱かれたい
愛でボクの名を呼ぶ人に
寿命がだんだん近づいて
ボクの性格はひねくれた
あまりに卑しい人間には
金銀代わりに
ほらね見てみてあの顔を
山なりに弧を描いた瞼が
途端に
人間なんてそんなものだ
このまま死んでいくのか
諦めかけたそんなある日
ボクの体は宙に浮かんで
温かい腕の中にスッポリ
ボクを拾ったお爺さんは
しわくちゃな頬を寄せて
ボクをひたすら愛で続け
ボクを只々、抱きしめた
では手始めに小判を一枚
口に咥えて、差し出した
きっと目の色変えてくる
ボクを道具として考える
けれどもお爺さんは言う
「喉に詰まらせては大変だ
その代わりにこの小判で
美味しいごはんを買おう」
お爺さんは自分の飯より
温かい飯をボクにくれた
なんだろう。この気持ち
なんだろう。この気持ち
それから後もお爺さんは
ボクが小判を出すたびに
頭を撫でて抱き締め笑い
ボクへの飯を豪勢にした
嗚呼……死にたくないな
生まれてから初めて思う
この気持ちに気づくのが
まさか死ぬ間際だなんて
ボクはふらり、家を出た
隣の柵に手を掛け見ると
覚えのある瞳がギラめく
「金銀出す犬、盗み出せ!」
そうだ。これでいいんだ
人間とはこういうものだ
お爺さんの優しさなんて
信じられる訳がないんだ
どうして信じられない?
どうしてボクは逃げた?
お爺さんの腕の温もりを
どうして諦めたのだろう
その時やっと気がついた
ボクはボクが忌み嫌った
人間となんら変わりない
「なんだこの犬
金銀財宝出しやしないぞ
こんなふざけた犬っころ
今すぐなぶり殺してやる」
ごめんね優しいお爺さん
そう鳴き
ごめんね愛しいお爺さん
そう鳴き
地面に伏せたボクは笑う
お爺さんの顔でよかった
嗚呼お爺さん泣かないで
どうかこれからも元気で
ボクは冷たい土の中から
最後の最後に恩返しする
土よりグンと木を伸ばし
作った
燃えた
ボクの生涯、一花咲かす
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